【都知事選】「保育園一揆」から1年、待機児童問題の現状 「保育園ふやし隊@杉並」を立ち上げた曽山恵理子さんに聞く「首都の争点」

東京都内各地で保育園に入園できない子供の保護者たちが起こした「保育園一揆」から1年。東京都の待機児童問題はどうなっているのか。口火を切った杉並区を訪ね、激戦が繰り広げられている東京都知事選の争点を探る。
猪谷千香

激戦が繰り広げられている東京都知事選。2月9日の投票日前に、あらためて東京都が抱える課題を識者や専門家の方たちと現場から考えてみたい。そこから浮かび上がる、「首都の争点」とは?

■日本で最も待機児童が多い東京都

2013年春、東京都では保育園に入れない子供が8117人にのぼった。全国で待機児童は2万2741人だったが、その中で最多。日本の待機児童問題は、東京都の待機児童問題であるといっても過言ではない。こうした事態を1日も早く解決してほしいと、都内各地で巻き起こったのが、入園できなかった子供の保護者たちによる自治体への異議申立てだった。「保育園一揆」と呼ばれるこの動きで先陣を切ったのが、杉並区で曽山恵理子さんが立ち上げた「保育園ふやし隊@杉並」の保護者たちだ。杉並区ではこの時、希望者の3分の2にあたる約1800人の子供が入園できなかった。

「小学校は全員入れるのに、どうして認可保育園は希望者の3分の1しか入れないのか、すごく疑問に思いました」と曽山さん。こうした保護者たちの声を受け、杉並区は「待機児童対策緊急推進プラン」を発表、東京都も小規模保育「スマート保育」の整備促進事業に乗り出した。あれから1年、激震地となった杉並区の現状を曽山さんにたずねた。

「今年も杉並区では子育て世代が増えているように思います」と曽山さん。杉並区は「子育てしやすい区」というイメージがあった。保育園一揆が起こる以前の2012年、杉並区の待機児童数は52人。隣接する世田谷区が786人、練馬区が523人という中で、この数字は極端に少なく見える。さらに杉並区には子育て応援券などもある。子育てしやすい自治体だと考えられ、子育て世代の人気がもともと高かったという。しかし、この数字にはからくりがあった。待機児童の数え方は共通の基準がなく、自治体任せになっているのだ。

■待機児童問題は東京都全体の問題

「数字だけ見て、世田谷区の待機児童数が多かったので杉並区に転入してきたら保育園に入れなかったというケースがありました。2年前まで杉並区は待機児童数を狭く狭く数えていた。子供を同伴して出勤するか、身内に子供を預けるかのどちらかじゃないと待機児童とは認められなかった。入園できず、育児休暇を仕方なく延長して待っている保護者の子供は待機児童と呼ばず、求職中で保育園に入園したくて自宅で空きを待っていても待機児童も言わず、認可外保育所に預けながら待っているのも待機児童ではなかった。では、何をもって待機児童なのかと(笑)。そんな数え方をしていたら、数字だけは少なくなりますよね」

2013年の待機児童数が都内で最多、つまり全国最多の自治体になってしまった世田谷区の保坂展人区長は最近、Twitterでこんな苦言を呈している。

待機児童問題は、もはや杉並区を始めとする都内の自治体だけの問題ではないと曽山さんは指摘する。「結局、子育て世代は保育園を求めて色々な自治体に流入、流出しますので、東京都全体で考えなければいけない問題です。せめて、東京都内だけでも待機児童の数え方は同じ基準にしてほしい」。数字に翻弄される子育て世代が後を絶たないからだ。

■赤ちゃんは増えているのに1歳以上の子供が減っている?

