世界保健機関(WHO)は2月1日、ジカウイルスの感染拡大について、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態 (Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)」宣言をしました。
デング熱、黄熱病、チクングニア熱のようなヤブ蚊を媒介とするその他のウイルスと違い、ジカウイルスは感染に気づきにくく、感染しても症状が出ないことが多いため、軽度の熱帯病だと考えられていました。しかしブラジルではこれまで100万人以上も感染し、小頭症の赤ちゃんが不自然なほど多く生まれていることから、最近になって前例のないジカ熱の流行に注目しています。
決定的な証拠はないものの、このウイルスがその他の深刻な神経障害を引き起こす可能性だけでなく、妊婦とその胎児に潜在的に壊滅的な影響を及ぼすのではないかという国際的な声が高まっています。専門家は環境破壊によって、ジカウイルスが人間に感染するきっかけをつくっており、アメリカ大陸での急激な感染拡大を助長していると考えています。
ジカ熱のワクチンや治療薬はなく、保健分野の対応はその感染拡大を止めることだけでは十分ではありません。というのも、感染の恐怖はジカ熱感染が報告された25の国と地域を含むラテンアメリカ中でも、最も脆弱なコミュニティに住む人々の間で高まっているからです。
いくつかの国は、女性への避妊奨励、渡航勧告、肌の露出を避けること、虫除けの使用などを推奨することでジカ熱の脅威に対応しています。あいにく、これらの推奨項目は女性一人ひとりが自分自身とまだ生まれていない子どもを守るべきである、という前提で個人の行動に焦点を当てています。しかし、これらの推奨項目はすべての女性が生殖に関する健康と選択について自分自身の力で完全にコントロールでき、尚且つそのために必要な資源と知識を持っているということを前提にしているのです。
WHOの緊急委員会は感染率を抑えるため積極的な対策の重要性を強調しました。ジカ熱の拡大を止めるために、政府は今後、さらに多くの対策を講じる必要があります。少なくとも、蚊の広範囲における拡大を防ぐ対策が喫緊の課題となります。この対策は各家庭へのスプレー散布、蚊の繁殖場所の除去、都市の停滞水の最小限化、コミュニティ参加による人々の意識向上、ターゲットをより定めやすくするためのヤブ蚊の分布地図作成などを含んでいます。
どんな病気の発生についても言えることですが、エボラの発生時と長年のHIVへの取組みから学んだように、健康と開発は密接に関連しています。インフォーマルな居住地に住む貧しい人々は、社会・経済の主流から排斥され、力と資源を欠き、しばしば最も深刻な影響を受けます。
このことを念頭に置き、UNDPは、不平等な農業、環境、貿易、住宅、教育分野における不適切な政策と感染症発生時の連携の欠如が不十分な健康の脆弱性を形作るという認識のもと、保健において常に多岐に渡る分野からの対応を提唱してきました。
ジカ熱が国際的な公衆の保健上の緊急事態であると宣言する上で、WHOは強固で、協調した分野横断的な国際的な行動がこのウイルスの拡大阻止に必要であると認識しています。UNDPはこれまでの大規模な保健、環境、開発計画の実行を支援してきた幅広い経験をもとに、この事態収拾に対し、更なる貢献ができる組織です。
例えば、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)との連携を通じて、UNDPはこれまで9か国でマラリアに関するプログラムを実施しました。ジカ熱への対応に関してUNDPが支援できる方法の一つは、蚊をコントロールするための多次元の対策に関する専門知識を共有することです。さらに、UNDPは解決に向けた取組みの効果を上げるために重要な役割を果たす、主要保健機関、地域レベルでの組織、市民社会との強力なパートナーシップを構築しています。
ジカ熱は「持続可能な開発目標(SDGs)」で私たちが強調する保健と開発に対して警鐘を鳴らしています。もし私たちが、気候変動と環境劣化が病原媒介動物に与える影響を深刻に捉えず、男女不平等と貧困層の人々の日々の生活環境改善に取り組まなければ、公衆衛生全般のリスクはますます高まっていくことでしょう。