オープンから半年で来館者数50万人を突破した佐賀県武雄市の「武雄市図書館」。TSUTAYAで知られる「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(CCC)を指定管理者とし、図書カードにTカードを導入したり、スターバックスを併設したりと、これまでの公立図書館のイメージを覆す図書館として注目を集めている。しかし、一方でその手法は図書館界から多くの批判も受けてきた。
全国の図書館関係者が一堂に集うイベント「図書館総合展」では10月30日、フォーラム「“武雄市図書館”を検証する」を開催。武雄市の樋渡啓祐市長、武雄市図書館を担当するCCCプロジェクトリーダー、高橋聡さん、図書館政策や全国の図書館づくりに関わっている慶應義塾大学文学部の糸賀雅児教授をパネリストに、立命館大学文学部の湯浅俊彦教授をコーディネーターにして、激論がかわされた。果たして、武雄市図書館は「進化する公立図書館」か、「公設民営のブックカフェ」か。今後の公立図書館のあり方を考える上で示唆に富んだその議論の全文を掲載する。
糸賀教授からのプレゼンテーション、それに対する樋渡市長からの反論などに続き、満員で立ち見も出た会場に参加している有識者や関係者からも武雄市図書館や現在の公立図書館について活発な意見が出された。中でも、現在、駅前開発でCCCと連携し、新しい図書館を建設している宮城県多賀城市議に注目が集まった。
■日経新聞松岡さん「図書館の価値が変わり、模索の時代」
湯浅教授:色々と議論が進展していってますけれど、今ここの会場、びっしり立ち見もおられますけれど、武雄市図書館に行ったことがある人?どんなもんでしょう?30人、40人ぐらいかな。そんなもんでしょう。そんなに必ずしもみなさん、行かれたわけではないですよね。まあ近い将来、1年以内ぐらいに武雄市図書館に行ってみたいなと思っている人?そこそここれもいらっしゃる。ありがとうございます。基本的にやっぱり代官山の蔦屋書店もそうなんですけれど、駅前の蔦屋書店のことを蔦屋と思っている人もいれば、代官山蔦屋に行って、あの雰囲気というのをつかまえて、ああいう図書館ができるのかということをわかっている人と、なんだ駅前の蔦屋が図書館になるのかと確かにいるわけなので、聞いてみました。
もう一度戻しますと、利用者の声が非常に評判がいいというのは、スライドで最初、示しました。さまざまな日本の図書館で、そういった利用者アンケートがとらえているわけですが、たとえば大阪府立図書館が市場化テストを行うという時に、「図書館雑誌」の昨年の号でも、「北から南から」という投稿欄のところに、この市場化テストは失敗だったということを投稿された方がいました。これに対して、図書館流通センターの方に実際、受託していてどうなんだと私はお聞きして、それを私の図書館制度経営論の授業で学生に配って、学生に両方の意見を読んで書いてもらうということをやりました。
今年も本当にここに来て、参加者の名簿をもらったのですが、大阪府立図書館の関係者、図書館流通センターのナカフジさんはいます?いない。じゃあ、オサダさんは?あれ、いない。残念だな。そういった方のご意見を伺おうと思ったのですが、本当にいらっしゃらないですか?どっかに隠れてない? 要は利用者アンケートを取ったら非常に評判がいいのだけれど、大阪府立の場合は、府立中央図書館の方のコアな、まさにそのレファレンスサービスを受けるようなコアなお客さんよりも、一般の来館者数は増えているだけだという批判の流れがあったものですから、御聞きしたかったのですが、いらっしゃらないですね。
そうしますともうひとつ、日本経済新聞社の松岡さんいらっしゃいますか?すみません、松岡さん、大変恐縮ですが、この間「図書館新時代」と5回連載されていたじゃないですか。あの新時代の中で、図書館というのはいろんなバリエーションがあるんだという、あの3名ぐらいの連名で書かれている、実際にあれを取材されたりして、図書館について、図書館の新しい動向について松岡さんの目から見た、さきほど糸賀さんのおっしゃっている古い図書館といったら変ですけれど、どういうふうに映っているのか、ちょっとお話いただけますか?
日経新聞松岡さん:武雄市図書館だけじゃなくて、全体的にということですか?
