"リケジョ"問題「学者がタレントになるのはアリ」京大の若手研究者たちが語る

「学者はコンテンツになるべきか」。京大の若手研究者たちが討論した。
The Huffington Post

STAP細胞報道では理化学研究所の小保方晴子さんがスターのような扱いをされ、「かっぽう着」「リケジョ」がもてはやされる。その一方で、京都大学の山中伸弥さんはiPS細胞に関する誤報への反論に言葉を尽くす。

報道によって自分の研究が社会から支持され、その意義が理解されるのは良いが、一歩間違えば誤解を招いたり、研究者の私生活に注目が集まったり、あるいは業界の批判を呼んだりと、不利益を被る可能性も高い。研究者にとって、メディア報道は両刃の剣だ。

こうした背景を踏まえ、若手研究者集団「ヤバ研」がワークショップを開催。「ヤバ研」は「ヤバい研究者の集まり」の略で、京都大学情報学研究科助教の藤原幸一さんを中心とした、関西・関東の大学研究員や企業研究員、ポスドク(ポストドクターの略。博士課程を修了し、常任研究員になる前の研究者)、学生らで構成される団体だ。

3月2日に京都で行われた「ヤバ研meetsメディアワークショップ」では、タレント・谷俵太(越前屋俵太)さんを議事進行役に、「研究者は進んでメディアに出ていくべきか? 出ていくならどんな形で?」について、メディア関係者を交えて議論を深めた。

■学者のコンテンツ化は「おおいにアリ」

議論の口火を切ったのは、藤原さんと、山本慎太郎さん(博士(理学)・大阪大学卒業)、五味馨さん(京都大学工学研究科特定研究員)、3人の「ヤバ研」創設メンバーだ。

STAP細胞報道を事例に「プロの研究者を“リケジョ”と呼ぶのはいかがなものか」という切り口から、プロの研究者に対し「リケジョ」なる研究者予備軍も含んだライトな言葉でくくる違和感と女性性の過度な取り上げ方の2点から、問題提起を行った。

また谷俵太さんから投げかけられた「研究者が研究内容ではなく、自分自身をコンテンツとしてメディアに売り込むのはアリ?」という問いには、3人とも「おおいにアリ」との姿勢を見せた。

五味さんは「世間の注目が集まると、国をはじめ公的な助成が受けられる可能性が上がる」とメリットを挙げた。藤原さんはマスコミに自分のキャラクターが受けたのちに、コントロール不能になるリスクを指摘。

山本さんは「一般人を含むいろんな人に見てもらうことで、研究は磨かれる」としたうえで、研究内容そのものに他人に興味をもってもらう難しさを述べた。「事象よりも、人を主体にしたストーリーのほうが話を聞いてもらいやすい。だから、個人をコンテンツにするのはアリだと思う」と考えを展開した。

■メディアの真実と学問の真実

山本さんは「学者にとって、論文はスタート地点に過ぎない」と話す。

発表された論文は、世界中の研究者によって「ここが間違っている」「もっといい方法を見つけた」などと検討される。そうして学問的真実は“熟成”されていく。

ところがメディアでは論文=真実ととらえた報道をしがちだ。その結果、他の研究者の反証が出た途端、「あの論文はウソだったのか?」という論調になる。そのズレを埋めるためにはメディアと研究者側の認識をすり合わせる必要がある、と山本さんは訴えた。

メディアを代表して、関西ウォーカー編集長の玉置泰紀さんは、テレビと新聞、雑誌といった媒体特性について言及。かつて産経新聞の社会部に在籍していた経験から、「同じ新聞であっても、社会部と科学部では記者の取材のスタンスが違う」と説明した。

■シンデレラにはなりたくない

望ましい取り上げられ方として、NHKの番組が映画化に繋がったダイオウイカの研究や、趣味のマラソンで研究費を集める山中伸弥さんの事例が挙がった。研究者にとっての理想は、「一夜のシンデレラストーリーではなく、長い時間をかけてじっくりと真実を伝える報道がのぞましい」との意見が出て、会場の共感を呼んだ。

谷俵太さんはタレントの立場から、「テレビに出るメリットとデメリットは両方ついてくる。“いいとこ取り”は不可能」と指摘。Win-Winの関係になるには、研究者とメディア側がお互いの立場を理解する必要がある。双方が率直に意見交換する場の重要性を確認した。

■取材を受ける際の3つのポイント

ワークショップの登壇者は合計7組。京大生協だけで1万本以上を売り上げた大ヒット商品「素数ものさし」を作った「不便益システム研究所」や、大阪市立自然史博物館のマンパワー不足をボランティアで解決した「なにわホネホネ団」らは、メディアとの付き合い方のポイントとして、次の3点を挙げた。

(1)取材を受ける前に報道意図を確認する。望まない意図や行きすぎた演出には、きちんとNOを伝える。どうしても相容れない場合、取材拒否も選択肢に入れる。

(2)掲載前に最終確認をさせてもらう。事前確認NGな媒体もあるが、可能な限り要望を出す。

(3)誤解を招かない説明を心がける。数字などの資料は、ウェブページに提示するなどして明示し、取材後にメディア側が確認できるようにする。

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