四国のツキノワグマ個体群の「保護計画」の策定を

2015年5月29日、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」が施行されました。

2015年5月29日、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」が施行されました。これを受け、WWFジャパンは6月17日、四国のツキノワグマ個体群について、「第一種特定鳥獣保護計画(保護計画)」の策定を求める要望を、環境省に対して行ないました。四国のツキノワグマ個体群は、生息数が多くて数十頭と推定され、絶滅が心配されています。

新しい「鳥獣保護管理法」のもとで

新たに施行された「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」。

これは従来の「鳥獣保護法(鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律)」を根本的に改正したもので、野生動物の「保護と管理」をめぐる、今後の日本の鳥獣行政の柱となるものです。

従来の鳥獣保護法では「特定鳥獣保護管理計画」制度のもと、各都道府県の知事が指定された鳥獣について、「特定鳥獣保護管理計画(特定計画)」を任意で策定し、これに基づいて、著しく増えたり、著しく減った野生動物の保護・管理を進めてきました。

この特定計画では、「保護」と「管理」は一体のものとされていましたが、新たな「鳥獣保護管理法」では、その2つが完全に分けて考えられる形になりました。

つまり、特定計画を「保護」を目的とした第一種特定計画と、「管理」を目的とした第二種特定計画に二分し、策定・運用することになったのです。

この第一種計画の目的である日本の野生鳥獣の「保護」とは、

  • 生物多様性の確保、生活環境の保全
  • または農林水産業の健全な発展を図る観点から、
  • その生息数を適正な水準に増加させ、
  • もしくはその生息地を適正な範囲に拡大させること
  • またはその生息数の水準及びその生息地の範囲を維持すること

を示しています。

これを受け、WWFジャパンは2015年6月、推定個体数が十数頭から数十頭と考えられている、四国のツキノワグマ個体群の「保護計画」について、環境省に対し申し入れを行ないました。

わずか数十頭?遺伝的にも独自性の高い四国のツキノワグマ

徳島県と高知県の県境にまたがる剣山系に分布する四国のツキノワグマ個体群は、環境省のレッドリストで「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に、また高知県、徳島県、愛媛県のレッドリストでも絶滅危惧種に指定されています。

近年の研究の結果、この四国のツキノワグマ個体群は、本州の個体群と早い時期に分離した、遺伝的な形質についても、固有性の高い個体群であることもわかっています。

しかし、その保護のための計画はこれまでに立てられたことがありませんでした。

今回、WWFが要望した「第一種特定鳥獣保護計画」の策定は、本来、各都道府県の知事、四国のツキノワグマの場合であれば、高知県と徳島県で行なうべきものですが、ツキノワグマ生息地は両県にまたがっています。

このため、両県による「広域連携」が必要となりますが、そのための措置として、環境省は鳥獣保護管理法で「広域協議会」の設置、および広域指針の作成などを支援するとしています。

日本の環境省として、国内で優先的に保全すべき自然や野生生物については、率先した取り組みの姿勢を見せることが、地方自治体の取り組みを後押しし、「保護計画」を実のあるものにしていく上で、重要といえるでしょう。

四国のツキノワグマの未来に向けて

WWFジャパンでは2005年から、四国のツキノワグマ調査を行なってきたNPO法人四国自然史科学研究センターの取り組みを支援し、まだ謎の多いツキノワグマの調査を拡充、行動圏、生殖状況を明らかにしてきました。

また、2012年からは同団体と共同プロジェクトを開始し、ツキノワグマの生態調査のみならず生息地である森の環境調査も行なっています。

プロジェクトの完了が予定されている2016年には、今後に向けた保護活動の進展のため、関係行政機関に対し、調査に基づく科学的・具体的な要請も行なうことにしています。

こうした現場での取り組みに加え、野生動物を長期的に保全していくためには、生息環境の保全をも視野に入れた、行政による法律の改正や、保護計画の策定・実施が欠かせません。

WWFジャパンでは今後も、日本の野生動物の保全に通じる、国内の生物多様性保全に向けて、より進んだ環境行政の実現を目指し、提言を行なってゆきます。

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