なぜ、CDを聞くだけでは「音楽療法」にならないの?

残念ながら、日本では何でもかんでも音楽療法だという傾向があるようです。

先日、某レコード会社の方からご相談を受けました。

「音楽療法を普及するために何かしたい」とのこと。

それは嬉しいことですが、まず最初にお話したことは、「CDを聞くだけでは音楽療法にはならない」という点です。

それを聞いて、その方はとても驚いていました...。

彼は今、音楽療法に関して情報を集めているところで、すでに数人の音楽療法士とお話をされたそうです。それでもこの基本的なことを知らなかったということは、世間一般では音楽療法はまだまだ誤解されているということなのでしょう。

ではなぜ、CDを聞くだけでは「音楽療法」にならないの?

音楽療法とは、そもそもセラピストとクライアント(対象者)の関係性の上に成り立つものです。このことは、米国音楽療法学会(AMTA)の定義でもはっきりと記されています。

音楽療法とは、臨床的かつエビデンスに基づいた音楽の使用法。 セラピストとクライアントの治療関係の中で、個人の目的を達成するために音楽を利用する。承認された大学を卒業し、資格をもった音楽療法士によって行われるものである。~「音楽療法 Q&A」 より

皆さんも音楽を聞いてリラックスしたとか、エクササイズの役に立った、というような経験があると思います。そういう「音楽の使い方」と臨床診療としての「音楽療法」は、別なのです。

しかし残念ながら、日本では何でもかんでも音楽療法だという傾向があるようです。欧米では音楽療法と呼ばれていないことでも、日本に入ってくると音楽療法と訳され、宣伝されたりしています。

私はすべての人に音楽療法が必要だとは思っていません。CDを聞くだけで十分な人もいますし、音楽療法以外のアプローチが適している人もいます。ただ、混乱が起こると一番困るのが音楽療法を受ける立場の人たちですから、正しい知識を広めることは大切です。

レコード会社の方には、「誤解を招くので、『音楽療法CD』みたいなものは作らないでください」と伝えしました。音楽療法普及に関しては、別の形で貢献していただければと思います。

【佐藤由美子】

米国認定音楽療法士。ホスピス緩和ケアを専門としている。米国ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州のホスピスで10年間勤務し、2013年に帰国。著書に「ラスト・ソング 人生の最期に聞く聴く音楽」(ポプラ社)がある。

(2016年4月25日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

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