地方に移住し働くことのリアル――各世代のパイオニアから地方を目指す若者へのメッセージ

各世代の働き方のイノベーターが多様な「働く」ことを考える「若者よ、地方を目指せ」で、地方で生業を見出した先駆者たちが、働き方を模索している人々とフラットに対話をした。

各世代の働き方のイノベーターが結集し、多様な「働く」ことを考える学びと実践の場、働き方フォーラム2015「若者よ、地方を目指せ」が三重で開催されました。

フォーラムは「三重らしい時間」や「三重ならではの働き方」を探る時間となり、これまでずっと三重で生まれ育ってきた筆者にとっても、三重で「仕事」や「地方」について考える貴重な機会となりました。

地方で生業を見出した先駆者たちが、現在働き方を模索している人々とフラットに対話を行う場作りが地方で行われることは、地方に住む者にとって本当に嬉しい機会提供です。

地方で生業を起こした先駆者たち

今回の働き方フォーラム2015「若者よ、地方を目指せ」は主に2つのセッションに分けて行われました。

第1部のテーマは「徹底解明、田舎を目指す企業と人びと」。徳島県神山町の「NPO法人グリーンバレー」で理事長を務める大南信也さんによる講演が行われました。

第2部では、第1部で講演を行った大南さんに加えて、「(株)熊野古道おわせ」で支配人を務め、三重県尾鷲市の創生に尽力する伊東将志さん。「生きるように働く人の求人サイト」日本仕事百貨でライターを務めている大越元さんを交えてのトークが行われました。

NPO法人グリーンバレー理事長 大南信也さん

徳島県神山町で生まれ育った大南さんは、スタンフォード大学院を修了後、実家の本業であった建設業に携わるため26歳で神山に戻りました。

過疎化が進む神山において大南さんは「面白い町」を作るため、「創造的過疎」をキーワードに、長期的な視点を持ちつつ小さな動きを作り出してきました。大南さんはこれまでの過程を振り返って、こう語ります。

「自分たちの力で、過疎化を食い止めるのは難しい。けれど、もう少し面白い町が出来たらと、今から20数年前に仲間とともに小さな動きを作り出してきました。

「石の上に3年」という言葉もありますが、石の上に仲間とともに20数年も座り続けてきましたら、当時冷たかった神山の意志も、最近少し温かくなってきました気がしています。

サテライトオフィスができ、さまざまな仕事を持った人たちが移住するようになりました。視察者の人たちが毎週来るようになりましたが、彼らが今見ているのは、神山で起こったことの結果。

しかし、結果の前にはプロセスがあります。神山で今起こっている「結果」をなぞっても、何も生まれないのではないかと思います。重要なのは、その時々にどのように問題に向き合ってきたかです。」

空き家に希望の職種を持った人たちに移住してもらう「ワーク・イン・レジデンス」や、東京に本社を持つIT企業が開設した「サテライトオフィス」など、神山においてさまざまな取り組みを推し進めてきた大南さんですが、全てが順調に進んできたわけではなかったそうです。

「前例がない」はチャンス

大南さんがその例として挙げたのは「アイデアキラー」の存在。

「アイデアキラー」は、出てくるアイデアに対して「前例がない」、「対処するマニュアルがない」と全て結果論で否定する人を指します。自分自身の心の中にも棲みついている「アイデアキラー」の存在は、地域作りの可能性を縮小してしまうもの。

「前例がない」状態は、時代の歯車を回すチャンスだと大南さんは語ります。

大南さん「できない理由よりできる方法を考える。もし方法が見つかったら、とにかくやってしまう。やることによって物語の展開を変え、そこから炙り出される課題、問題に1個1個対処していくこと。

とにかく始めること。なんでも「やったらええんちゃうん」と。新しい動きを作り出す人は必ず行動をしています。だから、イメージだけでなく、現象を起こしていくことが大事です。」

もともと生業のあった場所に、新たな魅力を持った人が移住することで、新鮮な芽が地域に息吹いていき。さまざまな人々が神山に集い、拠点を構えることで、これまでもあった生業の線がさらに伸びていく。

そんな神山の姿を長期的な視点で想像し続けた大南さんの言葉は、新たな働き方や移住について考える人々の心に響きます。

各世代のパイオニアが語る

続いて行われたのは、講演を行った大南さんに、「(株)熊野古道おわせ」で支配人を務める伊東将志さん、「日本仕事百科」でライターを務める大越元さんが加わったクロストーク。司会は、今回の働き方フォーラム2015を主宰する「地域資源バンク」代表の西井勢津子さんが務めました。

まず司会の西井さんから尾鷲、神山へ中間支援を行う伊東さん、大南さんへ「どうして田舎を目指す若者は神山や尾鷲を目指すのか」という問いが出されました。

伊東さん「中間支援やコーディネーターを置いて、移住者を1人にさせないことが重要だと捉えています。必ずチームで動くことをやっていきたいなあと。志、覚悟を持っている人には、地域への入り方や周りの人への紹介などそういったもののバックアップをしています。

サポート具合の基準は自分の肌感覚を頼っています。深くその人と知り合うことを大事にしているので、一晩語り明かすこともありますね。」

オープン、フラット、フレキシブル

大南さん「地域にとって、大事なポイントを3つ挙げると、オープン、フラット、フレキシブルになると思います。「オープン」というのは、内と外を隔てない。「移住者だから」というような線引きは絶対にしない。

