誰が給付型奨学金をもらうべきか?ー給付型奨学金が求められる背景

なぜ給付型奨学金の創設が求められるのか。最も大きな要因として考えられるのは…

返還不要の給付型奨学金制度の創設を求める声が高まっている。長年、給付型奨学金制度の創設を求めてきた公明党はもちろん、自民党も18歳選挙権を意識して公約に「給付型奨学金の創設に取り組む」と明記し、参院選後の7月10日夜には安倍首相が「来年度の予算編成で実現していきたい」と明言した。

そうした中、政府・文科省や各党で具体的な制度案がまとめられつつあるが、当事者である若者の意見を伝えようと、11月24日(木)には若者が各党の国会議員に対して提言/議論する公開シンポジウム「奨学金のあり方を問う~来るべき高等教育のあり方とは~」が開催される。

主催は、筆者が代表理事を務める、若者の声を政策に反映しようと活動している「日本若者協議会」だ。

公開シンポジウム「奨学金のあり方を問う~来るべき高等教育のあり方とは~」

【開催概要】

日時:平成28年11月24日(木)18:30~20:00

会場:衆議院第二議員会館第8会議室(東京都千代田区永田町2-1-2)

対象:39歳以下の若者、教育関係者、本テーマに関心のある方

【パネリスト】

(1)国会議員

自由民主党 左藤章 衆議院議員

民進党 平野博文 衆議院議員

公明党 富田茂之 衆議院議員

共産党 田村智子 参議院議員

日本維新の会 浦野靖人 衆議院議員

(2)有識者

中央大学文学部教授 山田昌弘 氏

(3)若者

コーディネーター:日本若者協議会 代表理事 室橋祐貴

https://www.facebook.com/events/212516109159536/

そこで、給付型奨学金が求められている背景や、現在政府・文科省や各党でどのような議論が行われているのか、また日本若者協議会としてどのような意見を提言しようとしているのか、複数回にわたって説明していきたい。

教育費負担が高まり続ける日本

なぜ給付型奨学金の創設が求められるのか。最も大きな要因として考えられるのは、高騰し続ける授業料と低迷が続く世帯所得のアンバランスさ、つまり家計における教育費の負担の高まりだ。

下図は物価水準を現在に調整した大学授業料の推移だが、一貫して上昇し続けているのがわかる。

※主旨とはズレるため詳細は省くが、大学授業料が高騰した理由は、教育の充実や設備の改善、大学内の奨学金制度の充実などが挙げられる。

一方、世帯あたり平均所得はほとんど増えておらず、むしろ2000年以降は低くなっている。

しかし、おそらくほとんどの人がこの数字でさえ多く感じたことだろう。このグラフは平均所得だが、中央値で見れば、全世帯が427万円となり、200万円台の世帯が14%と最も多い。

平均値を下げている高齢者世帯・母子世帯を除いても、中央値は556万円。300万円台の世帯が11%、400万円台が10.7%と最も多くなっている。

こうした状況下で家計における教育費の負担は重くなる一方、大学進学率が高まってきたのは親が苦労して子どもを進学させてきた背景がある。

2004年の総務省統計局「全国消費経済実態調査」では、大学生のいる世帯では可処分所得より消費支出が多く、赤字となっている。

国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)の「家計における教育費負担の実態調査」(2006年)では、家計年収が200万円以上400万円未満の世帯では、教育にかかる費用の年収に対する割合は、49%と半数近くになっている。費用の捻出方法としては、「子どもがアルバイトをしている」が44%、「預貯金や保険などを取り崩している」が39%となっている。さらに、東京地区私立大学教職員調査(2006年)によると、首都圏の私立大学短大に入学した子どもを持つ家庭で自宅外通学者の場合には、銀行などから借入を行っている家庭は約3割で、平均207万円の借入をしている。

また、子どもの負担も大きくなっている。

今や大学生の2人に1人(51.3%)が何かしらの奨学金を利用し、3人に1人が日本学生支援機構の奨学金を借りている。

そして非正規雇用の増加に伴い、滞納率も高まっており、2014年度末までで3ヶ月以上の滞納者は約17万3000人(4.6%)も存在する。

日本学生支援機構が実施した調査結果によれば、延滞が継続している理由は、「本人の低所得」が51.6%と最も高いが(本人の失業中・無職、病気療養中を加えれば75.7%)、親の経済困難も40.6%と大きな要因になっている。

