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2015年02月19日 20時18分 JST | 更新 2015年04月21日 18時12分 JST

復興の支えに「法律家」の力 被災地の県庁や市町村役場で活躍する弁護士たち

東日本大震災の被災地の自治体で勤務する弁護士は、一体どんな役割を果たしているのでしょうか?

岩手県、山田町、宮城県、石巻市、東松島市、気仙沼市、富谷町、福島県、郡山市、相馬市、浪江町。これら11の東北地方の県と市町村。東日本大震災で地震や津波に襲われ、あるいは、原子力発電所事故により被害を受けた自治体である。一見ランダムに列挙したかにみえるこれらの自治体には、実は知られざる共通点があったのです。

■ 被災地の地方公務員として活躍する弁護士が誕生した

表1 東日本大震災の被災地で働く弁護士たち ※厳密には弁護士として登録していない職員もいますが、法律家としての経験がある点は共通しています。

表1を見てください。震災後、東北の11の自治体で弁護士が働くようになりました。いずれも、東日本大震災で地震や津波に襲われ、あるいは、原子力発電所事故により被害を受けた自治体です。ここに数えた弁護士は、単にその地域で仕事をしているということではなく、県庁や市町村役場に所属して、弁護士資格を活かしながら、職員として働いています。2014年10月時点で、11の自治体に各1名、合計11名が勤務しています。

自治体の中に、公務員として「弁護士」が勤務していることは意外に思われるかもしれません。弁護士といえば、法律事務所に所属して、裁判所に出向いて行ったり、困ったときに相談に乗ってくれる仕事をしたりしているというイメージが一般的だからではないでしょうか。

ところが、現在では、全国で60余りの自治体に、弁護士が常勤の職員として、つまり、公務員として勤務しています。弁護士資格を活かしながら、自治体内部のさまざまな法律問題や、自治体が抱えるトラブルを解決する役割を担っているのです。自治体が抱える裁判の代理人として裁判所に出廷したり、自治体が公共事業を発注したり、公共事業に使う土地を住民などから買い上げる際の締結書をチェックしたり、窓口での住民からのさまざまな要望や、特にはクレームに対して対応したり、条例をつくるときに法律や憲法と整合するかどうかをチェックしたり、職員の方が日常業務を進めるうえで必要になる法律知識をアドバイスしたりしています。

では、東日本大震災の被災地の自治体で勤務する弁護士は、一体どんな役割を果たしているのでしょうか?

■ 多様な法律問題≪リーガルニーズ≫に迅速に対応するために

東日本大震災の被災地では、他の地域の自治体の弁護士の仕事に加えて、次に挙げるような、被災地特有の法律問題≪リーガルニーズ≫に応える必要があります。

●住民の生活の再建をサポート

家が無くなったり、大切な家族を失ったり、仕事が再開できなかったりなど、被災者の生活再建の課題はありとあらゆる分野に及びます。このような住民ひとりひとりの悩みを支援するために、相続の問題や、住宅ローンの問題、公営住宅への入居の問題などに対して資料をつくったりする役割があります。

●まちづくりや復興のための土地を自治体が確保する仕事のサポート

津波で被災したエリアから、高台に移転したりする場合には、高台の土地を確保するために、自治体が高台の所有者から土地を買ったりしなければなりません。そこで、土地の契約書がしっかり作られているかどうかを弁護士がチェックするなどの仕事があります。

●原子力損害賠償対応

原子力発電所事故の影響を受けている地域では、自治体も電力会社に対して、除染費用や検査費用などの損害賠償を請求する場面が出てきます。このような場面では、原子力事故と関係のある損害がどこまでなのか、お金に換算するといくらになるのかの計算などもサポートできます。

●中央省庁等との交渉

被災地の復興のためには、地元の自治体だけではなく、国の力が必要になります。国が自治体をサポートするためには、予算措置や新たな制度の創出など、法律や制度の改正を必要とする場合がほとんどです。そのような制度の改正のタネは、住民の声を聴いた自治体の要望から始まることが多いのです。これを正しく国に伝えたり、法律上できるはずのことを要望したりするときに、弁護士の知識が役に立ちます。

●市民との接点・弁護士会との連携

自治体の中には弁護士が一人しかいなくても、地元や同じ県には、ほかの弁護士の仲間がたくさんいますし、「弁護士会」という弁護士が所属する組織もあります。弁護士会は、被災者支援や生活再建のために日々奔走しています。自治体内の弁護士も、その資格を活かして、弁護士会のネットワークから知恵を借りることもできます。

代表的なものをここに挙げましたが、他にもまだまだたくさんの役割が、弁護士に期待されています。そうすると、自治体としても、法律事務所にいる弁護士に都度相談に行くのではなく、自治体の内部で、他の職員と一緒になって弁護士に働いてもらうことが、一番スピーディーで効果的であることが分かると思います。