2014年春も杉並区の状況は依然、厳しい。希望者の44%が入園できる見込みだが、希望者が増えているために前年同様、約1800人の子供が保育園に入れないことになる。保育園によっては、1歳児の倍率が18倍になるところもある。「2013年の申し込み数が2968人に対し、今年が3257人。応募数が増えている背景は、単純に子育て世代の共働き率が増えているためではないかとみています」

実は、少子化と言われる中で杉並区の未就学児は増えている。「2013年4月時点で未就学児は2万2685人でしたが、12月には2万3167人になっています。杉並区では約1年で500人ぐらいの未就学児が増えているんです。もっと細かく見ると、0歳児、つまり生まれてきた赤ちゃんである0歳児が昨年と比較すると210人増えています。でも、1歳以上になると、2歳、3歳、4歳になるにつれ、ちょっとずつ子供が減っている。これは、杉並区で保育園に入れないから他の地域へ転出している人が多いことが理由ではないかと思っています」

2013年の1歳児は実に約80人も減少している。1歳児クラスに入園できなかった子供の保護者が転出している可能性が高いのだ。さらに詳細に数字を見てみると、2013年の2歳児は14人の減少にとどまっているのに比べ、3歳児では59人も減っていた。

「保育園に入れなくても、1歳児と2歳児は杉並区の保育室があるので、どこかに預けられる。でも、3歳児以上は預ける場所がないので、2歳児クラスから3歳児クラスになる時に移転をする。そんな1歳の壁と3歳の壁があるのかなと分析しています」

■東京都が進める「スマート保育」への疑問

東京都も手をこまねいて見ていたわけではない。猪瀬直樹前都知事は保育園一揆を受け、目玉として6人から19人までの小規模保育整備促進支援事業「東京スマート保育」(スマ保)を新規に立ち上げた。2013年度から2年間、東京都がこれまで補助のなかった小規模の保育所に対し、開設準備費について上限1500万円を負担するというもの。また、待機児童解消の取り組みをさらに加速させるため、当初の計画を前倒し。2012度から2014年度までの3年間で、保育サービスを2万4000人分整備するとしている。しかし、これで本当に解決するのだろうか。

「0歳から2歳だったら小規模なスマ保が適していることもあります。本当に少人数で細やかに見てもらえる環境があるのであれば、安心できる保護者もいるのではないでしょうか。ただ、3歳以上になってくると、体を動かしたくもなりますし、集団保育も必要になってくる。大型の施設で保育してもらった方がいいのではないかと思います。杉並区の場合にある3歳の壁と同じで、0から2歳まではなんとかスマ保で対応しても、3歳から預け先がなければ、諦めざるを得ない環境を先延ばしするだけです」

3歳児以上は幼稚園の預かり保育で対応しようという動きもある。「でも、杉並区ではフルタイムで働く保護者が利用できるような預かり保育が充実している幼稚園は6園。そのうち2園は運営業者に対して預かり保育の補助金が出ていないので、月額7、8万円にはなってしまう。保護者に対しても補助はありません。認可外保育園だったら補助が出ます。そのことにすごく苦しんでいる幼稚園の保護者の方がいるのが現状です」。その6園に保育園に入る子供が集中してしまった結果、本来その幼稚園に通わせたいと思っている保護者の子供が定員オーバーで入園できないということも起きているという。

「認可保育所が認可保育所として運営されるには、それなりのしっかりした基準があります。スマ保を進めて、保育士の有資格者を減らしたり、1人あたりの面積を減らしたりということになると、本当に子供が安心安全に育っていけるのかと疑問はある。スマ保にしても、認証保育所にしても、良いところは良いし、ひどいところはひどい。でも、保護者からはその見極めが難しい。足を運んで確認をしても、体裁だけ取り繕われたらごまかされることもある。だからこそ、認可保育所に預けることで、最低限の基準は守ってもらえるという安心感があります。認可保育所が質の高い保育かといえば、あくまで基準で(笑)、本来はもっと良い保育をしてほしいけれども、ここが最低限ぎりぎりだよというラインが認可保育所なんです」

■東京都に求められる待機児童政策とは

保育園一揆の“発祥地”から透けてみえる東京都の待機児童問題。解決には何が求められるのだろうか?

