「遠まわしにカミングアウト」エンジニアとして働く40代ゲイに直接話を聞いてみた

株式会社ルクレという企業で活躍されている渋谷さん(40代ゲイ男性)に、職場でのカミングアウトやご自身のセクシャリティについてお話していただきました。
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40代ゲイでエンジニアの渋谷さんにお話を伺いました!

エンジニアとして株式会社ルクレという企業で活躍されている渋谷さん(40代ゲイ男性)に、職場でのカミングアウトやご自身のセクシャリティについてお話していただきました。

職場でのカミングアウトについて

― 「改まってお話があります。実は私、」みたいな話しとしてはしてなくて、「同居人がね」というような話しからなんとなくみんなが知っている感じです。話すときのテクニック的に、「ちょっと何言ってんのよあんた違うでしょ」みたいな言い方を使って、『この人変わってるな』という印象を与えつつ、「うちの同居人も大変なのよね」と入れてみたり、なんとなく『そうなのかな』と思わせるやり方をしています。

日常的にやり取りをする相手には「私男性同性愛者でして」みたいな言い方はしていないけど、明言はせずに「最近同性婚のニュースが~」とか遠回りをして伝える、"事実カミングアウト"みたいな形になっています。

― 組織としてフラットで、何階層もあるわけではないから、同僚のほうが言いやすいとか上司のほうが言いやすいとかは特に無かったですね。そこらへんは様子を探りながら、「この人はわりと大丈夫そうかな」といった風に進めました。立場によって変えるというよりも、その人に関連がありそうな話題を投げ込んでみて、『え、え、あ、え、』みたいな反応だと「丁寧に説明しないと疑われるかな」と感じるし、『ああ、はいはい』みたいな反応だと「ざっくばらんに話して良いかな」という感じで

― 不愉快な思いをしたことは少ないけれど、確認してくるような接し方をされたときはめんどくさかったですね。積極的に隠したいわけではないけど、はっきりと「私は同性愛者なんです」と言ってラベルを貼るようなことはなんか嫌だなと言う気持ちがあって、それが"事実カミングアウト"を選ぶ理由だと思います。ですが、嘘はつきたくないので彼女がいるとは言わないけどゲイだとは言いたくない。『渋谷さんってそうなんですか?』という聞き方をされると「心の動きを何で分かってくれないかな」と思ってしまう。

最初の頃は"事実カミングアウト"のもっと曖昧な感じでした。「同性パートナーが」という言い方をしないで、「同居人が/家人が」とか、彼女と言われたら同居人ねと言い直す形しかしなかったので、『どうなんですかほんとは』と、聞かれて嫌な思いをしたので言い方を変えていきました。曖昧にしすぎて自分も嫌な思いをするし相手も混乱していたのかも。情報を出す量を増やして"事実カミングアウト"にたどり着きました。

― 転職して入ってきたんですが、その当初から小出しにし始めてはいました。前の会社のときは「実はお話があるんです」というようなスタンスというか、気負っていたというか。

小出しにしていくのは、例えば、コンピュータのプログラムを作る仕事のテストデータを作るときとかですね。ユーザーが自分の文章とか写真をアップできるサービスを作っている。そのサービスを作る上で最初は誰もお客さんがいないから、自分がテストデータとして写真をアップしたりする。

みんなが猫の写真とかたまにアイドルの女の子の写真をアップする中で、自分は男の子の写真をアップするとかね。『なんか渋谷が作ってるときは男の子の写真が多いね』と周りが気づいて、『なんで男の子の写真が多いんですか?』とか聞かれるわけですよ。そしたら「じゃあ何であなたはおっぱい星人の写真をあげるわけ?」『いやテストデータだから』「うん、それと同じ理由です。なにか?」みたいな返しをします。遠回りながら下地を作っていく感じです。

― 話題が広がったとかはないですね。周りが気を遣ってくれているのかもしれないけれど、『最近の男性アイドルで私はこの子が好きだけど渋谷さんこの中だったらどう?』とか同じチームの女性メンバーが聞いてくれるとかはあります。仕事に関する話が出来ればあなたの私生活は別になんでもいい良き隣人としての"あなた"と私というくらいの距離感があると思います。

衝突しない程度の情報交換しかないと何か話さなくちゃいけない場を持たせるためのことしか言えないけど、テーブルに堂々と置くように、「ここに関してはいじってくれて構わないから」っていうものを出しておく。なぜ自分が男性アイドルの写真を使うのかはオトリであって、そこに関しては何を言われても自分が不愉快にならず、相手も不愉快にしない対処の仕方に慣れているからです。「単に好き嫌いの話でしょ?何か理由があって好きなわけじゃないでしょ?」という話に持っていくのに慣れているので。そういう形でコントロールしようとしているのが一番正直なところです。

