前回のAMH検査記事の続きです。
前回、AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、卵子があとどのくらい残っているか、卵巣の予備能を表す指標になり、結婚・妊娠などのライフプランには有用な情報だとお伝えしました。しかし、あくまで、卵子の質や妊娠のしやすさを表すものではありません。
例を挙げてみました。
Aさん「私は20代ですが、AMHの値が40代の値だと言われたので妊娠しにくいですよね?」
Bさん「私は40代ですが、AMHの値が20代だと言われたのでまだまだ大丈夫ですよね?」
これは両方間違いです。
AMHは卵の残り目安であり、卵子の質を表すものではありません。
たとえば、図1のように、妊娠に結びつく質のよい卵子を赤玉とした場合、AMHが同じ値でも20代は左、40代は右のようなイメージで、極端なお話、妊娠率は左は80%、右は20%ということです。
Aさん:AMH値は低いが20代で卵子の質はよいため妊娠しにくいというわけではない
Bさん:卵子の保有数は多いが質は落ちており、同じ値のAさんほどの妊娠率は期待できない
また、10人に1人くらいの割合で、多嚢胞性卵巣といって、図2のような排卵しにくいタイプの卵巣の方がいらっしゃいます。このタイプもAMHは高値を示すため、値が高ければ妊娠しやすいとは言えません。
そして、図3のように個人差があるのも特徴です。赤丸で囲って示しているように、このグラフで一番若い24歳の群の中で一番低値の方は、40歳の平均値と変わらないのです。
(国立成育医療研究センター 齊藤英和医師資料より)
私の所属する病院では、現在、初診の方にAMHの検査を受けて頂いておりますが、3.4年前は必要時のみでした。当時はコストも高く、一般的でなかったのですが、最近の学会ではAMHを主体にした発表や報告もあり、「30歳過ぎたらAMH検査を」と推奨されています。
しかし現在でも、医師によっては、「まだ妊娠希望でないなら不要」と、してもらえなかったと耳にしました。医師に「それでもしてください」とは言いづらいと思うのですが、是非「それでも、今、知っておきたいので」とお願いしてもよいと思います。
私がみなさんに最も伝えたいと思っているのは「知らなかったをなくしたい」ということです。不妊治療の現場では、「知らなかった」「もっと早く......仕事を優先しなければよかった」という声を聞くことが少なくありません。しかしそれらは、決して患者様の責任ではなく、知る機会がなかったことに対して、生殖医療従事者として申し訳なさと悔しさを日々感じています。
確かに、妊娠しようと思ってからでもよいのかもしれません。ただ、同じしないということでも、「こういう検査でこういう利点がある、でも私はそれをしない」と自己決定できるのと、「そんなの知らなかった、だからできなかった」では、きっと、その後の気持ちや満足度は大きく違ってくるのではないでしょうか。
そして、この違いは、お金や努力で結果が出ない場合もある妊娠の問題では、その方の人生でとても意味のあることではないかと私は考えています。
検査は、施設によって異なりますが、5,000~10,000円程でできる血液検査です。予約が必要だったり、不妊治療を受ける方しか実施していない場合もあるので、事前にお問い合わせしてみてください。
今後のライフプランやワークライフバランスを考える時には、ひとつの大切な指標となりますので、妊娠を考えていない方やパートナーがまだいなくても、大学の入学時、会社の入社時、転職時など、日常生活の節目や、30歳を過ぎたら測定しておくことをお勧めしたいと思っています。
女性の妊孕力(にんようりょく:妊娠する力)は加齢によって確実に低下します。AMH値を上げることはできません。下がることを極力防ぐ方法として、禁煙、食生活や運動などの生活習慣の見直しや、ストレスとうまく付き合う方法を考えてみましょう。
◆Lealta(レアルタ)/ライター:荒木 依理(不妊症看護認定看護師・生殖医療コーディネーター)
【関連記事】