最近、「プレミアム○○」という商品をよく見かける。「○○」には、ビール、スイーツ、コーヒー、カレーなどさまざまな商品名が入る。
「プレミアム」は「付加価値の高い」という意味だが、一般の商品に比べて「高級品」というイメージが強い。消費が低迷するなかでも、消費者のこだわり志向に応える付加価値の高い商品やサービスは、人々の財布の紐を緩める有望なマーケットだろう。
退職後のシニア層は、十分な資産がある富裕層から日常生活に汲々とする人まで経済格差は大きい。また、多少の資産があっても将来の不安から必要不可欠なもの以外は消費を控える人もいる。
しかし、健康や嗜好品などに多少の支出は厭わないシニア中間層は確実に存在する。今後の消費拡大に向けて、ある程度お金を持つ人たちの「プレミアム消費」に的確に応える商品とサービスが必要だ。
海外旅行のツアー参加者には、退職前後のシニア層が多い。現役時代は仕事が忙しく、長期休暇を取って海外旅行を楽しむ時間もあまりなかったからだろう。
最近の海外旅行のパンフレットをみると、プレミアム・エコノミークラスの利用コースが人気だ。欧米などの長時間フライトをエコノミークラスで往復するのは、歳を重ねたシニア層には体力的にきついからかもしれない。
近年、千円カットの理容室が増えている。とりあえず短時間で伸びた髪を切るだけなら十分である。退職したシニア男性は、カットする髪も少なくなり、現役時代ほど散髪にお金をかける気がしない。だが、退職シニアには千円カットは何か物足りない。時間は十分あり、急いでカットする必要もない。
料金が通常より安い数千円程度であれば、ひげをゆっくり剃ってもらい、くつろいだ時間を過ごせる「プレミアムカット」を望む人はたくさんいるのではないだろうか。
先日、炊飯器を買い換えた。家族が少なくなり、一度に大量のご飯を炊く必要がなくなったからだ。多少価格が高くても、1合ほどの少量のご飯をおいしく炊ける炊飯器が欲しかった。
購入した製品は水蒸気で炊飯し、米の旨みを逃がさないという。保温機能がないのは、「ご飯は炊き立てが一番旨く、炊いた量を食べきることが大事だ」というコンセプトに基づいているようだ。
この炊飯器は単にご飯を炊くのではなく「旨いご飯の食べ方」を提供するものだ。多様化した時代に全ての人のニーズに適う商品やサービスなどなく、「プレミアム消費」は個々の「こだわり」を実現するニッチ市場かもしれない。
しかし、デフレ脱却に向けた消費拡大には、1人ひとりのライフスタイルにおける「こだわり」を顕在化する「プレミアム消費」が、ひとつの有効な方策ではないだろうか。
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(2017年7月25日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員