日本国内で流通しているアパレル品の国産比率はたったの3%。
つまり、日本で日本製の洋服を見つけることが難しい時代になっているということ。
これは「靴」にも言えます。
■日本の履物統計(全日本履物団体協議会 平成27年6月)より抜粋
これをみると、日本製の靴は、昨年2014年で「8.5%」しかありません。1993年に初めて、輸入靴が国産靴を上回り、その後は年々輸入靴が増えています。
国産スニーカーの数も減少し、日本でスニーカーを作ることができる「工場」も減少しています。
福岡県久留米市にある「ムーンスター」
同じく久留米にある「アサヒコーポレーション」
広島県府中市の「スピングルムーヴ」
など、実は数社しかありません。
先日この中の「ムーンスター」にお邪魔してきました。
ムーンスターは、誰もが知っている「コンバース」や「ニューバランス」を委託生産で作っている140年の歴史と技術力のある工場。しかし最盛期には約1万人もの従業員で賑わっていましたが、今では約500名まで減少しています。
「製造ラインも縮小しているのかもしれない。製造現場はどうなっているんだろう」と考えながらの訪問でしたが、すぐにそれが誤りであることがわかりました。
そこにあったのは、7つある製造ラインすべてが稼働中で、効率よくスニーカーが生産されている様子でした。
■多品種小ロットにも対応できる"フットワークの軽さ"がこれからの工場に必要
工場長の市丸さんにお聞きすると、
「機械によってすべてを丸っと作ってしまうのではなく、融通の利く"人の手"を信じること」
人の手こそ効率的なんだ、という時代に逆行するような考えがムーンスターにはありました。
結局、さまざまなアパレルブランドからの要請に臨機応変に対応するためには、1つの製造ラインを機械で自動化することよりも、熟練の人の手を入れることでうまくコントロールしていく。それがすべてのラインを稼働させることにつながり、ロスが減っていく。
名だたるブランドのスニーカーを作るこれだけ大規模な工場であっても、職人の力を活かせる場所があり、フットワークが軽いことに大いに驚かされました。
■江戸時代に発明された「久留米絣」で作るスニーカー
江戸時代後期に発明された久留米絣(くるめがすり)は、古い様式の織機を使い糸に無理をさせない張力で織られる生地のこと。
ムーンスターのオリジナルスニーカーにはこの生地が使われています。
しなやかで独特の風合いを持ち、使い込むほどその美しさを増していく生地が
多くの人に使用され、今もなお、伝統を受け継ぐ機屋で織られています。
ムーンスターでは、現代のスタイルに合わせてつくられた久留米絣を"KURUME CLOTH"と名付けられたそうです。
まるで焼き物を焼くように、加硫缶(かりゅうかん)と呼ばれる"窯"に入れ120℃で70分間、熱と圧力を加えます。
そうして、生ゴムの中に配合した硫黄が化学反応を起こすことで、粘土のような生ゴムの状態から"変形してもちゃんと元のかたちに戻る"というゴム本来の性質を保つことができます。
これは「ヴァルカナイズ製法」と呼ばれ、国内ではムーンスター含めて数社しかできない貴重な製法です。より生産性やコストを重視し機械化された製法が多い中で"手間はかかるが確かなもの"をカタチにしています。
国産靴の割合は8.5%で年々減少するものの、ムーンスターが躍動し続けている背景には、「人」がある。それを学べた訪問でした。
■ファクトリエ