■ 弁護士職員の採用を、国の予算で後押し

東日本大震災の被災地で、弁護士の雇用が進んだのは、実は、国の財政上の後押しという背景がありました。国の省庁のひとつである「総務省」は、全国の自治体の業務をサポートする役割を持った省庁です。その総務省が、2012年2月14日、「東日本大震災に係る被災地方公共団体に対する人的支援について」(総務省自治行政局公務員部長通知)という文書を発信しました。ここには、被災した自治体に、民間の人材を積極的に登用し、復興支援に活用するべきであるということが書かれています。そして、もし民間の人材を登用した場合には、その経費(つまり給与)は、自治体ではなく、国が予算を出すということまで書いてあります。正確には「震災復興特別交付税」が上乗せで自治体に支給されることになりました。

国は、復興のためには、自治体に民間の専門的な人材(医師や弁護士など)も雇って、活用する必要があると考えました。そのために、自治体が給与負担を気にすることなく積極的に採用できるような道を切り開いたのです。これは、東日本大震災後の国のいろいろな政策の中でも、特に画期的なことだと言えます。

■ 少しずつ出てきた「弁護士職員」の成果

ところが、弁護士の採用について国の財政上の措置があるからといって、直ちに弁護士が自治体に採用されたわけではありませんでした。実は、東日本大震災の時点で、東北地方の自治体の常勤弁護士は「0」人だったのです。「弁護士や専門職を雇用できる」といっても、どうやって使ったらいいのか、何ができるのか、本当に役立つのか、などと心配する声が自治体側から上がってくるのは当然でした。

突破口は、弁護士自らが切り拓いていきました。先に述べた≪リーガルニーズ≫の存在を、自治体の幹部に理解してもらうことから地道にはじめていきました。筆者も、東北の各県庁や県下自治体などを巡り、自治体側も気づいていない≪リーガルニーズ≫があることや、弁護士採用の重要性を訴えるなどしてきました。

こうした努力もあってから、自治体側も、次第に弁護士の必要性を認識し始めるようになってきました。募集開始の第1号は、岩手県でした。その後、すぐに宮城県が続きました。こうなると、今度は弁護士側にも、相応しい人材にたくさん応募してもらわなければならなくなります。弁護士が所属する全国団体である「日本弁護士連合会」(日弁連)や弁護士有志が協力して、弁護士側への啓発活動や自治体で働くための勉強会も実施されました。その結果、2013年1月から、岩手県庁と宮城県庁にそれぞれ1名ずつ、弁護士の任期付職員の採用が決まりました。東北自治体初の弁護士職員の誕生です。

その後、表のように採用が続き、今のところ11自治体で11名が働いています。今後とも、徐々に採用は増えてくると見込まれます。ぜひ被災地のニュースに注目して頂けたらと思います。

自治体に採用された弁護士は、日々、もともとの職員の方たちと同じ建物、同じ空間にいます。机を並べ、雑談をし、ランチをし、そして困難な課題に立ち向っています。苦楽を共にし、気軽に相談しあえる間柄を築いていきます。その結果、弁護士を採用した自治体全体の政策提言能力や、国との交渉力が増大するという効果も表れています。弁護士側も、行政での働き方を日々学び吸収し、スキルを磨いているのです。自治体の職員からも、「弁護士が近くに居るおかげで、安心して日々の業務をすることができる。」「自分たちも先例にばかりとらわれずに、法律の原則に則って 政策を考えることができるようになった。」という声が出ています。

ひとつ、大きな制度に繋がった事例を紹介します。それは、まちづくりを加速するための土地収用手続や都市計画の規制緩和を認める法律改正の提案です。岩手県職員、岩手県で勤務する弁護士職員、岩手弁護士会が作成した提言をきっかけとして、最終的には、自治体の現場の声が国の法律を動かした事例です(2014年6月の東日本大震災復興特別区域法の改正)。弁護士職員の誕生だけでなく、こうして具体的な成果に弁護士職員が役に立ったことは、大変喜ばしいことですし、何よりも、被災された住民や企業のために力を発揮できたことは弁護士の仲間にとっても誇りと言えます。

■ 弁護士が見た復興

東日本大震災ののち、その危機を乗り越えるための新しい政策や制度がたくさんできました。その陰に、実は弁護士の活躍や、新しい法律の誕生がたくさん隠れています。今回ご紹介した、自治体職員として活躍する弁護士の他にも、様々な立場で、弁護士が震災復興に携わっています。

弁護士や法律が、災害発生時、生活再建、そして復興政策において、どう関与しているのか知ることで、被災地、さらには日本の抱える様々な課題を新しい側面から考えることができるでしょう。『弁護士が見た復興』では、その知られざる活動や法制度について紹介していきたいと思います。

(2015年1月17日「東北復興新聞」より転載)