南カリフォルニアの大手肉会社 工場壁画の議論とロサンゼルスの食文化

1931年に開業し、現在まで83年間の長い歴史を持つ豚肉会社ですが、つい最近になり、インターネット上で人々からの思いもよらない反発を受けているようです。その原因は、肉そのものではなく、工場外壁を覆う巨大壁画。
Yuki Toy

ファーマージョンズ「Farmer John's」は、南カリフォルニアと拠点とする大手豚肉ブランドです。コストコやウォルマートを始め、各地の食料品店でファーマージョンズブランドの生肉や加工食品の卸が行われています。

1931年に開業し、現在まで83年間の長い歴史を持つ豚肉会社ですが、つい最近になり、インターネット上で人々からの思いもよらない反発を受けているようです。その原因は、肉そのものではなく、工場外壁を覆う巨大壁画。 牧場で戯れる豚や人間の描写、その風景があまりにも奇怪で残酷であるとのことなのですが...。

ロサンゼルス・ダウンタウンの南、バーノン市に位置するファーマージョンズの壁画は、1957年に当時のオーナーであったバーニー・クロウティが、画家のレス・グリムスに仕事を依頼したことから始まりました。グリムスは11年かけて大半の壁に絵を施しましたが、作業中に足場をすべらせ転落。グリムスの死後は、もう一人の画家であるアーノ・ジョーダンが残りの全ての絵を仕上げました。

のどかな雰囲気の漂う牧場風景ですが、よく観察すると確かにストレートな和やかさと言うよりは、どこか気鬱感も見え隠れするような印象も持合わせているようです。

豚の目は人間の目の様な形をしています。笑みを浮かべる豚、空を飛ぶ豚など、子供の絵本にも登場しそうな豚達が牧場内に点々としていますが、その風景は、ファンタジックであると同時に、ちょっとした不気味さも漂っているといえるかもしれません。

そして人間の絵には、農場主やその家族らしい女の子らの姿が見受けられます。先ほどの空想的な豚達の雰囲気とは反対に、豚を懸命に仕留める場面や、豚の鼻輪にひもを付けて優雅に歩くシーンなどの場面が多く目立ちます。

これらの描写がインターネット上で批判の種となっている訳ですが、これは食用動物と人間のヒエラルキーが一目瞭然であるとされ、生々しい過酷な描写シーンが多い猟奇的な牧場壁画として、ロサンゼルスの人々に捉えられているためでしょう。

なぜ45年以上も経った今になり、これらの描写にロサンゼルス市民からの批判が寄せられているのでしょうか。

多民族年都市であるロサンゼルスの食生活は、世界各国からの食文化がフュージョンされています。今までのアメリカの肉食文化から比べると、最近では、「オーガニック」と記された食料品を販売するお店や、ベジタリアンやヴィーガン(絶対菜食主義)のレストランが多く目につき、人々の食生活が、肉食から野菜志向へと大きく移行している傾向が見られます。また、アメリカの畜殺場での動物に対する不憫な扱いや不必要な虐待も問題となり、今回のファーマージョンズの壁画批判が肥大したといえます。

昨年は、ロサンゼルスのローカルアーティストにより「豚が牧場主を殺傷するという反乱が起きる」現場を描いた、真逆のパロディ壁画が誕生しました。

私はベジタリアンではなく、周りにもお肉を食べる人はたくさんいますが、私が講師として受け持つクラスにも、その異なる食文化を垣間見ることができます。例えば、学期末にクラスの生徒達と宅配ピザを注文し、みんなで集まって食べることがあります。私はその時必ず1枚はベジタリアンのピザを注文するようにしており、クラス内の1人から2人の野菜主義の生徒が、みんなと一緒にピザを楽しんでもらえるようにしています。健康のため、動物愛護、宗教上の問題、彼らの野菜主義の主張は様々ですが、人が集まる所では食材に注意を払わなければなりません。

栄養素だけに限らず、私たちの「バランスのとれた食事」とは一体何なのか。肉食、野菜主義のどちらも簡単に肯定・否定することのできない時代の流れを感じます。 現代のアメリカ食文化事情が、ファーマージョンズの壁画に反映しています。