近年、全国的に大変な「ゆるキャラ」ブームである。ウェブ版「知恵蔵2013」によると、「ゆるキャラ」とは『「ゆるいキャラクター」の略。地方自治体や町おこしイベントなどのご当地マスコットキャラクターを指すことが多い。緊張感が無く、のんびりとした雰囲気を漂わせていることからこう呼ばれるが、それが「かわいい、癒される」と人気を呼び、ブームを巻き起こしている』とある。
「ゆるキャラ」代表格の熊本の「くまモン」や筆者の地元・千葉の「チーバくん」など、どれも愛嬌があり、心和ませる風貌をしている。成果主義や自己責任が求められる厳しい競争社会に生きる現代人には、どこか心のゆとりが感じられる心地よさがあるのかもしれない。
一方、「ゆるキャリ」という言葉がある。6月27日付け日本経済新聞の『Wの未来』という記事には、『自分が大切にする生活を謳歌しながらマイペースで仕事をする、仕事第一ではない、ゆるやかなキャリアの女性たちのこと』と書かれている。このような働き方は何も女性に限ったことではないが、仕事だけに没頭することなく、多様な生活を楽しむ「ゆるやか」な生き方を意味するのだろう。
近年では、ワーク・ライフ・バランスという言葉もよく使われる。仕事と生活が程よく調和し、社会や家庭、地域とのつながりをもって暮らすことである。そこには生きがいや自己のアイデンティティ、多様な価値観がある。生活には経済基盤としての賃金労働はもちろん重要だが、子育てや介護、地域活動などお金には換算されない働きを併せ持つことで、人生はより豊かになるだろう。
都市の地域コミュニティが衰退している。隣人が餓死したり、虐待が起こったりしていても気づかないことがある。しかし、東日本大震災以降、多くの人が家族や地域の人とのつながりの重要性を再認識した。ただ、今の人が求めるつながりは、何か強い制約を受けるようなものではなく、"Weak Ties"といわれる「ゆるやか」なつながり、即ち「ゆるタイ」なのではないだろうか。
日本では生涯未婚率が急速に高まり、少子化のひとつの要因になっている。一方、フランスや北欧諸国は、「ゆるやか」な婚姻関係である「事実婚」のカップルが多く、婚外子を区別しない法制度のために出生率も高いという。今、人々は「ゆるやか」に生きる「ゆるやか社会」を求めているのかもしれない。「ゆるやか社会」では、決められた路線や単線人生から解放され、人生の再チャレンジや軌道修正など、やり直しが効くからである。暑い夏、クール・ビズが"息苦しさ"を和らげてくれるように、私も少しネクタイを緩めて"生き苦しさ"の少ない「ゆるタイ」で生きてみたいと思うのである。
(※「ニッセイ基礎研究所 研究員の眼」7月8日付記事の転載です)