■中長期の展望における初年度
昨年とは事情は違うが、本年も少々ブログの書き初めが遅くなってしまった。その代わりに、他の人の年頭所感や、2015年予測等を沢山読んでインプットすることができた。それぞれ興味深いし、しかも、いつになく良記事が多い気がする。これでは、私が後追いで、あらたな2015年単年度予測を書いたところで、さほどインパクトもあるまい。なので、少々他の人とは違った切り口で、私なりの『年頭所感/2015年を迎えるにあたって』を書いておこうと思う。
昨年末に『2014年の10大潮流』を書いた時にも述べたが、2014年は、非常に大きな時代の転換点だったといえそうだ。(他の人の2015年予測等を読んで一層その意を強くした。)この見解が正しいとすれば(もちろん私はそう確信しているのだが)、2015年は短期的な見通し以上に、より『中長期の展望における初年度』と見ていく必要があるように思える。最低限、2020年くらいまでの中期展望(2015年+5年)、そして、できれば2045年(2015年+30年)くらいまでの長期展望を持って臨む必要がある。
■方向感覚を磨くべき
昨今、どの分野も変化のスピードが早く、予想が極めて困難であり、場合によっては、小手先の将来予測にこだわるのはむしろリスクがあり、短期の変化にスピーディーに即応できるように備えておく方が重要、という議論が、特にIT系のビジネスシーンでは優勢と言える。もちろんスピーディーに即応できる柔軟な姿勢自体は今後とも必要不可欠だが、時代が大きく動きそうな今だからこそ、時代の趨勢がどちらの方向に向くのか機敏に察知できる方向感覚を磨いておくことも非常に重要だ。
■テクノロジー・ドリブン(技術駆動型)の世界
幾つかある重要なマクロトレンドの中でも、特にビジネスに関わる人が最も意識しておく必要があるのは、世界がますます『テクノロジー・ドリブン(技術駆動型)』になっていく、ということだ。自分の仕事は、テクノロジー(技術)とは関係ない、などとは言わないことだ。そんなあなたを含む、全てのビジネスパーソン、いや、すべての人が否応なく巻き込まれていくのがこのトレンド(潮流)なのだ。(この記事を書いている最中に、グランドデザイン&カンパニー(株)社長の、小川和也氏の記事で、今後は『デジタル・ドリブン』となる、という記事を見つけた。 どうやら基本的な着想はほとんど同じと言えそうだ。)
誤解がないように断っておくが、これは『技術シーズ』指向とはまったく意味が違う。日本企業は自社製品の技術的優位性ばかりにこだわり、市場ニーズをないがしろにしたため、日本全体が技術スペックばかり先走った製品であふれたガラパゴスになり、世界市場とも、最終的には日本のユーザーとも乖離し、自滅したという教訓が、特に日本の家電製品/家電メーカーの凋落と共に流布したこともあって、日本のビジネスマンの中には、少なからず、羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)感じの人が増えている印象がある。妙に『技術シーズ』指向に対する忌避感を持つ人がいる。確かに、この文脈では、技術の前に、ユーザー、市場を第一に考えるべき、という基本は間違ってはいないが、ここで言おうとしているのは、そういうことではない。
市場の構造はもちろん、社会のあらゆる仕組みを根底から変えてしまい、果ては、人間の生命観さえ揺さぶり、倫理や哲学、宗教等の人間の内面にまで深い影響を及ぼす『破壊的なテクノロジー』革命(デジタル革命)が足下で起きていて、それが、これから続々と姿を現し始める。その皮切りとなるのが2015年だ。
■AIと3Dプリンター
昨年は(前回の記事にも書いた通り)、人工知能(AI : Artificial Intelligence)という言葉が一般化して、誰もが違和感なく使うようになった。同時に、AIの進化により、人間の仕事が(事務仕事を含み)幅広く奪われる、という主旨の議論が盛んに行われた年でもある。この点については、前の産業革命でも同様の議論が起きたが、結局は経済規模が大きくなり、人間の仕事は高度化したりシフトすると同時に、取り分も大きくなって皆が豊かになることができたし、今回も同様という楽観論もあり、私自身極端な悲観論に与するつもりはない。ただ、産業革命初期の過渡期に巻き込まれた人達が多大な労苦を強いられたことは確かだ。しかも、今回のAIの進化はそのスピードが桁外れだ。気がつくとあっという間に従来の仕事が人間から機械にシフトする、ということが幅広いビジネスシーンで起きると考えられる。このスピードに社会の方が追いつかず、大混乱になることは覚悟しておく必要がある。その時が迫り来ることが2015年には、一層実感を持って感じられるようになるだろう。
また、まだ、玩具の延長程度にしか認知していない人が多いように思われる、3Dプリンター(3DCAD、3DCGデータを元に3次元のオブジェクトを造形する機器)だが、これは製造業を根本的に変革し、パラダイムシフトを促す存在であることはもはや疑う余地はない。今までの所、まだ使える素材が限定的でもあり(樹脂等)、影響は軽微だったが、今後、金属、合金、新素材、さらには、製品自体をプリントする、3Dプリンターが登場すると言われている。製品自体、ということになるとまだ夢物語の類いだが、素材の高度化は近い将来次々に実現して、安価になっていくことは確実だ。(昨年10月には、金属3Dプリンターを数十万円程度で提供するプランを持ったベンチャーの報道もあった。ついに金属を出力できる個人向け3Dプリンターが登場 | FUTURUS(フトゥールス) )