湯浅教授:ええ。取材されて、図書館はだいぶ変わっているという特集だったと思うんですね。
日経新聞松岡さん:武雄ばかりがいま、注目されているんですけれど、実際はいろんなところでいろんな動きがあって、図書館の価値といいますか、図書館に求めるものが相当、変わってきているなと。それはたぶん、地域によっても違うでしょうし、条件も違う。それは丁度、いま模索の時代じゃないかなということで、我々は書いたつもりです。ですから、我々は連載の1回目という意味で書いてます。
湯浅教授:ありがとうございます。具体例を色々あげて話していただけるとたくさん面白いお話が出てくるのかなと思うのですけれど、急にあてまして、すみません。結局、どうなのでしょう、図書館のために図書館があるのではなくて、住民のために図書館があるというスタンスに立つとすれば、地方自治、地方分権の時代に図書館をどうみているか首長さんや市会議員、さまざまな方々の動きがあると思います。今日、会場に神奈川県の大和市長が来られていますか?恐れ入ります、図書館にかける首長さんの思いがあればお話いだければ。
■宮城県多賀城市の根本市議「駅前開発で集客力のある図書館にしていきたい」
大和市の大木哲市長:そうですね。お話を聞いていて、糸賀先生の気持ちもよくわかりますし、樋渡市長の気持ちもよくわかります。両方とも間違っているとは思わないですし、これからの新しい時代の図書館として、非常によいお話を聞かせていただきました。これから私共も、大きな図書館を作りますが、一番大きな理由は高齢化社会です。非常に高齢者の方々が図書館を利用する方が増えています。ですので、以前だったら昔の仲間に会って、図書館の「と」の字も出なかったのが、今や図書館の話をする。こういった視点から、私どもは高齢者、まあ高齢者の方だけではないのですが、健康というところに力点を置いたコンセプトとしては、健康図書館という理念でもって、図書館を作っていきたいと思っています。今日のお話、本当にありがとうございました。
湯浅教授:どうもありがとうございました。続いて、だんだん勝手に当ててますが、(宮城県)多賀城市の市会議員の方々はどちらにいらっしゃいます?このあたりに。名簿によると、議員団で来てるじゃないかという感じなんですけれど、ちょっとご発言いただければと思います。どなたでも。よろしいですか?多賀城市がこれから作ろうとしている図書館、どういう思いをそこに託そうとしているのかお話もらえれば。
多賀城市議会の根本朝栄議員:多賀城市議会の根本と申します。樋渡市長さん、ご無沙汰しておりまして、この間はありがとうございました。私は議会の方からも武雄市図書館を視察させて頂き、大変感銘を受けたわけでございまして、実は、多賀城市は駅前開発を行っておりまして、2棟の開発ビルを建設する予定になっております。そこのA棟の方にですね、今、CCCさんと連携協定を結んで図書館を作っているというふうになっております。
多賀城市の場合、中心市街地の活性化が非常に大きな課題になっておりまして、武雄市図書館さんは1日2800人来る。で、本市では今、だいたい300人前後の図書館の利用者ということがございまして、ぜひとも武雄市さんのいいところを学んで、駅前に集客力を上げていきたい。またうちの市長さんは東北一の文化交流拠点を設けたいというふうになっておりまして、駅前から市役所文化センターまでの遊歩道を作って、文化の拠点にしたいという考えでございます。したがいまして、駅前に人が集まらないとこの計画は失敗するということでございますから、駅前に図書館を持っていきながら、多賀城らしい図書館の建設をして、そしてまた集客ができるような図書館にしていきたいということで、武雄市図書館さんを参考にさせていただきたいと思っております。
湯浅教授:ありがとうございます。さすが当てる人、当てる人、みんなそつなくお話される(笑)。しかもちょっと響いてきますけれども、今のコメントを受けて樋渡市長、何かございますか?
