日韓冷却と韓中接近(中)

日韓はどうしてここまで冷え込んだのか。韓中接近はどこまで進むのか。そもそも韓国にとって日本、中国とはどういう存在なのか。延世大学の文正仁(ムン・ジョンイン)教授はどう見ているのか。

日韓はどうしてここまで冷え込んだのか。韓中接近はどこまで進むのか。そもそも韓国にとって日本、中国とはどういう存在なのか。延世大学の文正仁(ムン・ジョンイン)教授はどう見ているのか。

--------日韓関係が冷え込む傍ら、韓国は中国に寄って行っているように見えます。

■戦略的な思考の欠如

日本で出版された、そういう手合いの本を読んだ。しかし、そもそも、そんなふうにさせているのはどこか、ということだ。

米国は覇権国家であり、中国が新しく浮上してきている。そんな米中が北東アジア、そして世界の秩序を話し合っていこうとしている。日本と韓国は、場合によってはそこから完全に排除されかねない状況にある。

こういう時にこそ、韓日は協力し合い、共同の努力をしなければいけない。それなのに、日本は「韓国はなんだ。米国から離れ、日本にも敵対的な姿勢をとって中国にすり寄ってばかりいる」というようなことを言う人がいる。

そういうふうに出られると、韓国としては当然のことながら、かえって日本から離れて行かざるを得なってくる。韓国の戦略的な計算というより、日本の方がそうさせているのだ。

安倍首相をはじめ日本はもっと戦略的に考える必要がある。中国の浮上との関係でいえば、日本は韓国と戦略的に協力するのが一番重要なはずだ。

■「ファウスト的取引」

そうだとすると、日本は韓国が望むことも聞いてくれないといけないのに、自分に好都合なことだけをやっている。慰安婦問題は歴史的に事実だったのかといい、過去の問題や独島(竹島)の問題でも攻撃的に出てくる。

そういう状況をつくって朴槿恵大統領を困難な状況に追いやる。それでいて「われわれは米国を中心に日米韓の3国で協力し合わなければならない。日韓はうまくやらないといけないではないか」と。そんな中で、どうして韓国の大統領が日本の指導者の話を聞けるというのだろうか。

安倍晋三首相には国内的な事情もあるのだろう。しかし、それによって日韓の重要な戦略的協力関係を傷つけてしまっている。「ファウスト的取引」といっていい。ファウストは永遠の生命を得るために悪魔メフィストフェレスに魂を売った。安倍首相は国内で政治的な支持を得るために韓国との戦略的な提携を犠牲にしているのではないか。

--------日本には逆の見方があります。朴槿恵大統領の方こそ、反日感情を利用して国内の支持を取り付けようとしている、と。

■大統領の政治的負担

そういう面は確かにある。朴槿恵大統領が日本に原則的な立場を貫いているのには父親の朴正熙元大統領のこともある。朴正熙氏と安倍首相の祖父岸信介元首相がともに、かつての旧満州国と深く関係していたことに絡んで朴槿恵大統領は大きな政治的負担を感じている。

一昨年の大統領選の時のことだ。朴槿恵陣営は国際的な人脈の広さをアピールしようと以前に安倍氏といっしょに撮った写真を広報リーフレットに載せた。ところが、朴正熙政権時代、そんなかつての満洲人脈が韓日経済協力のパイプ役となっていたなどとする野党や一部マスメディアの非難攻勢に遭い、結局、問題の写真を削除せざるを得なくなったりした。

安倍首相はそんなことは意に介していないようだ。逆に、自分の祖父と朴槿恵大統領の父親との間に共通項があった分、大統領とはうまくいくとみていたのではないか。安倍首相が政治的資産と見たものが、朴槿恵大統領には負担になったというわけだ。その分、安倍首相に対してはかえって慎重にならざるを得ない。

朴槿恵政権のスタートにあたって安倍首相はそこのところをよく理解し、慰安婦の問題についてだけでも前向きに対応すべきだった。それなのに逆に自分の方でやりたいことをやり、朴大統領に配慮しなかった。その結果がいまのようなことになってしまった。

--------朴槿恵大統領は慰安婦問題へのこだわりがとくに強いようにみえます。

何と言っても女性大統領だ。しかも、独身。その分、そうした問題にはより敏感にならざるを得ない。朴大統領は象徴的な意味においてもこの問題では原則を通す以外にない。安倍首相を含め、日本の専門家らにもその辺についての理解がまったくない。

--------そうしたことが「中国接近」と結びつく、と?

■中国の努力

朴槿恵大統領自身、中国を重視していることもあるが、中国は自らの立場において大変な努力をしている。昨年10月、私は中国で党の関係者らと会ったが、彼らは「いまは韓国と中国が協力すべき時だ」と口をそろえていた。領土、歴史、そして日本が「普通の国」になろうとしている問題について韓国と中国は共同戦線を組むべきだ、というのだ。

彼らは、こんな話までした。--------東アジアは10年周期で経済危機に見舞われている。1997年、2007年と来て、こんどは2017年になる。そして、それはアベノミクスの失敗によってもたらされる可能性が大きい、と。こういう状況にあって韓国と中国は協力し合わなければならないというのだ。

そんななかで、中国側による(1909年、伊藤博文を暗殺した)安重根の記念碑づくりの話も進み、ことし1月、現場のハルビン駅での「安重根記念館」となって実現した。

これは、韓国としては歓迎するほかない。結局、日本は韓国を中国の側に追いやり、中国は韓国を懸命に引きつけようとしている。(韓国との同盟国の)米国はこれをみて不安に思い、初めは韓国を批判したりもしていたが、安倍首相が靖国神社を参拝してからは、そんなことも言えなくなった。

--------米国も変わった?

■日本に勝ち目のないゲーム

私はつい先日、米国から帰ってきたばかりだが、米国内の空気は、大きく変わってきている。以前は、朴槿恵大統領は国内の政治目的のために韓日関係を悪用しているという見方もあったが、靖国参拝後は、安倍首相には希望が見えないというふうになった。

過去のことで言えば、厳密な意味では米国も日本の犠牲者といえる。真珠湾攻撃、そして戦場で多くの米国の若者が死んだ。安倍首相とその周辺の言動は、米国民にいま、日本についての悪い記憶を甦らせている。

米国だけではない。過去の問題をめぐる日本批判はいま、国際社会全体に広がっている。安倍首相らは、勝ち目のないゲームをしてきたといっていい。(以下、次回に続く)

<文正仁教授のプロフィール>

ムン・ジョンイン 1951年済州市生まれ。延世大卒、米メリーランド大政治学博士。米カリフォルニア大教授などをへて延世大政治外交学科教授。慶応大学や北京大学でも招聘教授。2000年と07年の平壌での南北首脳会談のさいの特別随行員、盧武鉉政権下で大統領諮問東北アジア時代委員会委員長など。韓国でベストセラーになった『中国の明日を問う』(2010年)など著書多数。

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