模擬国連、英語ではModel United Nations について耳にしたことはありますか?
世界の諸課題を学ぶために国連での会議をシミュレーションするというもので、大学生のみならず最近では高校生にもじわじわと広がりを見せています。昨年の全日本高校模擬国連大会では申し込み総数が136校203チーム(1校につき2チームまで応募可能)と、9回の実績の中で応募が初めて200チームを超えました。
今年の11月12、13日に開催される第10回全日本高校模擬国連大会には、前回に引き続き200チームを超える応募があり、更なる盛り上がりが期待されます。
詳細はこちら第10回全日本高校模擬国連大会
「国際移住と開発」をテーマにした2015年11月の全日本大会で優秀な成績を収めた麻布、関西創価、神戸女学院、渋谷教育学園渋谷、桐蔭学園、灘の6校12名(学校ごとに生徒2人で1チーム)が、2016年5月日本代表団としてニューヨークでの「グローバル・クラスルーム高校模擬国連国際大会」に派遣され、世界27ヶ国から集まった総勢およそ1500人の高校生と交渉力を競いました。
全日本大会では決議案・公式討議スピーチは英語で行われますが、非公式討議では内容を深めるために日本語を使うことができます。一方、国際大会ではすべての議論が英語で行われます。英語力における課題をどう乗り越えるかということにも生徒たちは向き合うことになります。
真剣なまなざしで国際大会に臨む桐蔭学園中等教育学校の田邉雄斗さん(右から4人目) ©グローバル・クラスルーム日本委員会
模擬国連では自分の国と関係なく割り振られた国の外交官になりきり、その国の政策や議論のテーマについて事前にリサーチをすることからプロセスが始まります。相手を打ち負かす「ディベート」とは異なり、模擬国連は「交渉」です。
加盟国大使として国際問題を討議し、決議案を作成し、賛成者・反対者と交渉して課題解決のための「国際協力」を実現することが求められます。そこでは単なる英語力を越えた、調整力やアピール力が試されます。
日本代表団に割り当てられた国は「クウェート」。それぞれの会議の議題やクウェートについて入念な準備を経て、ニューヨーク到着後にはクウェートの国連常駐代表らと面会して気持ちを高めて、クウェート国大使になりきって決議案などの交渉を行いました。
この中で、麻布高校から参加した高校2年の中本憲利さんと西條友貴さんのチームが、「2030年までの貧困撲滅の目標を達成するためには」という議題での世界銀行のシミュレーションを通じて、見事優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げました。
大会関係者と記念撮影に応じる中本憲利さん(左端)と西條友貴さん(右端) ©グローバル・クラスルーム日本委員会
ニューヨークからの帰国後、派遣された6校12名が行った報告会は、関心の強い高校生らで満員でした。優秀賞に輝いた麻布高校の中本さんと西條さんはお互いを「相方(あいかた)」と呼び合い、2人の発表はまるで掛け合い漫才のようでした。
報告会にて発表する西條さん(右)と中本さん(左)©UNIC Tokyo
中学1年で同じクラスだった時に、2011年の同じ国際大会で優秀賞を獲得した麻布高校の先輩の体験談を読み、国際問題に関心の強かった2人はいつか必ず自分たちもこれを目指そうと約束したのでした。その3年後にペアを結成して全日本大会に臨み、優れた成績をおさめてニューヨークに派遣されることになりました。
「担当する会議が決まって、僕たちは会議の『流れ』についてかなり綿密な予測を立てました。メインテーマの『貧困撲滅』では明白な対立軸が形成されるとは考えにくい。ならば、教育や社会的弱者、基金設立、データベース、農業などの分野について網羅的な議論がなされる中で、どちらかと言えば細かな政策について小規模な衝突が起こるのではないかと考えました。この見立てが的中したんです」
中本さんが2人の立てた作戦を語ります。かなり多くの国が似通った政策を持ち寄ってきたことで交渉そのものは比較的スムーズで、自分たちも孤立しかねない独自色の強い政策ではなく、理解と支持を得られやすいシンプルな政策の提案に的を絞ったと言います。
中本さんはスピーチや着席討議、他のグループとの意見統合の交渉などの「外交」、西條さんは「内政」を担当しながら相互補完的に役割を埋めていくという方針で、結果から逆算して作戦を立て、他国の関心を引くように行動することを心掛けたというのですから、この頭脳的な戦略には舌を巻きます。