■樋渡市長「図書館の見方を変え、問題提起をしたと思っている」
樋渡市長:聞きながら思ったんですけれど、図書館というのは多様性の象徴であるべきだと思うんです。要するに、本というのは多様性のある意味、象徴じゃないですか。自分にとって合わないとか、合わなくてもこの人なら合うとか、多様性と寛容ですので、そういう意味でいうと、いろんな図書館があっていいと思うんですよ。直営でやってもいいし、私どものように指定管理者でやってもいいし。さっき大和市長がおっしゃったようにテーマを決める図書館があってもいいし、多賀城の市議会議員さんがおっしゃったような町づくりのエンジンにするというのもいいし、今まで僕からすればですよ、図書館というのはイメージをつけやすかった。一律の。いろんな図書館があって、小さいかもしれないけれど、考え方をシャッフルする、あるいは見方を変えるという意味で僕らは問題提起したと思っているんです。
僕らの図書館はこうあるべきだ!他の図書館も私達の図書館のようにするべきだ!というのは全然ないんですよ。僕らの立脚点はあくまで武雄市民、利用者の方なので、そういう方たちにとって市民価値が上がればいいと思います。さっき日経の記者さんがおっしゃったように、確かに模索の時代だと思います。我々がある意味でパンドラの箱を結果的に開けたっていうことは、良きにつけ悪しきにつけ思っていますので、これをきっかけに図書館というのは、図書館のための図書館じゃなくて、高橋さんが言ったように大きな町づくりの意味で、町の中の図書館というのを考える、今日のシンポジウムそのものがきっかけになればいいなと思っています。
湯浅教授:ありがとうございます。昨年のフォーラムでも図書館づくりはニアイコール町づくりでしたっけ、おっしゃっていたかと思うんですが、糸賀さん何かそこで。
糸賀教授:今日は武雄の図書館を取り上げられていますけれど、実は武雄という市の名前をひっくり返すとですね、北海道の人口5200人の小さな町になります。これ、雄武町っていうんです。ちょうど人口が武雄市の10分の1のサイズです。ここが図書館を作ろうとしていまして、私は雄武町の図書館アドバイザーをやっているんですね。そこでの図書館の作り方はいまおっしゃったように全然、武雄と違います。町長はほとんど前面に出てこない。それでもって、教育委員会の中で住民の方も入って、ああいうところの住民といってもね、本当に町内会の会長さんだけじゃなくて、郵便局長さん、信用金庫の理事長さん、いわゆる町の有志なんです。こういう方たちが出てきて、ワークショップをやって、どんな図書館がいいかみんなで意見を出し合って、時間をかけて図書館を作りあげていっています。そういうやり方もある。それは本当に多様だと思います。
■糸賀教授「それぞれの自治体は武雄市が投げかけた問題の答案づくりをしている」
糸賀教授:図書館は今まではすごい狭い範囲にあったと高橋さんはおっしゃるんだけど、実は日本の図書館はもう、90年代から2000年代にかけて、指定管理者制度が導入された時からもうこれは完全に多様化です。いろんな図書館のあり方があるし、どこに力点を置くかもそれぞれの地域、町によって違うんです。ですから、武雄の場合は今回の武雄市図書館が地域にとって最適解なんですね。それぞれの最適解を求めるために、それぞれ大和市は大和市さんでおやりになっています。いま紹介した雄武町は雄武町の手法で町民も入って、町づくりの一環としての図書館づくりやってきています。日本全体がこの武雄によって問題提起されて、それぞれが答案を書かなければならない。自分たちの町はどうあるべきか、その中で図書館をどういう位置づけるのか、人が集まる集客性のある施設をどのように配置していくのか、そういう問題を投げかけられて、それぞれの自治体が今、答案づくりに取り組んでいるということです。
湯浅教授:それでは糸賀先生は、指定管理者制度についてはこの方向でOKだということですよね?というのは、日本図書館協会が指定管理者制度が図書館には基本的になじまないという見解を出しているわけですよね。で、図書館界って別に一枚岩ではないと思うんですが、糸賀先生としてはそこはどうなんですか?
