■行くあてのない生命保険金が急増中 そのワケとは?
最近、保険金が誰の手にも渡らないままになっているケースが増えています。これを受けて、保険会社各社が対応を迫られています。
保険金支払い漏れ防止、高齢者に配慮 生保協、来夏までに指針
生命保険協会は来夏までに、高齢の契約者に配慮すべき点や対応策をまとめた指針を作る。死亡したのに気づかず保険金が支払われていなかった事例が出ているためで、連絡を徹底するなどして支払い漏れを防ぐ。
契約者全体に占める高齢者の割合は年々高まっており、2012年度は新たな契約者の約17%が60歳以上だった。個人年金の受け取りが始まる契約数も今年度は100万件を超える見通しだ。生保協は身体能力が衰え、連絡も途絶えがちになる高齢者にはより丁寧な対応が必要になるとみて、契約時や保険金支払時に必要な対応策を各社に示す。
2014年8月7日 日本経済新聞
記事にある通り、高齢化等が原因で保険の存在が忘れられていたり、手続きがされないままに宙に浮いている保険が増えています。
■保険金を受け取る手続きは、かなり面倒くさい
このようにトラブルが相次いでいる要因には、「手続きの面倒さ」も絡んでいます。生命保険は日常生活ではあまりなじみがなく、わかりにくいのです。しかし、保険金を受け取るためには、少なくとも次の用語はしっかり理解して下さい。
・契約者:生命保険を契約した人。掛け金を支払い、契約上のさまざまな権利を持つ人。
・被保険者:保険の対象となる人。生命保険では、この人が亡くなると、保険金がおりることになる。
・受取人:保険金を受け取る人。
・保険証券:保険の契約があることを証明する書類。保険会社が契約者に発行する。
また、生命保険金を受け取る手続きもなかなか面倒です。一般的に、以下のような手続きが必要です。
1.死亡保険金受け取り事由(被保険者の死亡)が発生。
2.保険契約者か保険金受取人が生命保険会社に連絡する(書面でも、電話や担当者への口頭でも良い)。
3.生命保険会社から、必要書類が送られてくる。
4.保険金受取人が必要書類を保険会社に提出して請求手続きをする。
5.生命保険会社が書類にもとづき、保険金の支払いの可否を判断する。
6.死亡保険金を受け取る。
なお、保険会社に提出すべき書類は多数あり、病院や役所に行って取り寄せなければならない証明書もあります。一般的には以下のものが必要です。
・保険会社所定の保険金請求書
・保険会社所定の死亡診断書・証明書
・被保険者の住民票
・受取人の戸籍抄本(個人事項証明書)
・受取人の印鑑証明書
・保険証券
・(災害死亡の場合)事故状況報告書
・(交通事故死亡の場合)交通事故証明書
もし、旦那さまが亡くなったとき、旦那さまが契約者および被保険者になっている生命保険を受け取ろうと思ったら、奥さまはおそらくご自宅のどこに保険証券があるのかすぐにわかるでしょう。また、亡くなるときには旦那さまに付き添っているでしょうから、死亡診断書もすぐに受け取るでしょう。自宅近くの、役所に住民票や戸籍抄本を取りに行くのも、さほど難しくないかもしれません。
しかし、保険の契約上で、別居している子どもが受取人とされていたら、話は一転します。保険証券がどこにあるのかわからない、遠方に住んでいて、親の住所地の役所まで行く時間がない、など、手続きにひと苦労するのではないでしょうか。まして仕事をしている人なら、役所が開いている平日の日中に行くのはかなりハードルが高いことでしょう。
しかも、これらの作業を、お葬式の手配や役所への死亡届の提出、関係者への連絡や挨拶、遺品の整理や相続の手続きなどと並行して進めるのは、決して楽ではないでしょう。
■入院した後に亡くなった場合は、「給付金」をもらい忘れている可能性が!
さらに注意したいのが、病気で入院した末に亡くなった場合です。生命保険には、「入院特約」と呼ばれるオプションがついているものがあります。これは、病気などで入院をするとお金を受け取れるものです。病気で入院をしてから亡くなると、死亡によって受け取れる「保険金」だけでなく、入院によって受け取れる「給付金」ももらえます。ところが、「保険金」を受け取ったら満足して、「給付金」をもらい忘れてしまう人が少なくないのです。
「給付金」も、「保険金」と同様に、受け取るためには手続きが必要です。手続きをしなかったら、その分は原則として受け取れません。しかし、保険の受取人が手続きをしなかったために、本来支払われるべきだった給付金が置き去りになってしまうケースが多く、2008年には金融庁が複数の生命保険会社に対して業務改善命令を出す事態になりました。
そこで現在は、入院してから亡くなったようなケースについては、保険会社が保険の受取人から「保険金を受け取りたい」という手続きを受け付けたときに、ほかの保険金や給付金を受け取る権利があるかどうかをチェックすることになっています。もし、死亡保険金以外にも受け取れそうな給付金があれば、保険会社から受取人に教えてくれます。
■親の保険で困らないために、今からできること
冒頭で紹介した記事によると、今後は保険金や給付金を受け取る手続きを分かりやすくするよう、保険会社が工夫をしていく見通しです。とはいえ、保険金をスムーズに受け取るためには、生命保険の受取人が、契約の内容を理解しているに越したことはありません。できれば親が元気なうちに、どこの会社でどんな保険に契約しているか、保険証券はどこに保管しているかなどを確認しておきたいものです。
また現在、生命保険会社は、高齢の契約者の訪問調査などを始めています。この機会に、子供など親族の連絡先を、契約者である親から保険会社に伝えておいてもらうのも良いでしょう。さらに今後は、保険会社が保険の募集時に親族の同伴を促すことも検討されています。契約の段階で子供が同席していれば、保険会社や担当者への連絡や、手続きもしやすくなるでしょう。
「指定代理請求制度」を利用するのも有効です。「指定代理請求制度」とは、入院給付金や高度障害保険金を受け取るときに、被保険者に代わって、あらかじめ指定した家族などが保険金を請求できる制度です。すでに契約している保険でも、途中からこの制度を付加できるものもあります。
すでに親が亡くなっていても、遅くはありません。死亡保険金を受け取っていても、入院給付などを受け取っていないことに気づいたら、後から請求することができます。一般的には、支払事由が発生した日(死亡日など)の翌日から起算して3年までは、生命保険の保険金や給付金を受け取る権利は有効です。また、生命保険各社は、それ以上が経過していても、気づいた時点で申告をするように呼びかけています。時効を過ぎていても、何らかの対応をしてもらえるかもしれません。
保険は入ったら終わり、ではありません。せっかく入った保険が置き去りにされないように、ご両親が元気なうちに、保険のことをきいておいてはいかがでしょうか。
【参考記事】
加藤梨里 ファイナンシャルプランナー