「交渉で培われた度胸は、いつかどこかで僕を助けてくれるでしょう。大勢の前で自国の、そして自分たちのグループの政策を訴えかけた経験は、揺るぎない自信を僕に与えてくれました。それと、開会式と閉会式で本物の総会議場の場に立てたのは、それは何物にも代えられません」と中本さん。
国際大会での議論の様子(前列左端:中本さん、右隣:西條さん)©グローバル・クラスルーム日本委員会
内政という足元を固める役回りだった西條さんは、こう振り返ります。
「会議の開始と同時に始まった各国大使による猛烈な政策アピールに押しつぶされそうになったときの緊迫感。世界中から集まった高校生とハイレベルな議論をしたときの高揚感。成果文書案の提出期限の直前に政策が書かれた紙が紛失したときの絶望感。提出した案が否決された時の悲壮感。目をつぶると、こうした感情が情景とともに鮮明に蘇ってきます」
さらに西條さんは、「Indian EnglishやMexican Englishを初めて生で聞き、『こんな英語でもいいんだ、主張したいという気持ちが大切なんだ』と戸惑いながらも感動を覚えました」としながら、模擬国連は自分が「井の中の蛙」だと教えてくれた場所だと言います。
「世界のハイレベルな高校生から学んだ最も重要なことは、『交渉において最も重要なことは誠実な態度を示すこと』ということです。交渉において、相手を言い負かすことはあまり重要ではないし、相手の政策を批判して自己の政策を主張し過ぎると、みんなから反感を買う。重要なのは、みんなで一つのものを作っていくこと。彼らが内政を管理するときも、相手の大使の話をしっかり聞いてみんなで政策を作り上げている様子を見て、そう思いました」
国際大会を振り返り、思いを語る中本さん(左)と西條さん(右)©UNIC Tokyo
中本さんと西條さんのチームが今回の派遣で得た大事なこととして、4つあります。
1.人の心のつかみ方
2.結論に向かって議論をファシリテートしていく能力
3.時間の制約の中でまとめる能力、即興力
そして
4.自分とは何か - 自分の得手・不得手、日本人特有の資質、自分が好きなこと、自分がもしかすると考えるのを避けてきたこと、認識していなかった新しい自分 - と向き合うこと、です。
このような根源的なこと、自分とは何かを突き詰める機会を持つことは、高校生でも大人でもなかなかないことでしょう。
他の高校の代表団メンバーからも今回の国際大会参加から得たこととして、「相手の立場を理解した上で話を聞くことの大切さ」、「様々な国の同年代と出会えた『縁』」、「自分を信じて諦めないこと」、「多様な人々と出会って生まれた化学反応」、「メタのレベルからものごとを俯瞰的に見ることのできる素養」という本質を突くコメントがあがり、多感な高校生時代に「世界」レベルに触れることの意味を実感しました。
26日に行われた報告会での発表の様子 ©UNIC Tokyo
全日本大会と国際大会への派遣事業は、模擬国連の経験のある大学生からなる「グローバルクラスルーム日本委員会」が運営を行い、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センターが共同主催という形でサポートしています。2016年度に同委員会の理事長を務める慶応大学3年生の齋藤優香子さんは、自身も高校時代にニューヨークに日本代表団メンバーとして派遣されています。
「高校生12名それぞれが、自分の弱み、世界の広さ、そして『世界の壁』を感じたことでしょう」と、経験者だからこその感慨をもって高校生たちを見つめていました。
価値観、考え方の異なる人と議論をすることの「大変さ」は、裏を返せば国際大会の「醍醐味」です。日本で培ってきたものが世界の場では思うように発揮できないと知った時の衝撃、そして日本で培ってきたものが世界でも通じると発見した時の手ごたえ。高校生の立場でできたこの体験を、彼らは瑞々しい感受性で吸収し、今後に活かしていくことでしょう。
国連総会の議場の雰囲気に直接触れられたことは大きな経験に ©グローバル・クラスルーム日本委員会
Model United NationsのModelには「まねる」という意味とあわせて、「モデルとなる理想」という意味もあります。立場の異なる相手とどのような形で合意を形成することができるのか、理想を学ぶ場でもあるのです。
第10回全日本高校模擬国連大会は、2016年11月12日と13日の2日間の日程で東京・渋谷の国連大学で開催の予定で、優秀者は来年ニューヨークに派遣されることになります。より多くの高校生に、理想に触れてもらいたいと願っています!