糸賀教授:むしろ指定管理者制度は良い刺激を公務員に与えたと思っています。このままだったら、うちの町も指定管理者に持っていかれる。だったら、住民のニーズにあった図書館サービスを考えていかなければいけない。俗にいうお尻に火が点いた。それまでぬるま湯に使っていた公務員を目覚めさせたという効果はあります。あと問題は民のノウハウはいかに官の中に組み込んでいけるか。お互いの持ち味、メリットを活かしたよい図書館にしていくにはどうしたらいいのかは考え方によって違うんじゃないのかと思います。
湯浅教授:ありがとうございます。我が国を代表する図書館情報学者の糸賀先生からそういうご発言をいただき、なかなか面白いなと思っているんですが、さっき糸賀先生は武雄のちょっとここはよくないなんじゃないかっていう点をあげておられた時に拍手なんかも出ていましたが、拍手したあたりは誤解をされているんだと思うんですね。指定管理者制度になにか反対をしている、よくないんじゃないかほら、というところを見ておられるんじゃないかなという気がしないでもないです。
ですね、この会場でだいぶいろいろと意見をお聞きしたんですけれど、日本ペンクラブの山田健太さん、おられてますか?ペンクラブの組織としてではなく、山田健太さんの個人の考えで十分けっこうですので、指定管理者制度の後、著作権者の立場から、公立図書館の今までのあり方が変わってきたことに対して、危惧があると思うですよね。書協なんかが言っているような部分と重なるのかもしれませんが、ちょっとお考えをいただければと思うのですが。
■CCC高橋さん:「武雄でやったことを金太郎あめみたいに出せると思っていない」
日本ペンクラブの山田健太さん:ペンとしては、まずは新しい図書館がこういう形で広がっていくのかと俯瞰しているというのが率直な気持ちであります。もちろん、糸賀先生も指摘されたような公平性あるいは公共性の問題で議論しなければいけないなということはありますが、この半年間みて、さらに1年間みて、議論していきたいと思っております。それはそれとして、せっかくなんで、実は市長にはお聞きしたいことがいっぱいあるのですが、あえて今日は圧倒的に発言数が少ない高橋さんに少し発言してもらいたいと思ってお聞きしますが、この半年間、武雄というより、枠をはずして随分、いろんな経験をされたと思うのですが、CCCとして、あるいは高橋さん個人として、新しい日本における図書館というのはアイデアがあるのか、武雄でなくって、あるいは公営という枠を外した場合、高橋さんならでは、CCCならではどういう図書館がありえるのか。たぶん、この半年間、準備期間含めて1年間で思いがあると思うんですね。ただ今はなんとなく武雄というある程度の枠がある。その枠を外した時にどんなものがあるのかお聞かせ願いたいです。
CCC高橋さん:そういう意味でいうとですね、僕の中にこんなふうに図書館がいいというのは一切、ないんですよ。くわしくは言えないのですが、いろんな市町村の方からご相談を受けるんですが、その度ごとにその地域にとって何がいいかを一球入魂で考えているので、あるひとつの形はないです。そういう意味でいうと、ある町で図書館やる時は、町の人の話を聞いたり、その町がどう進んでいくかを気にしながら、そこにあったものを僕らは具現化していくというのがやるべき姿かなと思っているので、申し訳ないです。ご質問に対してない、というのが答えです。
湯浅教授:パッケージソフトがあるわけではなく、お客さんと一から作っているものであるという意味ですか?
CCC高橋さん:そうです。僕らは武雄でやったことが金太郎あめみたいにいろんなところに出せることなんて全然、思ってないし。いまたまたま多賀城からお話いただいて、企画からやらしてもらっていますが、武雄はすみません、あんまり関係ないんですよ。多賀城がどうかということを考えていますので、ないということです。その地域にとっての図書館が、その地域にとってどうあるべきかというだけですね。
せっかくなんで、ちょっといいですか(苦笑)、僕は、糸賀さんの話を聞いていると、僕の立場の話をしますね、先生は多様性のある図書館を認めつつも、武雄市図書館の新着本の場所がわかりにくいとか、椅子の数がってなると、僕らみたいな事業者がそういう新しい価値を作ろうとした時に、やっぱり責任ある方にこういう場で言われてしまうとですね、二の足を踏まれるし、消極的になるというのが、やっぱりそれは正直いうと僕はかなりストレス耐性が高いのでこういう場に出てきてますけれど(笑)、普通にやっぱりこういう有名な大学教授が新着本の場所がわかりにくいって言ったら、次やる人がびびりますよ。それと多様性を認めるというのは、僕としてはこの場でもうちょっと大きい話をしたほうがいいんじゃないかなというのが、今後の図書館というものに対して意味があるんじゃないかなと思います。
■糸賀教授「武雄は市場が成立しているものを官にうまく取り入れている」
湯浅教授:糸賀先生の意図としては、さきほど、いろんな図書館の書架の構成なんかも見せておられたんですけれど、こういうところもあるよ、ああいうところもあるよ、だけじゃなくて、図書館のいわゆる地方政府の時代において、図書館のあるべき論ですよね。どういうものだというもう一度、そこのところに話を持っていきたいと思われるんですけど。糸賀先生も新しい公共性を考えておられると思うですけどね、そこは一本筋を言っていただければなと思うのですが、いかがでしょう?