平成26年度奨学金の返還者に関する属性調査結果 - JASSO

※平成25年度までは2つまで選択、平成26年度はあてはまるもの全て選択。

「自分は頑張って返済したから今の若者も頑張って返済すべき」、という意見も存在するが、社会保険料などの増加も重なり、昔とは大きく時代背景が変わってきていることを理解する必要があるだろう。

大学への進学機会に大きな影響を与える所得階層

そして、高等教育というのは、大学に行ければ十分というものではなく、どこの大学に行くかが非常に重要であるが、学力だけではなく所得も大きく影響しているのが現状だ。

特に私立大学進学は顕著であり、家計所得1000万円以上の高所得層は44%と半数近くを占めるが、400万円以下の低所得層では22%と半分にとどまり、所得階層差は大きくなっている。

一方、国公立大学の場合には、高所得層11%に対して、低所得層9.5%と所得階層による差はほとんどない。

だが、直感的にもわかりやすいだろうが、学力と所得階層の相関性は強い。高校の成績上位者は低所得層では14%だが、高所得層では28%と2倍の差がある。そして、新卒採用が一般化されている日本では、学歴が重視されており、どこの大学を卒業したかで生涯年収も異なってくる。

上記で述べた通り、単なる進学であれば、国公立大学の場合は大きな差がないが、東京大学在校生の世帯年収は950万円以上が半数以上を占めており、学歴と所得階層の相関は明らかだ。

また、教育観に与える影響も大きい。

具体的には、低所得層ほど大学に価値をおいておらず、「誰でも大学に入れる時代だから、大学を出てもたいした得にはならない」と思っている(低所得層32%、高所得層19%)。ところが実際は大学教育の収益率は6~8%ほどになっている(大卒と高卒の収入格差は約1.4倍)。

結果的に、ローン(返還型奨学金)を借りる行為に抵抗が強く、大学進学を選択しない低所得層の家庭も一定数存在する。東京大学の小林雅之教授らによる調査では、毎年、高卒後進学しなかった者のうち、約6~7万人が「給付型奨学金があれば進学したい」と答えている。

(参考:小林雅之著「進学格差ー深刻化する教育費負担」ちくま新書)

日本だけ存在しない給付型奨学金制度

こうした教育の格差是正のために、各国では大学授業料の無償化や奨学金導入が進められているが、OECD34カ国中、給付型奨学金制度が存在しないのは日本だけだ(半数は大学授業料が無償)。

そしてよく使われる図であるが、日本は教育の公的負担率が低く、私的負担が高くなっている。

GDPに占める高等教育の負担割合

教育への投資は本人だけではなく社会的にもメリット

一方、給付型奨学金に対する批判として、個人のために税金を払うのは納得いかない(受益者負担)というものがあるが、これは誤解である。

確かに給付型奨学金は福祉としての側面は存在するが、大学進学者は収入が比較的高く、その分将来的に収める税金も多くなる。つまり、社会的投資としての側面が大きい。税収だけでなく失業給付抑制や犯罪費用抑制額なども含めれば、大学生への公的費用は約2.4倍の社会的効果をもたらすという調査結果も出ている(平成22年度文部科学省委託調査「教育投資が社会関係資本に与える影響に関する調査研究」三菱総合研究所)。

また、人口が減少している日本にとって人材の質を高める必要性は高まっており、より多くの人が高等教育を受けられるようにする給付型奨学金は大きな意義があると言えよう。

さらに、国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、理想の子供数(2.42人)を持てない最大の理由は「子育て・教育にお金がかかりすぎること」(60.4%)と答えており、家計における教育費の負担増は喫緊の課題である少子化にも大きな影響を及ぼしている。

しかし同時に、教育費の負担減や世代内の格差を是正する奨学金だけではなく、大学卒業者の質を上げるための取り組みも欠かせない。誤解を恐れずに言えば、本当に行く必要があるのかよくわからない大学が存在することも否定できない。

また、近年大学の研究環境は悪化が続いており、こちらの改善も欠かせない。

このように、高等教育政策全般を見直す時期にいる日本だが、冒頭述べた11月24日(木)に開催する公開シンポジウムでは、時間が許す限り、高等教育のあり方についても議論していきたいと考えている。

主要政党の奨学金政策に関わる国会議員が揃う機会はそう多くない。ぜひとも多くの若者やメディアに参加してもらい、意見を述べて/広げて頂きたい。

次の記事では政府・文科省や各党でどのような議論が進められているのか見ていくこととする。

(2016年11月20日 Yahoo!ニュース個人より転載)

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