怖がりなんだとは思う。本当に踏み込まれたくないところに踏み込まれないように、「ここまではオッケー」みたいな境を出している感じです。

― ラベリングされることとかですかね。すごい嫌だったんですよ。理由ははっきり分からない。ホモフォビックなわけではないと思うけど、いわゆる世間一般で言われているゲイタレントさんとかオネエタレントさんのイメージに引きづられることが自分の中で嫌なのかもしれない。黙って立っていたら『ゲイの方なんですよね』と言われないような立ち位置のつもりなんですけど、「ゲイです」って名札を貼られちゃうと(嫌)。

だから"ゲイ文化"に対する違和感はあるのかもしれない。ゲイの集まりになると、みんなゲイっぽく振舞わなくちゃいけないみたいな感じ。例えば、同窓会に行くと、その頃のクラスを懐かしまないといけないとか恩師の先生に頑張っている姿を見せなきゃいけないような感じ。なので『ゲイなんですか?』と聞かれるとすごい困る。嘘はつきたくないので「いいえ、違います」とは言わないけど「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」というのも気持ち悪い。はっきり答えなきゃいけないのは嫌です。

セクシャリティについて

― 決定的に何かがあったというのはありません。

コンピュータープログラムを仕事にしているような人は元々周りとはちょっと違う気質を持っていて、特定のものに関心があるとかこだわりが強い人が多いんですね。だから同級生が昨日やったテレビの話をしている輪に入らなかったし入りたいとも思わなかった。一人遊びを延々とやってるような子だった。そういう意味では自分は周りの子たちと違っているという感覚はありました。セクシュアリティも「あ、周りの子たちと違うんだな」って思うくらい。「他のこともみんなと一緒になれないから、このこともみんなと一緒になれないのかな」って思っていました。

僕は、歯車がたくさん入っているような時計を分解してその仕組みを考えるのが好きだけど、周りの子は全然それには興味ない、まあいつものことだよね、みたいな。周りの子はドッジボールで遊ぶのが好きみたいだけど、自分はそうじゃないんだよね。周りの男の子は女の子のことが好きみたいだけど、自分はそうじゃないんだよね。セクシュアリティだけみんなと違うと言う感覚が薄いんだと思います。

― みんなと仲間になれない理由がセクシュアリティという一箇所にあるから人と違うんだと考えようとしてうじうじしたことがある。セクシュアリティが違うと言うよりは、色々うまくいかないことがあってそこの中核を占めていたのがセクシュアリティだったということはあるかもしれないです。「他に悩みが無い。みんなともうまくいっている、問題なのはセクシュアリティだけだ!」みたいな明確な感覚はありませんでしたね。今では相対化されたというか、そこも違うし、ここも違うし、という考え方になり、気にしなくなりました。

― これがあったからスパッと決まったというのはないです。「別に大きな問題じゃないじゃん」というメッセージを持てる環境にいたのでそれが普通になっていった感じ。パートナーと暮らしていることもあるので、「こういう生き方もあるじゃん」と日々感じられるし、前に出ようとしすぎてめんどくさいこともあったけど、結婚しないと出世できない業界ではないので、あまり問題なかったですね。

― はっきりはないです。外の人とたくさんやり取りする仕事じゃないので、実務的な打ち合わせの中だと別に相手の性別なんて関係なく話せちゃう。そういうときに「実は私パートナーと暮らしてて」みたいな話をしなくてはならない状況ってあんまりないし、聞く必要もない。いたかもしれないけどはっきり話して分かったってことはないかな。

― 思わない。腕がよければ男じゃなくてもヘテロじゃなくても構わない業界なので、今自分が勤めている業界においては必要性を感じません。

― それはあったほうがいいとは思うけど、働くママにリソースを回すとか他に優遇した方がいいんじゃないのとも思います。日本社会は空気中に発生している時間が長い男性が優遇されてる社会だとは事ある毎に感じます。なので、ゲイカップルはそういう意味で優遇されやすいところはあると思っている。特に、ビアンカップルとか、Xジェンダーとか自分の身体的特徴を認めたくないスタンスのカップルとかだと大変だろうな。

同性パートナーがいる身として夫婦と同じように扱ってほしいという気持ちがさほど強くないのは、優遇されやすいゲイだからじゃないかな。『男は外で働いて女は家を守る』って感覚が今でも根強く残る中で、働くママとか仕事と子育てとって本当に大変そう。それこそ優遇されやすいカップルはいいから、働くママとかに手厚くしてくれた方がいいと思うっていうのはありますね。

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