糸賀教授:筋の通った意見が言いにくい時代ですよ。もう5年前に考えていたことが今は通用しないし、あの頃が正しいと思っていたことが今は必ずしも正しくなくなってしまった。だから、一本筋の通ったことはすごく言いにくいんです。まして、武雄の図書館を前にしたときに従来の図書館理論は通用しませんから。新しい理論でいくんですよ。それで私はストレートにものの言い方をしたかもしれません。武雄組は2人で、私は1人ですからね。少々不利なので、少々過激なことを言ったのかもしれませんけどね、私はこれからの図書館は武雄の問題提起をきっかけに、それぞれの模索をしていくんだと思います。
ただしね、これは行政サービスの一環なんですよ。原資は税金です。それだけに、私は民の魅力を活かしながら、官が本来やるべき公平性、公共性、そして市民と一体となった公共性、そういうものを実現していかなければいけない。私、さっきTポイントのところで、地域通貨のように考えればいいじゃないですかと言いました。今、お店増やしているんですよね、聞きましたよ。居酒屋さんでも使えるとか、フラワーショップでも使えるとか、ペットショップでも使えるとか。だったらいっそのこと地域通貨にしてしまったら、いいんじゃないかと。その時、TポイントのTは、武雄のTになると思うんですよ。しかもそのモデルは次でもいけます。多賀城ですから。全部Tポイントで行けるんじゃないかと(笑)。
冗談はともかく、そういう行政がやるサービスなので、従来はですよ、これは従来の公共経済論でいうと、官は市場が失敗する領域でやるべきだと。そうしないと民業を圧迫するというふうに言われていた。ところが、武雄の場合は市場が成立しているものを官の行政サービスの中にうまく取り入れたわけですよ。つまりね、従来の考え方ではなく、そこに市場が十分成り立っているレンタルの領域や販売の領域、カフェの領域も取り込んでいった、ここが面白いところでこれからの図書館のあり方にとってもポイントになるだろうと思います。
それだけに私が心配するのは、武雄を見ていても映像と音楽のレンタル部門ですよね。あそこはあれで採算が取れるのかどうか。あそこは見直した方がいいのではないかと感じました。一方で、武雄にはTSUTAYA武雄店があるんです。大きな面積でそこはレンタルDVD、CDも、コミックもある。そこはけっこうお客さんが入ってくる。だからあのスペースは、子供が本を読むスペースをもう少し広げてあげるとか、なんとか進めていってほしいと思います。映像のレンタルの部門は私はあれで採算性が十分とれるのかどうかが大きな気がかりでした。
■湯浅教授「地方政府の時代、図書館がポータルサイトに」
湯浅教授:糸賀先生、また違った矮小化をされてますが(笑)、たとえば、地域資料と図書館の関係でいっても、さきほどどこにあるかといった話もされましたが、本来その地域の資料というのは、郷土史や歴史的なそういったものだけじゃなくて、まさにいまの行政とかですね、そういったものが発信しているものも、図書館というひとつのポータルサイトを通して住民がそういう情報を非常に得やすい環境にすると。中には当然、ホームページにありますとか、さまざまな女性センターだったり、商工会議所だったり、いろいろな機関が持っている情報を図書館というところから探していけるようなものを作る。地方政府の時代における図書館のポータルサイトがあると思うんですね。
その観点から糸賀さんは、今、武雄の話は空間演出上の話がメインになっていますが、武雄は決してそれだけで済まそうとしているわけではないと思うのですね。「図書館が街を創る。」っていう本まで出てましたが、あの中で樋渡さんは武雄市図書館発の書籍を作ってもいいんじゃないかとか。つまり、これまでも、図書館の中で地域資料を編成することによって、新たな情報を発信するという機能もあったと思うんですよね。それを糸賀さんの理論ではどうふうになるのかちょっと。
糸賀教授:それは確かに大事な図書館の役割だと思いますよ。地域資料は当然、本屋さんではなかなか売られていないですし、さっき私が言った、まさに市場が失敗する領域なんですよ。だけれどもね、私は武雄の場合は優先順位の問題で、そこにあまり優先順位を置かなかったというだけなんです。もっと他に優先すべきことがあった。もっと大事にしたいことがあったからじゃないんですかね。もっと人が集まる。そして、マガジンストリートとかああいうものを作りなんてものを考えると、そういうことを今の段階では優先されたんだというふうに思います。一方、いま湯浅先生が言われるようなことは、また別の図書館はうちは地域資料を大事にする。たとえば同じ指定管理者の「武蔵野プレイス」(編集者注:東京都武蔵野市)なんかは、そういうものをかなり重視してそこに力点を置いた図書館づくりをしているわけです。それはまさに多様性なんだろうと思います。
湯浅教授:ありがとうございます。樋渡さんここで何か、今の部分に関してありますか?地域資料を今後、どういうふうに?