「すごく思い切ったことをやらないと、待機児童はゼロにならないと思っています。器だけ小手先で増やしても、あとからあとから潜在需要は掘り起こされてくる。『家計が苦しいから私も仕事をしたい』という方は今後も増えていくと思います。また、保育園に預けられない貧困世帯の問題もあります。仕事ができないから貧困なのに、誰も子供を預かってくれないから仕事をするための就職先も見つからない。仕事をしていないから保育園に預けられない。その堂々巡りがすごくじれったいです。子供の保育は家庭でできるという視点だけじゃなくて、その家庭が生計を維持するために必要なものを手当するという視点の必要性を感じます」

保育園一揆を起こした曽山さんたちは、一部から「社会に子供を育ててほしいというのはわがままだ」という批判を受けた。「そんなおごった考え方なのではなく、自分たちでどうしようもない状況なのに、どこにも助けを求められない。本当に行き詰まりを感じてしまい、保活でノイローゼになる方もいるぐらいです。でも、そんなに苦労しないで保育所に入れるようになれば、新たな需要を掘り起こすこともできる。新たな需要を掘って掘って全部掘り尽くせばいい!と思います(笑)。ここはもう空っぽだよ、というところまでやってみてから言ってほしい」

■子供を真ん中に置き、住民と自治体が協働で子育て

子供を育てるということは、家庭だけの問題ではなく、未来にその国や社会を担う人材を育てることなのだ。曽山さんはキャリアカウンセラーとして働き、困っている多くの保護者から待機児童問題の相談を受けてきた。「子育て世代は子育てに必死で、自分の周囲のことしか目に入りません。保育園に入れなくても、これが社会の問題なんだと気づかないことがある。でも、本来は社会全体で解決していかなければならない問題です」

曽山さんは2013年11月、杉並区でコワーキングスペース「babyCo」をオープンした。子連れで訪れ、仕事ができるスペースだ。取材で訪れた日も、4月の入園目指すママたちの保活交流ランチ会が開かれていた。曽山さんは、こうした活動を通じて、子育ての交流の場を作っていきたいと考えている。

「おかしいよと言っているだけではなく、自治体なり、行政なりと一緒に仕組みづくりを考えていければいいなあと思っています。ただ文句を言うだけのクレーマーではなく、自分たちでできることは自分たちでやる。その一環としてコワーキングスペースを始めました。保育士さんのシッティングサービスもあります。ここに来れば仕事ができるという環境を作り、自分たちでできることを考えていきたいです」

自治体にただ要求するのではなく、より良い子育てができる社会を実現するために協働する。それが曽山さんがたどり着いたひとつの答えだ。都知事選の候補者にも、子育て世代のリアルな声が届いてほしいと願う。

「スマ保の話でも、認可外保育所でも、保護者の関係性が大事だと思っています。評判が良くないと文句を言っているだけではなく、子供のことを真ん中において、子供のためにどうやって環境を作るか。保育所と保護者と一緒に話し合って仕組みづくりを考えていくことが大事なのではないかと思っています。それを自治体と住民の間でもできたらいいですね」

■都知事選候補者に保護者たちが公開質問状

曽山さんが代表を務めていた「保育園ふやし隊@杉並」など、東京都内7つの保護者グループは都知事選の候補者4人に対し、公開質問状を送った。2月4日時点で回答を得られているのは、宇都宮健児氏、舛添要一氏、細川護熙氏(届け出順)となっている。

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曽山恵理子さん略歴

これまでSEとしてITベンチャーに勤務の傍ら、キャリアカウンセラーの経験も活かし女性の就業支援や子育て支援に取り組む。就職セミナー講師をはじめ、個人向け就職相談、企業向けIT活用支援など、業務の幅は広い。2013年11月からコワーキングスペース「babyCo」の運営をスタートした。

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