日本人の知らないシリコンバレー:創業からフィランソロフィーに取り組むSalesforce

興味深いのは「ボランティア」や「義援金」という一般的な支援に加えて、「テクノロジー」での支援を積極的に行っているということです。

毎朝、自宅からオフィスに向かう途中で、最近再開発が急速に進んでいるSan Franciscoの南部のエリア「Mission Bay」を通ります。

ここ数年でSOMA地域も急速に整備され、オフィスやアパートなどが一気に増えたのですが、それでもまだ足りないということで、その更に南のMission Bayの再開発が進んでいます。オフィス、アパート、学校など新しい建物の建設が日々行われています。

Mission Bayの再開発の中心の一つが、UCSF ( University of California San Francisco)の病院施設です。病院や研究施設など多くの新しい建物が建設されているのですが、上の写真にある立派な建物の新しい子供病院には「ある個人の名前」が付けられています。

珍しいLast Nameなのですぐに気づくと思いますが、Salesforceの創業者 Marc Benioffの名前です。2010年に、彼と奥さんのLynne Krilichが、「子供たちの健康促進のため」ということで、$100Mを寄付して建てられた病院です。

先週は日本はゴールデンウィークということで、政治家、企業経営者など多くのVIPが日本からシリコンバレーを訪問されました。その中で、日本で積極的にフィランソロフィー活動を行っているあるVIPにアテンドをして、Salesforce社のフィランソロフィー専門組織 Salesforce.orgを訪問する機会がありました。

Marc Benioff個人やSalesforceがフィランソロフィーに積極的であることは非常に有名な話ですが、今回直接お話を聞き、改めて感銘を受けたのでご紹介したいと思います。

創業時から組み込まれた「1-1-1モデル」

Salesforceは、1999年にSan Franciscoで設立されたCRMソリューションを提供する会社です。Scrum Venturesでも創業時から投資先やパートナーのマネジメントにずっと活用しています。ちなみに我々は、Salesforceが昨年$390Mで買収したRelateIQというスタートアップのプロダクトをベースにした、SalesforceIQという製品を使っています。いまどきなFeedインターフェースで、モバイルもよくできているのでオススメです。

Salesforceの時価総額は現在約$50B。2015年の売上が$6.7B、営業利益が$600M。社員は約2万人という大企業です。

しかしながら、ありがちな「大企業になったらからそろそろうちもCSRやらなきゃ」とフィランソロフィーを始めたのではなく、創業当初から「1-1-1モデル」という仕組みを導入して、積極的にフィランソロフィーに取り組んでいたと言います。

「1-1-1モデル」とは、Salesforceのホームページによると、「Salesforceの人々、テクノロジー、リソースの活用により、世界中のコミュニティを向上すること」だということです。

まず「人々」というのは、社員によるボランティア活動のことで、Salesforceでは、「年6日」も有給ボランティア休暇が設定されており、社員は自分で選んだ活動を実施できるということです。日本のSalesforceでも、外国にルーツを持つ子どもたちの支援、里山保全活動などの環境保護活動、東日本大震災復興支援活動、ファンドレイジングと啓蒙活動を目的としたチャリティランの企画・実施、障がいを持っている方を対象とした IT 支援など、幅広い活動を行っているということです。

「テクノロジー」というのは、非営利団体に対して、自社の製品であるSalesforceを寄贈もしくは割引で提供するというものです。非営利団体が業務の効率化を図り、より多くの時間やリソースを社会的ミッション達成のために注力できるようにサポートするということです。個人的にはこれが非常に面白いアイディアだなと思っています。現在、世界中の 25,000 を越える非営利団体が活用しているということです。具体的に震災時の支援などでもこれが活躍していたようですが、詳細はあとで述べます。

「リソース」というのは非営利団体への助成のことで、2000 年からこれまでに 8,500 万ドルを超える助成金を交付しているということです。社員のボランティア活動や寄付を支援する制度のほか、非営利セクターに Salesforce コミュニティを育てていくための Force-for-Change Grants、恵まれない環境にある若者たちにビジネスやアントレプレナーシップについて学ぶ機会を提供する BizAcademy、教育・健康・就業をテーマによりよい地域社会をつくるための Healthy Communities Grants なども実施しているということです。

東日本大震災時にも活躍

日本では先日熊本で大地震があったばかりですが、先述の通り、Salesforceのフィランソロフィーは震災時にも大いに活躍していました。

興味深いのは「ボランティア」や「義援金」という一般的な支援に加えて、「テクノロジー」での支援を積極的に行っているということです。

「震災」と「CRM」という一見つながりのなさそうな二つですが、混乱する震災後の局面において、安否確認システムやボランティア管理システムのプラットフォームとして、クラウドですぐに利用できるSalesforceをベースにしたシステムが多数構築されていたようです。なるほどという感じですね。

仙台市の安否確認システム、千葉の安否確認システム、つくばのボランティア運営管理 / 茨城および福島の野菜販売プロジェクトなどがSalesforceをベースにして構築されたということです。確かにSalesforceを無料で使わせてもらえるのであれば、いろいろ使い途がありそうです。

他には、Googleによる安否情報データベース「パーソンファインダー」、避難所などのマップ「災害情報マップ」などが有名ですが、やはりテクノロジー業界としては、こうした自社のテクノロジーやプロダクトを使ったフィランソロフィーというのは非常にいいですね。

VCのフィランソロフィー

創業時から、しかも幅広い手法での活動を行っているSalesforceのフィランソロフィーに感心しきりなのですが、我々「VC」という立場でできることはなんだろうと考え始めました。

義援金やボランティアというのはもちろんオプションなのでしょうが、イノベーションに投資をしている立場としては、Salesforceが取り組んでいる「テクノロジー」という視点を考えてみたいなと考えています。

例えば、投資先のTop Flight Technologiesのドローンを救援物資輸送に提供する、遠隔診療のFirst Opinionのインフラを使って避難所の人の医療相談を受ける、ファッションレンタルサービスのLeToteから衣料を提供する、など投資先の技術やサービスでの支援というのは面白いかもしれません。

15年以上の歴史があるSalesforceのようにはすぐにはなれないとは思いますが、ScrumとしてもフィランソロフィーをDNAとして組み込んでいきたいと思います。

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