樋渡市長:糸賀先生のことに対して言うことは一個も何もありません。要するに我々は再三、言っていますように、来館者の方たちのハート、意見を大事にしたい。もちろん、図書館法に定められている例えば資料の収集はきちんとやっていきます。糸賀先生の言うとおりで、優先順位というはあるんですよね。私たちの優先順位は繰り返しになりますが、来館者様の意見を最大に聞いて、優先順位をつけていきたいと思っています。
■CCC高橋さん「どこにでも手に入るものをアーカイブしろと叱られる」
湯浅教授:高橋さんも今後、武雄だけじゃなくて多賀城というふうになっていくときに、何かそのあたりで、一から作るので今メニューがあるわけではないとはおっしゃっていましたが、地域資料ということで、何か思っていることとかありますか?
CCC高橋さん:そこでしか手に入らないものなので、当然、そこにある図書館が集めていくべきものだと思いますね。ただ一方で、どこにでも手に入るものもアーカイブしようぜってお叱りを受ける時もあるので(笑)。やっぱり、5万人の町と僕がちょっと違和感を感じたのは、150万人の町にある図書館、予算も違うのに同じようなアーカイブ力を求められるんです。で、そうじゃなくて、地域資料は集めなければならないんですけれど、それ以外の資料に関しては、この先の時代、いろんなことを考えても、大きな図書館でフォローできることに関していうと、小さい図書館はそのサイズで見るということも重要なんじゃないかなと思います。ある人に言われたんですよ。大体、月曜日って図書館関係の人が視察に来られるんですけど、何もかもアーカイブしていないかと。それはやっぱり、5万人クラスで限られた指定管理予算の中でやるのだと、市長がおっしゃる通り優先順位っていうのがあるのかなあと思います。
はい、ありがとうございます。それぞれの方に展開してきましたが、ここで時間となってまいりました。パネリストの方々に最後に一言ずつ、まとめの言葉をお願いしまして、この会をしめていきたいと思います。それでは糸賀先生、お願いいたします。
■糸賀教授「継続性、公平性、公立性を考慮した図書館運営を今後、期待」
糸賀教授:私はさきほど、長めのプレゼンさせていただきましたが、最後に一点、継続性、公平性、そして公立性をきちんと担保できる指定管理者であれば全然、問題はないというふうに思います。これからいくつかのところがCCCにお願いする。多賀城を始め、だけれども、CCCさんも声をかければ何でもやるということではどうもないと聞いております。ある程度の集客力があるような立地、建物の構造、申し訳ないですけれど今の多賀城の図書館では無理だと思います。多賀城の図書館に行ったこともありますけれども、これは駅前に新しく作るということでCCCとしてもある程度、採算が取れるんじゃないかとお考えになるだろうと思います。どこでも何でもかんでも、フロアが例えば一階じゃないとだめだとか、上の方に図書館があるところは同じ指定管理でも難しいとかいったことも聞いております。さっきも言ました通り、これは基本、行政サービスですから、継続性、公平性、公立性を十分考慮した上での図書館運営を今後、期待したいと思います。
はい、高橋さんよろしくお願いします。
■高橋さん「CCCはどこと組むのか。集客力では選んでない」
CCC高橋さん:それは僕らが、公立性とか、公平性がないということですか………?総括は特別ないんですけれど、まずは僕らはまだ6カ月で、何も知らないところから始まって、やっときて、今日ご指摘いただいたところはかなり勉強させてもらったので、すぐに戻ってなるべくできるところから改善していきたいなあというところが、今日全体で一番、思ったことです。あと、先生の誤解だけ僕、修正したいのは(苦笑)、CCCはどこでも組むのかということでいうと、集客力で選んでないです。それは誤解を招くので。集客力じゃないです。僕らはあくまで、市民価値をどう上げるんだということについて、目線が合う方々とは組みたいと思っているんですけれど、単純に武雄モデルを持ってきたら町がにぎわうんでしょとか、あるべき図書館でやってくださいということよりかは、まず市民価値をどうするんだということを議論できる方々とはやっててやっぱり、いいもんできるんなあと思ってやってますので、それは違います。
