あらゆるアプローチで顧客と接点を持つ「オムニチャンネル」、Webと実店舗をリンクさせる「O2O」、EC企業が発信する「ショールーム型ストア」。現在、流通に関する様々なワードが世を賑わせており、私が運営するファクトリエの取り組みもそういった言葉で括られることがあります。しかし、共感する部分がありつつも、どこか腹落ちしていないのも事実。その違和感をひも解きながら、流通のあるべき姿を探ってみたいと思います。
■ジェイアール名古屋タカシマヤと結んだ2つの条件
9月下旬から10月上旬にかけて、ファクトリエはジェイアール名古屋タカシマヤ7Fで期間限定ショップを開催しました。ジェイアール名古屋タカシマヤは、今年でオープン10周年。その記念イベントとして、7F中央の催事スペース「ローズパティオ」を使ってジャパンクオリティを発信しようという企画が立ち上がり、ファクトリエのもとに話をいただきました。私が提示したのは、2つの条件。まずは、直営店やサテライトショップと同じようにiPadで販売を行うこと、2つ目が工場の方たちを招いてトークイベントを行うことです。
■百貨店初となる、店頭でのiPad販売
店頭販売は、必要以上に在庫を抱えてしまうことで経営が逼迫されるというリスクがあります。ファクトリエでは、商品のサンプルだけを店頭に置き、購入はiPadで済ませるという手法を導入しており、今回も同じ手法を提案しました。百貨店の店頭でECを行うという試みは過去に例を見ませんが、今回の企画には「新しい取り組みへのチャレンジ」という趣旨が盛り込まれており、業界初となるiPadでの販売が実施されることになりました。
■予想を大きく上回る客足と売上
蓋を開けてみると、20坪のイベントスペースは連日大盛況。初の試みということもあって一抹の不安もありましたが、肩の荷が下りました。実際にiPadでの販売を行ってみて分かったことが2つあります。まず、お客様はその場での持ち帰りをそこまで求めていないこと。商品によっては荷物がかさ張りますし、遠方から訪れているお客様にとっては、後から配送される方がむしろ楽なケースもあります。
そしてもう1つが、ノーブランドの商品でも売れること。ファクトリエの商品は全てが高品質ですが、知名度があるわけではありません。しかし、同フロアに並ぶ有名ブランドに埋もれることなく、多くのお客様に選んでいただくことが出来ました。それは商品に込めている思いが伝わったからであり、私が提示した条件の2つ目はまさにその部分です。
■工場の方たちを招いてトークショーを開催
2つ目の条件は、イベントスペースでトークショーを行うことです。今回はお客様に「地元にはこんな素晴らしい工場があるんだ」ということを知ってもらうために、愛知・岐阜の提携工場の方たちをお招きして、ファクトリエとの出会いや、素材・製法・技術へのこだわりなどを語っていただきました。品質の良さを知ってもらえれば、有名ブランドにも太刀打ちできる。それを確信出来たのは、今回のコラボによって得られた意義の1つです。
■名古屋と元町に直営店をオープン
自動車やバイク、繊維など、もともと東海地方はものづくりで栄えてきた街。ファクトリエとの相性は非常に良く、より多くの人たちに商品に触れてほしいという思いから、10月22日に直営店の「星が丘テラス店」をオープンさせました。10月23日には、洗練されたショップが立ち並ぶ横浜・元町にも直営店をオープン。iPadでの販売はもちろん、トークショーの開催も継続的に行っていきます。
ファクトリエのビジネスモデルは、中間業者の排除と在庫の一掃によってコストを圧縮させ、適正価格で商品を届けるというもの。リアル店舗をかまえる目的は、お客様との接点を増やして仕組みを伝えることであり、「リアルでの触れ合いって必要だよね」という理由ではありません。流通モデルが先行する形で店舗やECを立ち上げるのは本末転倒。「どういった価値を世に提供したいのか」という理念や思いが根底にあってこそ、「オムニチャンネル」「O2O」「ショールーム型ストア」という言葉は真の意味を帯びるのです。