徳島県の鳴門市で、地域が主体となった再生可能な自然エネルギーの普及を目指すプロジェクト。2014年6月に、WWFジャパン、徳島県鳴門市、(一社)徳島地域エネルギー、NPO法人環境首都とくしま創造センターによる推進協定が締結された後、地元でのシンポジウム開催をはじめ、さまざまな取り組みが実施されてきました。その主要な課題の1つである「ゾーニング・マッピング(再エネの適地評価)」が今、現地で進められています。着実に進むその取り組みを報告します
地域に適した、再生可能エネルギー「資源」は?
風力や太陽光、地熱などが生み出す、再生可能な自然エネルギー。
注目されるこうしたエネルギーの「資源量」は、地域に見られる地形や、四季を通じた気候など、さまざまな環境条件により、大きく変化します。
仮に資源量がある場所でも、自然エネルギーの設備を必ずしも導入できるわけではありません。地域ごとに、土地の使い方や、社会環境が異なるため、風土・文化に合った種類や規模の自然エネルギーを選ぶ必要があります。
その地域で、どのような種類の再生可能エネルギーを開発し、普及させることが、適切なのか。その「適地」を見出す過程が「ゾーニング・マッピング(再エネの適地評価)」です。
鳴門市で2014年6月にスタートした、地域主体の再生可能エネルギー普及プロジェクトでは、12回にわたるこれまでの協議会の検討の中で、この「ゾーニング・マッピング」を進めてきました。
2014年に開催した第1回~3回の協議では、研究機関や省庁が公表しているさまざまな文献資料や鳴門市の地勢条件を検討し、太陽光と風力を重点的に検討していくことを決定。以降これらの再エネ資源の導入に適した場所の検討を進めてきました。
風力の適地に焦点を当てた検討へ
2014年末には、文献調査などの結果から、鳴門市では風況が良いことが分かってきたことを受け、風力発電に重点を置いた検討を進めていくことになりました。
そのため、第4回~5回の協議会では、風力発電の適地を見つけ出すための具体的な「方法」について検討が進められ、ゾーニング・マッピングの検討手順や検討対象について決定をしました。
鳴門市の環境面・社会面の双方に、極力負担をかけない風力発電設備の設置に適した場所が存在するのか。ゾーニング・マッピングでは、その点を明確にするため、10のリスクの側面からこれを検討することとなりました。
表1 10リスク項目について
「災害」リスクの観点からの適地評価が終了
10あるリスクのうち、はじめに検討されたのは「災害」のリスクでした。
風力発電に使われる風車は、そのブレード(羽)を含め高さは最大で120mを超える巨大な構造物です。その風力発電施設の荷重を支える地盤が緩ければ、土砂災害を引き起こす可能性もあります。
また、風力発電に適した場所の多くは山地にあるため、場所によっては開発による森林生態系への影響が懸念されます。
同時に、森林は水源を維持する上でも重要な環境であり、間違った場所での開発は、水質汚濁や保水機能の低下にもつながりかねません。
こうしたさまざまな災害に直接的、間接的に関連する懸念点が、協議の中でも議論されました。
そして、第6~7回の協議会では、地域の専門家をまじえたヒアリングや文献調査をもとに、災害につながらないエリアを明確にするための検討を重ねました。
その結果、計5つの指定地域の種目(例えば保安林など)をレッドゾーン(開発不可区域)に、計8つの指定地域の種目をイエローゾーン(開発に慎重を要する地域)として、「色分け(ゾーニング)」し、災害を誘発しないようにする観点からの適地評価を終了するに至りました。
検討過程で見えてきた課題と困難
現在のところ、リスクの検討はまだ1つ項目について終わったのみですが、その検討を着実に進めてきた中において、ゾーニングの難しさと、その課題解決の鍵となるポイントが見えてきました。
課題の1つは、「線引きの判断基準」です。
ゾーニングは、レッドゾーン(開発不可)とイエローゾーン(開発に慎重を要する地域)、そしてそのどちらにも属さない場所の3つに分けられます。
地域のある場所をレッドゾーンにするかイエローゾーンにするかの判断は、その場所が法律上の開発が禁止されている指定区域か否かで判断することができます。
しかしその一方で、許可を取れば開発が可能な「許認可制の指定区域」や、そもそも法律上は許認可を必要としない、それでいて名目上は「危険区域」として指定されている場所なども、数多く存在しています。そのため、こうした場所を、プロジェクトの中でどのように色分けするかが、難しい点の一つになっています。
図1 鳴門市での"法的規制"のない土砂災害に関する危険な区域の場所(一部除く) 出典:国土数値情報(土砂災害危険箇所データ):(国土交通省) 【環境アセスメント環境基礎情報データベースシステム(環境省)(https://www2.env.go.jp/eiadb/ebidbs/Service/Top)より】の情報を加工して作成
課題の2つ目は、「情報の選択の難しさ」です。
ゾーニングの検討において重要なことは、地域にどのような指定区域があり、それが地域のどの場所なのかを示す「正しい」地図情報を収集することです。
現在は、省庁によるオンラインでの地図情報も公開が進んでおり、各地域のさまざまな情報を閲覧することができます。
公的かつ利用に際して費用がかからない、こうした情報の活用は、プロジェクトにおいて自主的なゾーニングを進めていく上で極めて有益であり、重要なカギといえます。
ところが、こうしたオンライン上で国により提供されている情報が、実際の現場情報と、異なっている事態も生じています。
たとえば、保護区域などの特定の法的な指定下にあるエリアが、国がオンラインで提供する比較的最近の情報が示す範囲と、地方行政が持っている情報が示す範囲で、ずれていたり、中には存在していなかったりするケースがみられることがあります。
そうした状況の中で、どの情報を根拠とし、活用してよいのか。その正確性を、どのように確保するのか。情報を慎重に収集しなくてはなりません。
困難を乗り越えて進められるゾーニング
こうした課題を乗り越えて、ゾーニングをすすめていくためには、地域が主体となり検討を進めていくことが、やはり重要であるということが、あらためて認識されました。
地域の事情に詳しい関係者が、情報収集をすることで、齟齬のない最新情報をベースとすることが可能になります。
線引きの判断基準についても同様です。法制度上は、線引きが難しいケースがある場合も、慣習をふまえた地域の意思で、決断を下していくことが求められ、またそれが可能となるからです。
プロジェクトでは、検討が終了した「災害」のリスク以外の項目についても、順次検討を進めており、現在は、「景観」、「動植生」、「バードストライク」、「騒音」、「シャドウフリッカー」の5点のリスクに関し、専門家や地域住民へのヒアリングを行ない、検討・協議を進めています。
自然豊かで、文化の息づく鳴門の町で、再生可能な自然エネルギーを導入する、その最適な場所はどこなのか? ゾーニング・マッピングの作業は、いよいよ重要な段階にさしかかろうとしています。