中国を歩いて気づいた食の安全性の大切さ

海外から入ってくる食品はどのように生産されているのかわかりにくいため、地元で生産されるものを買ったり、自分たちで安全な食べものを作ったりすることが大切なのです。

今や、食のグローバル化が進み、海外から輸入される食材が増えてきました。と同時に食の安全性の問題も、重要になってきました。今回は、私が食の安全性について考えるきっかけとなった出来事についてお話します。

2007年から2008年にかけて、私は夫のポール・コールマンと共に、中国を歩いて木を植える旅をしました。2006年のアースデイ東京フレンドシップ・ウォークで中国を歩いた時に、中国の李林業局長と面会し、「北京オリンピックは環境オリンピックになるから、何かそれを助けるようなことをしてもらえないか」と言われたので、それならば、オリンピック開催に向けて、一年かけて香港から北京まで歩き、人々と木を植え、環境保護のメッセージを広めようというのが、旅の目的でした。

李林業局長との会談 PHOTO: KONOMI KIKUCHI

香港をスタートした時は、20人ほどが参加して一緒に歩き、国境を越えて、深圳市に入ってからしばらくは、2人で歩きました。福建省に入ってからは、日本人の男性や、中国人の大学生ら、60代の元赤軍の男性も加わって、7~8人で歩きました。

行く先々で、林業局の方々と木を植えたり、大学や高校で講演会をして植樹をしたり、また、道中で出会った一般の人々が植樹をアレンジしてくれたり、テレビやラジオ、新聞、雑誌などで取り上げられたりと、旅は順調に進み、中国の人々の親切さや温かさに触れ、たくさんの人に助けていただきました。

中国の大学生らと共に歩く PHOTO: PAUL COLEMAN

大学生らが主宰する環境グループとも植樹 PHOTO: KONOMI KIKUCHI

しかし、ほぼ毎日のように、環境汚染のひどさも目の当たりにしました。川や海の汚染、飲料水の汚染、工場や排気ガスの大気汚染、あちこちに捨てられたゴミの汚染、大量にまかれる農薬など、オリンピックを目前にして急成長をしていた中国では、汚染もそれに合わせて激化しているようでした。江西省と安徽省の州境など、自然が多く残っている場所もありましたが、それでも、川の水が澄んでいたのは、1年間歩いたうち、5日か6日のみでした。

アヒルが育てられている環境も良いとは言えない(福建省) PHOTO: PAUL COLEMAN

私たちが歩いた範囲では、福建省の武夷山国立公園やその近くで、無農薬でお茶が作られていました。しかし、農薬を散布していた農家の人たちは、ほとんどマスクをしていず、農薬の危険性を知らされていないようでしたので、このままでは、多くの人が健康を害するのではないかと、心配しました。

そんな中、一番ショックを受けたのは、福建省の山の中を歩いていた時でした。真っ黒な川面に白い泡が湧き、どろどろと下流へ向かって流れていたので、「一体、どうしてこんなに汚染されているのか」と思いながら、さらに山を登っていくと、上流に小さな川がありました。

そして、そこには、子豚の死体が何十匹も捨てられていたのです。川は、豚の糞と血で毒々しい色に染まり、そばには、使用済みの注射器や薬品の瓶も一緒に捨てられていました。

私たちは、ショックで立ちすくみ、あまりにもひどい光景に心が痛みました。一緒にいた中国人の学生たちも言葉を失い、しばらく、その場を離れることができませんでした。60代の男性、楊(ヤン)さんも驚愕のあまり、唖然としていました。

さらに上流には、いくつも養豚場がひしめきあい、屠殺場があり、豚の叫び声が山間にこだましていました。その日の夜、私たちはみな、肉を食べることができませんでした。そして、私とポールは、その日から肉を食べるのを止めてしまいました。

なぜ、こんなに多くの子豚が死んだのか、その時にはわかりませんでしたが、その後、ちょうど同時期に豚インフルエンザが流行っていたことがわかり、恐らくは、子豚がインフルエンザで死んで処分に困ったので、川に捨てたのだろうと私たちは推測しました。

しかし、川に捨てたら衛生上、問題になることは明らかです。この川は福建省の州都、福州の市民の飲料水になる貯水池へ流れていく川です。下流にいる人たちの飲料水のことなど、全く考慮に入れられていないということや、養豚場の汚水処理のために浄化槽を設置することが法律で義務付けられてはいるものの、浄化槽の電源を入れなければならないという法律がないので、コストを節約するために、みな電源を入れないのだということなどを知って、中国人の大学生たちも楊(ヤン)さんも、ショックを受けていました。

