4月から5月にかけて、今年4月1日時点の保育所等の待機児童数の状況を公表する自治体が増えている。
それらを見ると、都市部を中心に依然として厳しい状況が続いている。2月の衆院予算委員会で首相が言及したように、「2017年末に待機児童ゼロ」という目標達成は難しく、来月、新計画がまとめられるようだ。
目標達成が困難な理由には、保育士不足や保育所等の用地不足により当初の計画通りには進んでいないことや、女性の就業率が想定以上に上昇し供給が追いつかないこと等があげられる。また、「潜在待機児童」(*1)が十分に把握されておらず、そもそも供給側の計画と需要が乖離している可能性もある。
いくつかの課題はあるにしろ、問題は、待機児童ゼロの目標達成が先送りされることで、結局、退職を余儀なくされる女性が引き続き出ることだ。
女性の社会進出が言われて久しく、近年では「女性の活躍促進」の流れもある。しかし、現在でも、女性の半数以上は第1子出産を機に退職している(*2)。福利厚生制度が比較的整っているはずの正社員でも約3割が退職する。
もし、待機児童問題が男性の退職につながるとしたら、どうなのだろうか。
もし、子どもが生まれたけれど預け先がないという理由で、正社員男性の3割が退職するとしたら、「待機児童ゼロの目標達成は厳しいので、達成時期を延ばす」で済むのだろうか。
女性が出産退職する背景には、待機児童問題に加えて、夫婦の家事育児分担が依然として妻に偏りがちで両立に悩む女性が多いこともある。
フルタイム勤務で夫と同様に収入を得て家計を支えている女性でも、家事育児分担の大半を担っている印象が強い。さらに、若い年齢ほど非正規雇用者が多く、育児休業制度などを利用しにくい女性が増えている状況もある。
大学卒女性が出産退職した場合、生涯所得は2億円のマイナスとなる。これは労働者個人としてだけでなく、企業としても大きな損失だ。
待機児童問題をはじめ、女性のキャリア中断に関わる課題については、「女性の」ということではなく「一人の人材の」課題として取り組むべきではないだろうか。
(*1) 認可保育園の選考にもれて認可外へ預けた場合や育児休業を延長した場合、保護者が求職中などを待機児童に含まない自治体もある。また、潜在待機児童として「どうせ保育園に空きがないから申し込まない」といったケースもあるだろう。
(*2) 国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」にて、子の出生年が2010~14年の第一子出産後の妻の状況。
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(2017年5月26日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員