日本社会の良さ・美徳をいかに継承していくか-要は家庭教育にあり:研究員の眼

学校教育の果たす役割は重要であるが...

最近、日本の製品(メイド・イン・ジャパン)やサービス(「おもてなし」等)の高品質・高水準、日本人の礼儀正しさやマナーの良さ、きれい好きなどを強調したテーマのテレビ番組が多くなった印象がある。

外国の方々が驚き、賞賛してくれる様子は嬉しく、我が国の誇れるところだと思っているが、その一方で、日常では、「?」と感じる機会も増えているように思う。

一例を挙げれば、路上などで他人と接触しても「すみません」の一言も発せず足早に去っていく人、自己主張や権利意識の強すぎるモンスター客やモンスターペアレント、アジア新興国への新規進出企業の日本人駐在員で、現地従業員の人格・尊厳を無視し度を越した叱責をする人など、自己中心で他人や周囲の人への思いやりや礼儀がない人が増えているとの印象がある。

冒頭に述べたテレビ番組でのテーマに関連して述べると、第二次大戦後まで、「メイド・イン・ジャパン」は、粗悪品の代名詞的存在であったとされる。

この点に関し、ソニー創業者の盛田昭夫氏が、初めての欧州出張時に、ドイツの町で、アイスクリームの上に乗っていた粗末なつくりの飾り傘(パラソル)が「メイド・イン・ジャパン」だと言われ大きなショックを受け、自社の製品を優れたものにしてその低いイメージを変えようと決意したことを語っている(NHKアーカイブス「あの人に会いたい」ファイルNo.20より)。

盛田氏のように、日本の産業界はじめ関係者の多くが工夫と努力を重ねた成果が、世界的に認められ尊敬される「メイド・イン・ジャパン」となったのである。

それでは、日本の街がきれいなことや日本人がきれい好きということについてはどうだろうか。

筆者が小学校低学年であった1964年の東京オリンピックの開催前、学校に掲示されていた「みんなでゴミを拾いましょう、街が汚いと外国の方に笑われます」という旨の標語を思いだす。実際、クラスの仲間と東京の路上に散らかっていた多くのゴミを拾った思い出もある。

また、製造工場における「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、今や世界的に知られ、優れた取り組みとして海外の工場でも導入されているケースが多いものの、オフィスの整理・整頓状況で日本が特に優れているとは思えないし、個人の住宅でも、毎日大掃除のように清掃するといわれるドイツに軍配が上がるケースが多いのではないだろうか。

さらに、ルール重視という点では、一台も車がいない交差点でも、きちんとルールを守って青信号を待って渡るべしと言った米国留学時代のドイツ人同級生の言葉に流石と思った経験がある。

このように考えてみると、日本の良さや美徳は、先人から積み重ねて形成されてきたものであり、それを継承しさらに良いものにしていくには、我々一人一人が、向上心や他者への思いやりを持ち、ルール・マナーを守っていくことが必要だと考える。

最近、ルールやマナーを守らない人が特に目立つのは、街中の自転車の運転であろう。信号無視、右側通行、急な進路変更など、下図に例示したように罰則を伴う違反行動を町中で見かけるのは日常茶飯事である(*1)。

筆者自身、歩道を通行中に、背後からベルも鳴らさず近づいてくる自転車に、何度もヒヤリとした経験があり、その内数回は軽い接触もされたが、いずれの場合も、自転車の運転者は一言の詫びの言葉も発せず立ち去っていった。

大地震・大津波など大規模災害の際に、被災者が互いに譲り合うモラルの高さや物盗りなどの犯罪が少ないことが報道されるケースは多いが、次第にその状況も悪化しつつあるとも聞く。

バブル崩壊以来、経済が長期的に低迷している中で、他を思いやる気持ちも含め物心面のゆとりが薄れつつあるのかもしれないが、謙虚さをもって日本社会の美徳・美風を大切にし継承していきたいものである。

企業活動のグローバル化が進み国際交流が一層進展し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催も控え観光立国化が進展する中で多くの外国人を迎えるに当たって、他者への配慮・思いやり・ルールやマナーの遵守がより大切になっていると考える。

そのために、学校教育の果たす役割は重要であるが、この点に関し、新渡戸稲造氏は、その世界的な名著「Bushido」(武士道)の中で、「日本人はどうやって道徳を身につけるのか」との問いへの答えについて熟慮した結果として、同氏が学んだ道徳の教えは学校で教えられたものではなかったと述べている。

そのことは、家庭や社会から学ぶところがより大きいということを示している。中でも、人格形成の基盤たる家庭における教育が要であり、我々、親世代も含めた一人ひとりが、そのことを認識・自覚し大切にしていきたいと思う。

(*1) 自転車乗用中の事故の中で、対歩行者の事故件数が増加傾向にある(自転車の安全利用推進委員会のホームページ(http://jitensha-anzen.com/)。

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(2017年7月28日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 アジア部長

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