「フラット」は、上下関係を作らないと言うこと。例えば、「この人に来てもらいたい」という移住希望者に逢ったときに、来てもらいたいと思うあまりに、へりくだった態度や相手を上にあげる態度を取らないこと。だから傲慢でも媚びるわけでもなく、対等な関係作りが大事です。

そして日本の田舎や地方で一番欠けているものが、「フレキシブル」だと思います。誰か若い子たちが「やりたいことがあるんです」と言ってきたときに、即座に「困るからやめてくれ」となる。先入観や思い込みに作られた「枠」が、新しいチャレンジを止めてしまう。

神山では止めるタイミングをワンテンポずらしました。「君たちがやりたいと思うことがどうなるか分からないからやってくれ」という感じです。そうすると、断らないことが1つの価値に変わって、若い人たちが集ってくるようになった。」

日本仕事百科の大越さんからは、会場に集った参加者、大南さん、伊東さんへ「仕事、住むまち、暮らしの3つのうちどれが一番大事か」という質問が送られました。ほとんどの参加者は「暮らし」に手を挙げていたように思います。

大越さんは日本仕事百貨に入る前に、東京・新橋でサラリーマンをしていたそうです。その当時は、起きている時間の大半は新橋で過ごし、自分の街で過ごすのはほぼ寝ている時間だけだったと言います。伊東さんと大南さんは生活における仕事の位置づけをどう捉えているのでしょうか。

伊東さん「僕も暮らしかもしれないですね。その3つとも密接に関わっているのが地方・地域なんじゃないかなあというように思います。東京の場合、新橋が仕事の街、寝る場所が地元、ワークライフバランス的な話が出てくるのかなと。

僕らの街は暮らしであり、町であり、仕事でありというような。最近、漁師の方とお仕事させていただくことが増えたんですが、彼らは休日なのに船に乗っているんですよ。大体、11時、12時に仕事が終わっていて、1時ごろに出来上がっていたりするんです。

だから境界線が曖昧というか。特に地域系の中間支援の受け皿になるような人たちはそういう人が多くて、良いなあと思います。」

大南さん「僕も暮らしに挙げたと思う。地域作りは仕事ではなく、NPOも非常勤やけど常勤状態みたな感じで、趣味みたいなものですよね。でも結局今考えたら良かったなって感じがします。

いろんな人たちに逢えるし、若い人たちが相談に来てくれる。これは他に代えがたい仕事を得た気がします。仕事は暮らしを成り立たせるための1つの手段ではないかと思います。

農業、でもいきなり専業農家をするのは難しい。バイトやパートをしながら、生活を成り立たせていって、少しずつ農業の比率を広げていって、最終的に専業農家になるようなつもりで動いていく方が、結果的に上手くいくのかなって感じがします。」

地域を目指す若者たちへのメッセージ

最後には、クロストークを務めた3人から地方を目指す人々へメッセージが贈られました。

大越さん「何か自分のなかで今日話を聞いてひっかかったことがあったら来てみる、やってみるでいいんじゃないかと思います。考えすぎないことだと思いますね。」

大南さん「皆さんが日々いろんなことをやっているなかで、無駄なこと、どうにもならないことだと思ってやっていることが、100年後、200年後に世の中を変えることにつながる可能性がある。

自分の信じていることを着実にやっていくことが非常に重要になってくる。もしかしたら、何も起きないかもしれません。それは誰にも分からない。だけど、やらなければ結果も起きない。小さな行動を常に信じて起こしていくべきだと思います。」

伊東さん「皆さんの頭に思い描く地域に、もう1度今日の話を聞いて、住んでみればいいんじゃないかと思います。また、神山、尾鷲など面白いと思ったら1度出向いてみればいいんじゃないでしょうか。(尾鷲の場合)1回だけだったら、僕はアテンドします。」

移住する「覚悟」にリアルに触れる場

今回参加者として集まったのは、地方で働くことに関心を持つ三重や関西圏に住む新卒の求職者、あるいは転職を希望する人たち。さらに当日スタッフとして脇を固めるのも、三重の行政で働く人々や三重で生業を持つ方々でした。

新たな仕事観について考えるだけではなく、その後「地方」で本当に生きていく覚悟と向き合う場を構成する。そんな想いが主催の「地域資源バンク」代表を務める西井さんにはありました。

西井さん「私たちがこの企画を主催したのは、仕事観について話し合える場が欲しいよねという想いだけではなくて、それを身体を張って実現している三重の凄く素敵な人たちに出逢っていただきたいという気持ちがあります。

6月には地域の皆さんと出逢っていただいたり、そういった覚悟にリアルに触れていただく場所を作れたらと進めています。皆さんの長い人生やいろいろある人生のなかの1コマに過ぎない時間ではありますけれども、何かしら小さな小石でもみなさんの心のなかに響けばと思います。」

その言葉通り、6月18日、19日には第2弾として、「働く現場のリアリティ」をテーマに、求職中の方を対象に三重の働く現場を案内する働き方フォーラム【合宿編~働く現場を訪ねて~】が開催されます。

既に地域のリアリティと出逢いを重ねてきたよそもののIターンの若者によるガイドによって、多気町や熊野、南伊勢の働く現場に触れることが出来るそうです。現地に身を置かなければわからない、確かな覚悟と向き合うことで、地方で働く、移住することが本当に自分の求めていることなのか問いかけることが出来そうです。

今回の働き方フォーラム2015「若者よ、地方をめざせ」に参加出来なかった方でも、この第2弾に参加できます。興味のある方はこちらもチェックしてみてください!

(2015年5月12日の「マチノコト」より転載)

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