2015年から2020年までくらいのレンジを想定すると、少なくともこの二つ(AI+ロボット工学、3Dプリンター)が猛威をふるうことを前提に全てのビジネスを見直してみる必要がある。仕事がなくなるというのは、個人の立場だが、企業の立場から見ても、このトレンドが濁流のように押し寄せる環境を想定して、如何に自社のビジネスを位置づけるかが決定的に重要になる。
■自社を囲む鳥瞰図作成が不可欠
人間より機械(AI+ロボット)の方がうまくこなす仕事が激増する。生産工程の小規模化/インテリジェンス化は急速に進むだろう。製造業、サービス業を問わず、AI+クラウド(大規模な情報)が次々に新しい法則を発見し、ビジネスモデルを生み出すだろう。従来の競合とはまったく違うライバルが突然現れ、一気に市場を席巻するようなことも日常茶飯事となる。
だから、まず自社のビジネス鳥瞰図を作成して、これに影響を及ぼす可能性のあるテクノロジーとその応用範囲を、可能な限り想定して周囲に書き込み、それを前提に自社のビジネスをどのように変革していくのかを真剣に考え直し、投資の方向を見直し、参入可能性のあるライバルは誰なのか、急激に進化を遂げそうなテクノロジーは何なのか、随時情報をウオッチできる体制を構築する。そして、一番好ましいのは、仕掛けられる前に自ら仕掛けることだ。これを2015年、変革の2010年代を生き残るための出発点として実行するべきだと思う。
■目がくらむような未来
2010年代と書いたが、本当にドラスティックな変革は、今後の10年〜30年くらいのレンジでさらに加速度的に起きて来ると考えられる。くしくも、今から30年後、2045年というのは、高名な発明家で、AIの第一人者でもある、現グーグル社所属の、レイ・カーツワイルがシンギュラリティ(技術的特異点)に到達する予言している年だ。著書『シンギュラリティは近い』を読むと、『AIが人間の知能を超える』『ナノテクノロジーと強いAIで、人間はほぼサイボーグになる』『AIが環境に応じて自分をプログラミングし直し、ロボット(極小のロボット、ナノボットを含む)を自己複製する』『体内のナノボットが視覚、聴覚はじめ五感に働きかけて、完全な没入型のヴァーチャル・リアリティを実現する』『バイオテクノロジー、ナノテクノロジー等により、実質的にはあらゆる医学的原因による死をなくすことができる』等、SF小説家が裸足で逃げ出しそうな話が続々と出て来る。
この到達点についてコメントすることは私の能力ではまったく不可能だし、中にはファンタジーと揶揄する声もあるようだが、カーツワイルが、チェスの世界王者をコンピュータが破ることやスマートフォンやソーシャルメディアの普及等を言い当てて来た実績があること、米国では、AIの第一人者と高く評価されていること等を勘案すると、少なくともテクノロジーの大きな進化の方向を見るためのガイドにはなりそうだ。それに、『テクノロジーの進化は 直線グラフ的ではなく指数関数的(二乗.三乗など定数を掛ける勢いで加速する)に速まる』という彼の主張は、直近の過去30年を遡ってみても、十分に蓋然性があるように私にも思える。
■3つの革命
そのカーツワイルは、21世紀前半は、3つの革命が同時に起きた時代であったと、いずれ語られることになると言う。次の3つだ。
遺伝学(G) ナノテクノロジー(N) ロボット工学(R)
G革命は、行く行くはナノテクノロジーの革命によって乗越えられていき(生物としての人間の限界をナノテクノロジーで超える)、今まさに起きようとしているもっとも力強い革命はRである、とする。
(ここで言うR:ロボット工学は、『強いAI』、の進化を含み、また、3Dプリンターの進化形である、ロボットを直接作れるような、自己複製マシンもここに含まれているようだ。)
ロボットの知能は、人間をモデルとしながら、それよりはるかに優れたものになり、知能は全宇宙でもっとも強い『力』であるため、R革命は一番重要な変革になると述べる。
人間を超えるかどうかは別としても、R(というよりAI)は、GやN、3Dプリンター等にもインテリジェンスを付与する(自ら環境を分析し、最適化(自己再プログラミング)し、自己複製し、進化することを支援する)という意味でも、私にも、Rが最も重要な変革のように思える。
■流されず流れに乗る
5年先を考えるのも頭が爆発しそうなのに、30年後を考えるのはとても無理との声が聞こえて来そうだ。だが、このテクノロジーの進化は、他の様々な社会問題(資源環境問題、格差問題等を含む)のあり方を大きく変えてしまう可能性が高い。つまり、テクノロジーの進化を前提にしておかないと、あらゆる予測が無駄になりかねないということだ。
もちろん、ちょうど世間を騒がすフランス紙襲撃テロ事件に例を見るように、民族・宗教の問題等、テクノロジーでは直接解決できない問題は世に数多い。だが、テクノロジーの進化で変貌する世界では、場合によっては、そのような問題が一層複雑で深刻になる恐れもある。一方で、日本のように少子高齢化に見舞われる社会にとって、大きな福音になる可能性も高い。また衰退が取り沙汰される日本経済にとって起死回生のチャンスとなる可能性もある。避けられないトレンドを良く利用するのも、悪い影響とするのも、受け入れる側の人間や社会次第だ。繰り返すが、2015年は、2015年単独ではなく、大きな変化の幕開けに備えていくための元年にするべき年だ。流れに乗るのか、流されるのか試される、重要な年であることを肝に銘じておきたい。
*3:『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』作者: レイ・カーツワイル 出版社/メーカー: NHK出版 メディア: Kindle版
(2015年1月13日「風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る」より転載)