遊牧民の生活脅かす「ゾド」~エルニーニョ現象がモンゴルに与える影響 

国民の約18%の世帯が遊牧で暮らしを立てるモンゴルにとって、家畜の大量死は人々の生計、国の経済に深刻な打撃を与える事態である。
Save the Children Japan

2014年夏に発生したエルニーニョ現象は、エチオピアをはじめとするアフリカ諸国で干ばつによる深刻な食糧危機をもたらしているほか、東南アジアや南太平洋の国々でも、降雨量の減少により様々な影響がみられると予測されている。

そして、この現象は、意外と思われるかもしれないが、モンゴルにも深刻な影響をおよぼしている。「エルニーニョとモンゴル???」多くの方がそう思われるであろう。しかし、現実である。

(モンゴルで最も寒い地域のひとつ、中央部に位置するザブハーン県。寒い時は、氷点下50度以下になることも。=2016年1月)

エルニーニョ現象が発生すると、夏の間、モンゴル一帯の地域では、低温と少雨が続く傾向にあり、十分な牧草が育たない。一方で、冬に入ると状況は一転して多雨に見舞われ、モンゴルのような寒冷地では、それが深刻な寒雪害に直結する。

このように、夏の干ばつと冬の寒雪害が立て続けに起こる自然災害は、モンゴルでは「ゾド」と呼ばれており、過去に起こったゾドではほぼ例外なく、モンゴルの遊牧民の生活の糧である家畜の大量死が起こっている。

モンゴル政府は過去の経験を踏まえ、昨年の夏から干し草や飼料の備蓄を行っていたが、それでもこの冬を乗り切るのには充分でないと言われている。国民の約18%の世帯が遊牧で暮らしを立てている同国にとって、家畜の大量死は人々の生計、ひいては国の経済に深刻な打撃を与える事態である。

セーブ・ザ・チルドレンは、1月末から2月初旬にかけて被害状況の調査を行い、私も同国西部の4県を訪問したが、事前に現地より報告を受けていた通り、今年の冬は雪も多く、例年以上に寒い。寒い朝には、実に気温マイナス58℃を記録した。

今回、遊牧民の方々を対象に調査を行った結果、彼らは、生計確保のため家畜を最優先していることが明らかになった。つまり、自分たちの食料や生活費、子どもへの支出を全て削ってでも、貴重な財産である家畜を守ることに支出を振り分けるということである。

2009年から2010年にかけてもゾドが発生したが、その際には、多くの家畜がなくなった。子どもたちには、天候が悪いために親や家畜のことが心配で、不安で眠れない、学業に集中できない、遊牧の手伝いのために学校に通うことができず学業に遅れが出る、等の問題が生じた。私が関係者から聞き取りをした範囲でも、今回も同じことが起きる、という懸念が多数聞かれた。

(インタビューに応じてくれた遊牧民の2家族。家計のため、ほかの人の家畜の世話もしているという。=2016年1月、モンゴル・ザブハーン県)

こうした異常気象の影響を受けるのは、子どもや貧困層などの最も弱い立場に置かれた人々である。支援の遅れや漏れは、そうした人々に長期的な影響を及ぼす可能性がある。被害が大きくならないようにするという考えも重要である。セーブ・ザ・チルドレンでは、ゾドの深刻な影響を受けている地域で支援のニーズに対応する他、子どもたちへの心理社会的なサポートを行っていく。

公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

海外事業部 紺野誠二

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