中国での徒歩の旅は、様々なことを気づかせてくれました。

中国など急速に発展している国で環境を汚染しながら生産されている食品は、世界中にいる私たち消費者の需要があるからこそ、生産されているのだということ。これらの国の人たちは、環境汚染の被害を最もダイレクトに受けているのだということ。

そして、海外から入ってくる食品は、どのように生産されているのか、わかりにくいため、地元で生産されるものを買ったり、自分たちで安全な食べものを作ったりすることが、大切だということなど。

帰国後、私たちは、中国で経験した現実を日本の皆さんにも知ってもらおうと、全国で講演会を行いました。

講演には、ポールの長年の友人であるジュネス・パークさんを南アフリカから招待して、ジョイントで行いました。ジュネスさんは、ポールが南アフリカを歩いた時に、第2回地球環境サミットでの植樹を手配するなど、親切に助けてくれた女性です。

彼女自身も、20年前にフード・アンド・ツリー・フォー・アフリカ(FTFA)という団体を作り、南アフリカ各地で植林活動をし、パーマカルチャーという有機農法をタウンシップ(黒人居住区)にある小学校やコミュニティーに広めて、貧しい子供たちやコミュニティーの人たちが安全で栄養のある有機野菜を自分の手で作って食べられるようにする活動をしていました。

講演会では、ポールが中国での現状を話し、ジュネスさんが南アフリカの子供たちが校庭で有機野菜を作っている様子をスライドショーで見せて、これからの解決法の一つを提示するという方法で講演を行いました。

ポールは、講演の最後に必ず、こう強調しました。

「私たちが中国などを含めて海外から安い食品を買えば買うほど、その国の環境は汚染されていき、人々が健康を害していきます。ですから、私たちが、環境汚染するような方法で作られた食品をなるべく買わないようにするのが、その国の人のためでもあります。私たち消費者が、有機のもの、安全なものを買うように意識すれば、海外の生産者も消費者のニーズに合わせて、安全な食品を作ろうとするでしょう。

さらに大切なのは、地産地消です。大量生産、過剰消費は、持続可能な方法ではありません。このままでは、地球が持続しないことは、明らかです。私たちにできることは、自給率を高めること。家庭や学校、コミュニティーなどで、食べ物を作り始めることが必要です。輸送する距離も短くなり、フットプリントも軽くなり、より持続可能になるでしょう」

そして、ジュネスさんが、このように講演を締めくくりました。

「私たちに出来ることは無数にあります。私も20年前は、3人の子供を抱えるシングルマザーで、資金はゼロでした。自宅のガレージを事務所にし、『南アフリカのアパルトヘイトは終わったけれど、黒人の人たちの貧困と飢餓は少しも改善されていない。彼らが自分たちで野菜を作り、木を植えて、生活環境を良くすることで、自分たちの力を取り戻す手助けをしたい』という情熱だけで、この活動を始めたのです。

今では、南アフリカの300校以上の学校が『エジュプラント』というプログラムに参加しており、子供たちが有機野菜を作り、学校給食にすることでエイズに対する免疫力も高まるようになりました。

また、両親に収入がなく、十分に食べるものがない家庭や、両親がエイズで亡くなって子供だけで住んでいる家庭などに、学校で作った野菜を無料で配ったり、余った野菜をコミュニティーに販売して、子供たちの文房具を買ったりできるようになったのです」

校庭で有機野菜を作るエジュプラント・プログラム PHOTO: FTFA

また、講演後、日本のメイク・ザ・ヘブンという団体と共同で、南アフリカのタウンシップで現地の大人や子供たちとパーマカルチャーの菜園を作り、木を植えるというツアーを企画し、120人の日本人のボランティアの皆さんと共に学校や孤児院、エイズホスピスなどで菜園を作り、果樹を植えるなどの活動を行いました。

私たち自身も、パタゴニアに戻ってから、パーマカルチャー農法などを取り入れて野菜や果物などを作るようになりました。生産量は毎年増えており、これから、自給率も増えていくと思います。

現在、私たちが住んでいる村では、農業局が、人々が大きなグリーンハウスを作れるように資金援助したり、有機農家としてビジネスを始められるように援助したりしています。

村の中心地にも、昨年、コミュニティーガーデンが作られ、村人が共同で野菜を育て、収穫できるようになりましたし、私たちも小学校へ行って、アースバックでグリーンハウスを作り、子供たちが野菜作りを経験できるようなお手伝いもしました。

これからは、日本も中国も含めて、世界中で意識の高い人たちが増え、安全で美味しい食べ物を食べられるように、共同で畑を持ったり、学校の校庭やコミュニティーガーデンで野菜を作ったり、鶏を育てて卵を収穫したりという動きが、もっと出てくるだろうと思います。安全で美味しいものは、私たちの健康にも良く、地球のためにも良いのですから。

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