先日の新聞報道(*1)によると、京都市では、市が管理する歩道橋のうち、通学路などを除き、原則撤去する方針を固めたという。理由は、景観保全や歩行者優先のまちづくりを推進するためとのことだ。
近年の歩道橋撤去の動きは、東京都や札幌市など全国各地の地方自治体に広がっている。東京・表参道のイルミネーション鑑賞スポットとして知られたJR原宿駅前の歩道橋も昨年1月に撤去されている。
横断歩道橋の設置は、日本でモータリゼーションが進展した60年代以降、急速に広まった。自動車交通の円滑化と歩行者の安全を確保するために歩車分離が図られたからだ。
しかし、近年では通学路から外れて子どもの利用が減ったり、高齢者には利用が厳しかったりすることから、地域住民の意向を聞きながらの撤去が進んでいる。さらに施設の老朽化が進み、維持管理の負担も大きくなっている。
各地方自治体は、歩道橋の撤去後に信号機付きの横断歩道を設けるなどバリアフリー化を促進し、子どもや高齢者などの歩行者に優しい街づくりを目指している。しかし、他方では横断に長い時間を要する幅員の広い道路も多く、高齢者や小さな子ども連れの人が、安全に安心して横断できる昇降機付きの横断歩道橋の設置を求める声も大きくなっている。
近年、撤去が進んでいるもうひとつの都市インフラとして、公衆電話がある。携帯電話の普及で、この10年間に半減し、街角で見かける機会は著しく減った。しかし、公衆電話は災害時にも通信制限を受けない優先電話であり、東日本大震災の時も利用者の長い列ができた。
公衆電話は非常用通信網として適正配置が求められるなど、時代の変化に応じた新たな役割が期待されているのだ。
そのほかにも、かつて大都市で活躍した路面電車は、自動車交通に取って替わられ、多くの都市で廃止されてきたが、近年では復活の動きが見られる。コンパクトシティを標榜する富山市では、中心市街地の活性化や地球環境負荷の低減に資する、人と共存できる新たな公共交通機関として路面電車が再認識され、路線の拡張が続いているのである。
「歩道橋」、「公衆電話」、「路面電車」などの「都市インフラ」は、今日の時代の変化を如実に写し出している。21世紀の「都市インフラ」づくりには、単なる新設や既存施設の更新だけでなく、時代の変化に合わせた撤去を含む機能の見直しが不可欠だ。
社会経済環境の変化に的確に応える「都市インフラ」つくる人口減少時代の「縮小政策」(Shrinking Policy)が、少子高齢化が進む日本の新たな成熟社会を切り拓くだろう。
*1 京都新聞『京都市の歩道橋、半数撤去へ』(2015年5月19日)
関連レポート
(2015年6月2日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員
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