3歳児のむし歯有病率の地域差:研究員の眼

むし歯有病率は、地域差が大きいことが知られている。

厚生労働省による「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」では、健康寿命の延伸と健康の地域差縮小のために、健康に関する各種目標数値を設定している(「健康日本21(第二次)」)。

その中で、歯・口腔の健康に関しては、図表1に示す目標を立てている。

昨今、8020運動(*1)等の高齢者の口腔ケアが注目されており(*2)、2016年の厚生労働省による「歯科疾患実態調査」で、「②のア(80歳で20歯以上の自分の歯を有する者の割合)」が目標の50%を初めてクリアした。

一方、子どものむし歯有病率も、年々改善しており、上記目標の「④のア(3歳児でう蝕がない者の割合が80%以上である都道府県の増加)」は、2013年に既にクリアしている(*3)。

しかし、むし歯有病率は、地域差が大きいことが知られている。

都道府県別の3歳児むし歯有病率の推移をみると、いずれもむし歯有病率は急速に減少しているが、北海道・東北地方と九州・沖縄地方で高く、東京都や愛知県などの都市部で低い水準であり、地域差が大きいことがわかる(図表2)。

2014年調査では、むし歯が最も少ない愛知県と、最も多い青森県では17.0ポイント(約2.4倍)もの差がある。

子どものむし歯は、家族から感染することが多いことから、若い世代への歯・口腔ケアに関する情報の周知が重要だ。

また、子どものむし歯の8割以上が、歯ブラシの届かない奥歯から発生している(*4)ことから、歯磨き習慣に任せるのではなく、子どものうちから定期的な歯科検診とメンテナンスを受ける習慣をつけるのが望ましいだろう。

健康日本21(第二次)では、国の基本方針を勘案して、各都道府県の住民の健康増進の推進に向けた「都道府県健康増進計画」を定めている。また、市区町村国保においては、加入者の健康増進に向けて自治体ごとに各種取組みを行うよう推奨されている。

これらの計画や取組みを通じて誰もが歯科検診やメンテナンスを受けやすい環境となり、むし歯有病率の更なる低下と地域差縮小に期待したい。

(*1) 「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動。1989年より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している。

(*2) 歯・口腔ケアの必要性や効果については、ニッセイ基礎研究所「老いるのは下から?上から?~注目される『オーラル・フレイル』という新概念」(2016年5月13日)をご参照下さい。

(*3) 昨今のむし歯の減少は、生活習慣の改善やフッ化物配合歯磨剤の普及によると考えられている(厚生労働省 e-ヘルスネット「子供のむし歯の特徴と有病状況」)。

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(2017年7月31日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 准主任研究員

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