ユニコーンのどこが問題か? 2016年に弾けるバブル

いまアメリカには140社にのぼるユニコーンが存在すると言われています。

いまアメリカには140社にのぼるユニコーンが存在すると言われています。

ユニコーンとは、未公開市場での時価評価が10億ドルを超えるスタートアップ企業を指します。

1995年にネットスケープが新規株式公開した際、調達した金額は1.4億ドルでした。これは今日の典型的なIPOから比べると、ススメの涙ほどの規模です。

しかし当初幹事団が設定していた調達予定額は4,900万ドルに過ぎなかったので、当時、この条件で値決めされたときは、ウォール街中に衝撃が走りました。

もうひとつ例を挙げると、1996年にヤフーがIPOロードショウをキックオフしたときの調達金額は3,900万ドルという条件でした。

いかに金額が小さいか、おわかりいただけると思います。

つまり、当時のドットコム企業は、できるだけ早い段階でIPOするというのが鉄則だったのです。

それを変えたのがフェイスブックです。フェイスブックはIPOで160億ドル調達しました。つまりネットスケープの114倍の調達額だったわけです。

フェイスブックはユーザー数が一定のスケールに達するまで、なるべくIPOを先に延ばし、一般株主からのプレッシャーの無いところで成長を追求するという道を選んだのです。そのあたりの経緯は映画『ソーシャル・ネットワーク』にも出てきます。

それ以来、フェイスブックのやり方が、ひとつの典型を提供するようになり、多くのスタートアップ企業が、これを模倣し始めました。

未公開株を売買する私設取引所が出来て、スタートアップに勤める社員が持ち株を換金することが出来るようになったのも、IPOを遅らせる風潮を助長しました。

未公開企業で居る期間が長くなるということは、誰かがその間の運転資金を提供しないといけないことを意味します。これに関しては、伝統的なベンチャー・キャピタルに加えて、投信会社などの、これまでベンチャー投資には疎かった新規参入者が相次いで名乗りを上げました。具体的な運用会社で言えば、Tロウ・プライス、ブラックロック、ウエリントン、フィデリティなどです。

つまりIPOまで待ちきれない投信会社が、こっそり未公開株を貰うチャンスを、虎視眈々と狙い始めたというわけです。

ここからが重要な点ですが、その場合、誰が投資できるか? ということは、基本、「競り(auction)」によって決まります。

これと対照的に、IPOで、誰が投資できるか? ということは、ブックビルディング(book building)と呼ばれる方法で決まります。

オークションの場合、もっとも高い値段を提示した投資家が、投資を許されることが多いです。

しかしブックビルディングでは投資家の格、資金量、過去の実績など、様々な要素が加味されるので、単に「高い値段を喜んで払います!」という意思表示をしたからと言って株が沢山もらえるわけではないのです。

なぜこのような重箱の隅をつつくような議論をするか? といえば、オークション方式では、自ずと競りの価格を高く吊り上げるインセンティブが、投資をする側の方で働いてしまうということを指摘したいのです。

個人や機関投資家が新規公開企業に投資する際、その支払い責任は:

単価 × 株数

で決まって来ます。ホットなIPOの場合、誰でもその株を欲しいわけですから、「僕はもっと高いカネを払う準備がある!」と主張するわけです。しかし値段が吊り上ると、沢山の株数が自分のところに来た場合、資金がショートするリスクもあるわけです。

主幹事は、投資家の懐具合まで考えながら、何株渡すか? を検討するわけです。

言い換えれば、ブックビルディングという値決め仕法は、無責任な競り合戦を防ぐために編み出されたというわけです。

不自然に吊り上った値段で値決めしても、その株をもらった投資家が、上場後もその企業の安定株主としてずっとその株を保有し続けられるだけの胆力が無ければ、価格は崩壊します。

さて、ユニコーンの現況に戻れば、現在のユニコーンの未公開市場におけるバリュエーションは、上で説明したオークションの無責任な競り合戦によって人工的に吊り上った値段になっているケースが殆どです。

だから実際にIPOの実務に入れば、最後のオークションでトンマな投信会社が払ったバリュエーションでは、到底IPOできないということが発覚するに違いないのです。(その実例としてスクエアのIPOを挙げることが出来ます)

ユニコーンが未公開企業として残っている限り、新規のファンディングはごく一部の関係者の、なあなあのネゴシエーションによって価格が決定出来ます。この「市場に翻弄されない」安定的なバリュエーションが魅力で、未公開株に手を出す投信が後を絶たないわけです。

しかし投信という商品は、本来、毎日、値洗いし、基準価格を公表しなければいけない、きわめて流動性の高い金融商品であるわけで、その投信が数カ月に一度しか値洗いされない、流動性の低い投資先にどんどん資金をコミットするというのは、横着で、受益者をミスリード(=誤解を与える)しやすい悪習です。

ユニコーンに投資している投信会社には、ベンチャー・キャピタルが持っている技術評価チームなどが無い場合が多いです。つまり公開市場と未公開株では、投資判断の際に必要とされるスキルが違うということです。

さらに言えば、ユニコーンに働く社員は、自分のストック・オプションの価値が順調に伸びているような錯覚を覚えます。

しかしそれらのユニコーンが「いざIPO」という段階になったら、(こんなはずじゃなかった!)というとんでもない低い評価でしか株が出せない企業が続出するはずです。またユニコーンに投資している投信ファンドをもっている受益者は、ある日、基準価格がドカ下げしていることに気が付くことになるでしょう。

投信ファンドが未公開株に投資している場合の、値洗いの頻度やその基準については、業界で統一されたベスト・プラクティスが無い状態であり、これは将来、問題になると思います。

(2015年12月28日「Market Hack」より転載)

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