先送りされた難民・移民問題の解決策

2015年に世界で第三国定住した難民の数が約10万7100人だったことを踏まえると、「リーダーズ・サミット」で1年間で計36万人を受け入れるという数字は倍以上である。

今週ニューヨークの国連本部において、「難民と移民の大規模移動に関する国連サミット」(19日)と「難民に関するリーダーズ・サミット」(20日)が開催された。

1日目の国連サミットでは「難民と移民のためのニューヨーク宣言」が採択された。25ページにわたる文書であるが、一言でいうと目新しいことは何もなく、国際法やその他の文書で既に謳われている原則を繰り返した「卒のない」内容となっている。

当初はより具体的に、難民受け入れを拡大する数値目標なども盛り込まれていたが、交渉の途中でそれらはそぎ落とされ、逆に国境管理の重要性、難民の帰還促進、難民・移民による法制度遵守の重要性が従来の類似文書よりも強調された感がある。

一つだけ具体的な内容として、向こう2年間に「安全で秩序だった正規の移住に関するグローバル・コンパクト」と「難民に関するグローバル・コンパクト」という2本の文書を加盟国間で交渉し2018年に採択する、という「先送り措置」が決定された。

2日目のオバマ大統領主催の「リーダーズ・サミット」には、計52カ国の首脳陣が出席し、より具体的な数値が各国から発表された。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、スウェーデンなど約30カ国のコミットを合計すると、向こう1年間で計36万人の難民の受け入れが表明されたのである。

2015年に世界で第三国定住した難民の数が約10万7100人だったことを踏まえると、36万人という数字は倍以上である。

しかし、このうち11万人はアメリカ政府によるコミットであり、11月の大統領選挙の結果によっては反故にされる可能性も全く無い訳ではない。また、この36万人は全員が「新たなコミット」ではなく、過去に開催された類似の国際会合等で既に表明済みのコミットを繰り返したものも含まれている。

更に言うと、36万人の全員が正規の第三国定住ルートで受け入れられる訳ではなく、緊急(時限付き)入国策、留学生としての受け入れ、家族呼び寄せ、民間スポンサー制度など、合法的な入国許可目標数は全て含んでいることにも注意が必要である。

また難民受け入れをコミットする代わりに資金提供を表明した政府もあり、例えば安倍総理は28億ドルの拠出金を前日の国連サミット演説に引き続き繰り返した。

途上国で長年避難生活を余儀なくされている難民にとってそのような拠出金は有難いものではあるが、難民学の世界では、難民受け入れを拒否しつつ巨額の拠出金を出すことは、「難民の封じ込め策」や「責任転嫁」、または「ジャパニーズ・ソルーション」(日本的解決策)と揶揄されることが多い。

今週二日連続で開催された難民・移民に関する大規模国際会議は、オバマ・サミットによって何とか格好がついた形で閉会した。今後2年間、どのような形で難民・移民に関する「グローバル・コンパクト」が交渉されるのか、注視する必要があろう。

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