中国の李首相が早速ベトナムを訪問し、領有権問題の懐柔策をベトナムに提示
中国の李克強首相は10月13日からベトナムを訪問し、ベトナムのグエン・タン・ズン首相、ベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長らと相次いで会談を行った。10月10日に開催されたASEAN首脳会議の直後にベトナムを訪問した背景には、南シナ海の領有権問題を有利に進めたいという中国側の狙いがある。
中国とベトナムはフィリピンと同様、南シナ海での領有権問題を抱えている。ベトナムは当初、フィリピンと同様、中国と激しく対立していたが、チュオン・タン・サン国家主席が2013年6月に中国を公式訪問したことをきっかけに、融和的な政策に転換している。背後には、中国からの手厚い経済援助がある。
今回のAPEC首脳会議においても、中国に対して批判的な発言をしたのは日本とフィリピンだけであり、ベトナムなど他のアジア諸国は表立った中国批判を控えた印象であった。
中国は日本やASEAN各国が求めている多国間協議を通じた領有権問題の解決は望んでおらず、当事者同士の個別交渉による解決をかねてから主張している。会議では南シナ海における行動規範の早期策定を望むという点では一致したものの、具体的な進展が見込める状況にはならなかった(本誌記事「オバマ大統領の欠席で中国は時間稼ぎに成功。東アジア首脳会議での成果は今ひとつ」参照)。
李首相とベトナム首脳との会談では、南シナ海問題の解決に向け、海路、陸路、金融という3つの分野で合同作業グループを発足させ、協力関係の具体的な進め方について協議することが確認された。回りくどい言い方になっているが、要するに海洋資源の共同開発、交通インフラの整備、金融スワップ協定の締結という形を通じて、中国がベトナムに経済援助を実施するという内容である。ベトナムのグエン・フー・チョン書記長は会談で「中国の積極的な援助に感謝する」との謝意も表明されている。
各国との個別交渉ではなく、多国間協議を望むという日本やASEAN各国の要望が示されたASEAN首脳会議の直後に行われた事実上の個別交渉であり、個別交渉を強く望む中国の姿勢をあらためて強調したものといえるだろう。今回のASEAN首脳会議は米国のオバマ大統領が債務上限問題で欠席となったことから、中国に対する多国間協議への参加要請は迫力を欠いたものとなってしまった。中国の経済力を背景に、南シナ海問題は個別交渉で少しずつ切り崩されていく状況にある。
【参考記事】
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