脳由来神経栄養因子(BDNF)のような分泌型メッセンジャー分子は、シナプスの長期増強(LTP)やそれに関連する樹状突起スパインの形態変化など、さまざまな型のニューロン可塑性に関わっていることが知られているが、BDNFの放出や作用が正確にはどこで起こるかはほとんど解明されていなかった。
今回、安田涼平(米国マックス・プランク・フロリダ神経科学研究所)の研究室から、この問題に関して2つの報告が寄せられている。
S Harwardたちはネズミの海馬切片の蛍光ライブ画像化法を行って、NMDARに依存したグルタミン酸シグナル伝達が、シナプス後BDNF放出とその受容体であるTrkBによるシグナル伝達を同一樹状突起スパイン上で引き起こすという、自己分泌型BDNFシグナル伝達の存在を明らかにした。
また、N Hedrickたちは、ネズミの樹状突起スパインの構造的LTPには3種類の低分子GTPアーゼ、Rac1、RhoA、Cdc42がそれぞれ異なった形で関わっていて、それと同時にシグナル特異性を生じさせており、その一方で可塑性のシステムをプライミングしてもいることを明らかにした。
これらの結果を総合すると、単一の樹状突起スパインでのシグナル特異性と、ニューロン可塑性や学習に関係する独特な生化学的計算であるシナプスクロストークの分子機序が示唆される。
Nature538, 7623
2016年10月6日
原著論文:
doi:10.1038/nature19766
doi:10.1038/nature19784
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