■ 2015年「燃料電池自動車元年」
2015年、トヨタやホンダは燃料電池自動車(以下FCV※1)を市場販売することが予定されている。
全世界の四輪車の保有台数は2011年末時点で10億7,108万台※2に達しており、これは人口1,000人当たり154台、6.5人に1台普及していることになる。販売台数では、2013年に8300万台超と、4年連続で過去最高を更新している。一方で、自動車の排気ガスによる大気汚染への影響が年々増加している。もっとも自動車開発者は環境に配慮した取り組みをすすめており、日本では2013年の新車販売のうちハイブリッド車が17.3%を占めるなど環境に優しい低燃費車が増えている。また、現在では全く排気ガスを排出しない電気自動車(以下、EV※3)も発売されている。
FCVは水素を燃料とする発電機を搭載した水素と酸素を反応させて電気を作り出し、モーターを回して走るという仕組みで、EVと同様に排気ガスを一切排出しない。2015年はFCVが本格普及を目指すことで国内外の自動車メーカーが足並みを揃えており、「燃料電池自動車元年」となると言われている。EVとFCVは次世代を担う環境に優しい車(次世代エコカー)として期待がもてる。来年、FCVが市場に投入されれば、次世代エコカーを巡るメーカー間の競争はさらに激しくなるだろう。次世代エコカーを購入する消費者にとっては、EVとFCVのどちらを購入するか選択ができる。
では、EVとFCVの現在の状況を簡単に比較してみよう(図表)。現在、EVは車体価格がガソリン車並みに迫ってきているが、ガソリン車に比べると航続距離が短いことや充電時間が長いといった弱点がある。FCVは航続距離や燃料の充填時間はガソリン車並みだが、車体価格はトヨタの市場投入時の設定価格目標が500万円台としていることから比較すると、EVよりも値段が高いという弱点がある。インフラ設置状況についてはガソリン給油所数36,349ヵ所※4と比べると、EV,FCVともにまだまだ少なく、これからの状況だ。
■ 課題はインフラ整備
EVもFCVもさらなる技術革新を通じた利便性向上、量産化を通じたコストダウンが期待される。同時に本格的な普及の鍵を握るのは動力源を補給するためのインフラ整備だ。EVであれば充電設備が必要であり、FCVであれば製造-貯蔵-輸送-そして供給施設となる水素ステーションなど、一連の過程で大規模なインフラ整備が必要である。インフラ整備に関しては、普及が進む度合いに合わせて整備を行っていくのか、普及を促すためにインフラ整備をすすめるのか、いわゆる『卵が先か鶏が先か』という議論になりやすい。EVとFCVではインフラが異なるため尚更だ。
政府の対応を見ると、EVに関しては補助金として1,005億円の予算措置(H25年度)がとられている。FCVに関しては、成長戦略である「日本再興戦略」の中で「2015年の燃料電池自動車(FCV)の市場投入に向けて、燃料電池自動車や水素インフラに係る規制を見直すとともに、水素ステーションの整備を支援することにより、世界最速の普及を目指す」としている。EVとFCVの双方を推進するスタンスが窺える。
来年にはFCVが市場に投入され、EV、ハイブリッド車、従来のガソリン車などが同じ土俵で競い合うことになる。ますます自動車の種類が多様化していく中で、その選択は市場原理にまかせるべきとの意見もあるが、我が国の基幹産業である自動車産業の将来を見据えるならば、ゆっくりと普及を待っているわけにはいかない。将来有望となる次世代エコカーの育成や共存方法を具体的に模索する段階が迫っている。
日本がインフラ整備を含む次世代エコカーの世界標準(グローバルスタンダード)を作っていくことができれば、日本の自動車メーカーは世界市場で優位に立て、世界をリードすることができる。今こそ政官民が一体となった取り組みに期待したい。
※1 FCV=Fuel Cell Vehicleの略
※2 一般社団法人 日本自動車工業会HPより
※3 EV=Electric Vehicleの略
※4 経済産業省資源エネルギー庁「揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)」より
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 研究員
(2014年3月25日「研究員の眼」より転載)