武雄のことだけいうと、もっと進化していくと思います。一度来られたという方もぜひ3カ月後、6カ月後、来ていただくと細かい点で、僕らは常に修正してよりよいものになっていくということを、必ずやろうぜとスタッフ全員で言っているんで。最近、うちの司書のメンバーがまつ毛エクステを始めたりとかしてですね(笑)、ちょっとみんなきれいになろうとしたりしてるんですけど、それは置いておいて。ハード面、ソフト面含めて、必ず常に進化しようと思っていますので、ぜひですね、四半期ごと、1年ごとに温泉入って武雄の図書館に来てくださればいいなあと思っています。
湯浅教授:はい、ありがとうございます。樋渡市長お願いします。
■樋渡市長「我々はどんどん修正していって最適解を求める」
樋渡市長:えーまあ、今日ね、糸賀先生って盛り上げようと思って善意からおっしゃっていただいたと思うので、感謝します。我々は修正していきます。どんどん。いただいた意見でこれはということについては、どんどん修正していって全体の最適解を求める。これが糸賀先生が言ったように、じゃあこれが正しいんだということについては、時代遅れになるのが速いので、さっきも言ったように、現在、未来の最適解にどんどんアップデートしていくことを考えていきたいと思うんです。
それと、どうしてもアップデートできないことがあるんですよ。思った以上に混んだね。いっぱい来ちゃったね。これはやっぱり、子供さんとか走ったりとか、あるいは読み聞かせスペースは確かに5倍に増えたんだけども、閉じたところがほしいとか、学習室があったほうがいいよねということで、今も議会と相談を始めていますけど、キッズライブラリーを図書館のそばにぜひ作りたいと思うんですよ。これもまた、図書館界に一石を投じることになると思うんですけど、要はみなさんからいただいてますけれども、子供がもう少し伸び伸びできる図書館があったらいいよねと。
あと、妊婦さんが多いんですよね。うちの図書館。そういう人たちの意見を聞くと、もう少しすいていた方がいいとおっしゃっているので、そういう弱い立場の方々にもう1回、耳をすませて、アップデートしたいです。ここでアップデートできないものについては別館という形で再度、市民価値をあげるためのオファーをしたいなと思っています。ですから、どんどんまたご意見いただければありがたいと思いますし、私はこういう性格なので、いいものはすぐに取り入れます。足をひっぱるだけの人もけっこういらっしゃるので(笑)、そういう人はちゃんと反論します。
湯浅教授:はい、どうもありがとうございました。木暮祐一さんの「モバイルウォッチ」を読んでいたらですね、「あたかも公設の図書館が商業施設化することに異を唱える声もあったのだが、どうもこれらの議論はみな武雄市以外のところで論じられているようだ」とありまして、武雄市の図書館はやっぱり、武雄市の住民のものだろうと。そして、市外、県外からも来られるということですけれども、そういうところがやっぱり図書館の基本形じゃないかなと私は思います。
今日の議論でけっこうやりとりがありましたが、こういう図書館が地域の顔になっていく、図書館を中心にした町づくりっていうのは可能性があるんだということは共有できたことだと思います。出版業界や図書館界の中で、さまざまな意見があるかと思いますけれども、こういうふうに率直に戦わせることによって、議論が深まっていくんじゃないかと私は思います。最後に、図書館総合展の運営委員長の佐藤潔さん、閉会の挨拶をお願いしたいなと思います。これだけのフォーラムを作ってくださった、まあ縁の下の力持ちでございますので、今日は本当に日経新聞の松岡さん、日本ペンクラブの山田さん、多賀城市議団の方々、大和市長、勝手にあてまして、ご発言いただきまして本当にありがとうございました。それでは佐藤さん、閉会の挨拶をお願いします。
佐藤委員長:それでは簡単に。昨年に引き続いてのフォーラムになりました。昨年も大変盛り上がりましたけれど、半年経過して、まさに検証してこれからどうしてくのかもっと注目していきたいと思っております。