アメリカとメキシコの間に壁を作ると発言したドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれて1カ月。私がメキシコの国民に向けてこのブログを書いてから1カ月が経ちました。これからトランプ氏がどんな政治をするのか、今も疑念は解消しません。そうした疑念と、不透明な先行きへの不安は、未だに私たちの心の中に存在しています。
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劣等感を感じることはありません。大統領になるトランプ氏への不安に対処するための、シンプルな解決方法を試してみましょう。
私は今、世界16カ国で展開されるハフィントンポストの編集長全員が集まるハフィントンポスト・グローバルサミットに参加するためにミラノに来ています。
朝6時頃、眠りにつきました。目が覚めても、選挙結果が頭から離れません。今から、アメリカの歴史、そして、世界の歴史が、ドナルド・トランプ氏によって作られます。私たちの未来はどうなるのでしょうか?これほどまでFacebookの投稿があふれ、混乱や恐怖に包まれたのは見たことがありません。
朝食を食べるため、ミラノのレストラン「ラッテリア・サン・マルコ」に入りました。このお店のメニューは日替わりで、地元の人たちはいつも列に並んでその日の食事を楽しんでいます。
私の隣には65歳の女性が座っていました。誰かがその女性に声をかけ、トランプ氏が勝ったと伝えました。
「どういうこと?」と、その女性は驚いた様子で聞き返しました。
その女性と一緒にいた友人の男性は怒りをこらえきれず、コートを羽織り、すぐにその場を離れてしまいました。彼女は私を見て、「本当?」と尋ねました。
彼女はまだ、目の前の現実を受け止められないようでした。
「私たちにとっても、とんでもないことになったね!」と彼女は言いました。
「『私たち』ってどういう意味だろう?」と、私は頭の中で考えました。
「この男(トランプ氏)はコルレオーネ(マフィア)ね。ニセモノのコルレオーネかもしれないけど......」
彼女は独り言のようにいい続けました。
私は彼女をじっと見つめました。私の表情にも、周囲のみんなと同じように怒りとショックがありありと浮かんできていました。
「あなた、イタリア人?」と、彼女が私に話しかけてきました。
「いいえ、私はメキシコ出身です...」と言うのを遮るかのように、その女性はイタリア人特有の金切声を上げました。
「まあ、大変!あなた、どうするつもり?」
私はその時、何も答えませんでした。その理由を彼女は理解したようです。「何てこと!あなたたちが一番大変だわ!」
トランプ氏の矛先は、ヨーロッパよりも圧倒的に私たちメキシコ人に向いています。この女性はその後も文句を言い続け、自分の不幸を嘆いていましたが、同時に私にも同情してくれました。
また、このような差別に立ち向かうために、政治や外交は少し置いておいて、メキシコ人として、社会として、何をすべきか考えさせれらました。トランプ氏だけでなく、彼に投票した多くの人たちからから受ける差別についてです。もちろん、このすべては単なるトランプ氏の選挙戦略で、根底ではトランプ氏はそんな馬鹿げた人物ではなく、全員を一緒くたにすることはなく、移民の仕事や能力の重要性を理解している可能性はあります。しかし、ここで問題になっているは、潜在的な憎しみ(それほど潜在的でもないかもしれませんが)があるのは否定できないことです。この憎しみは世論調査でも示されず、政治評論家も認識できませんでした。
私たちは、例のトランプ氏が発言した馬鹿げた「壁」を不安に思っているわけではありません。
このすべての状況は、私たちがこれまで長い間目にしなかった形でナショナリズムや人種・民族差別、その他の差別の表面化を許容している感じがしました。そして、その変化はもうトランプ氏のサポートを必要としません。トランプ氏は門を開いたのです。トランプ氏の勝利で、そうした差別がすべて許容されるようになるのです。
私たちの歴史、そして私たちが持つ劣等感について考えると、私たちのコンプレックスがさらにひどくなるのでないか、そして、私たちの降伏を望む人々が勝つのではないかと心配になります。このネガティブな感情を乗り越える解決方法を考えましょう。誰もあなたに劣等感を持たせることはできません。
まずは劣等感をなくしていきましょう。私たちには選択肢が一切ないとは思い込まず、自分たちのコンプレックスや自分たちが持ってないもので、自分たちを決めつけるのはやめましょう。私たちの肌の色や「第三世界」の地位によって自分たちを決めつけるのはやめましょう。他の人々の言葉を借りて自分たちを表現するのをやめましょう。ありのままの自分たちを評価しましょう。
愛国心を高め、メキシコをもっと愛し、よりメキシコ人らしくなるべき時です。今回のトランプ氏の勝利は、私たちの強さに試練を与えます。私たちの立ち直る力、困難な状況を乗り越える力を試すものです。私たちがありのままの自分たちに誇りを感じず、自分たちの価値に気付けずあきらめるよりはましです。大した試練ではありません。
将来が不安に思えたり、トランプ氏の「レイプ犯」だとか「犯罪者」といった発言に侮辱されたと感じたり、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領がトランプ氏と会談した時に侮辱されたと感じたり、トランプ氏が例の壁の費用を私たちに支払わせようと圧力をかけられて侮辱されたと感じたりするなら... ...いや、侮辱されたままではいけません。侮辱されないようすればいいのです。私たちは侮辱されたままでいてはいけません。
そんなことより、私たちがやれることにもっと目を向けましょう。自尊心が高いほど、もっと多くのことが達成できます。もっと多くのことが理解できます。そしてもっと多くの幸せが手に入ります。社会全体として、私たちの自尊心が高いほど、私たちはもっと強く、美しくなれます。そして、私たちはもうフランス人やスペイン人になりたいとは思わないでしょう。私たちは頭の悪い役立たずでも、ダメ人間でもないと分かるようになります。そして私たちは強く、勇敢になり、自分のために、誰かのために、みんなのために立ち上がることができます。
私たちはゆっくりと、正しく実行するのみです。トランプ氏と同じ土俵では闘いません。「思いやり」という武器で闘いましょう。なぜなら、「思いやり」こそがこの憎しみを止めるために必要だからです。