ロシアから逃げ出す投資家、受け皿は中国など他のBRICS

欧米がロシアに対してさらなる制裁を科すのではないかとの懸念がくすぶる中で、海外投資家はロシアの株式市場を見限って他のBRICS諸国へ資金を移動させつつある。ひときわ恩恵を受けているのは、中国だ。
Reuters

[ロンドン 12日 ロイター] - 欧米がロシアに対してさらなる制裁を科すのではないかとの懸念がくすぶる中で、海外投資家はロシアの株式市場を見限って他のBRICS諸国へ資金を移動させつつある。ひときわ恩恵を受けているのは、中国だ。

ロシア資産は今年に入って、他の有力新興国に対してアンダーパフォームし続けている。ドル建ての株価指数は17%下落し、ルーブルも9%下げた。JPモルガンのGBI─EM指数でみると、ルーブル建て債券を買った投資家は年初来で14%の値下がりに見舞われていることになる。

現在欧米が実施している対ロシア制裁では、政府に近いとみなされる企業の株式を保有すること自体までは禁止されていない。しかし投資家はそれでも追加制裁で対象資産が拡大する恐れがあるとして、ロシアから逃げ出している。

データには直近の資金流出は反映されていないかもしれないが、ロシアの株式と債券からの7月半ばの流出額は過去半年間で最も大きかったことが示された。

世界のファンドの資金動向の15%程度を把握しているEPFRによると、7月中にロシア株ファンドからは3億5300万ドルが流出し、マレーシア航空機が撃墜された7月17日から1週間の流出額は1億7200万ドルに達した。

MSCIの新興国株指数に占めるロシアの比率は5%程度にすぎないとはいえ、同指数をベンチマークとする資金が1兆3000億ドルに上ることを考えれば、ロシアをめぐる動きが多くの資金に重要な影響を及ぼすことになる。

アナリストとしては、ロシアから出て行った資金はどこに向かったのかという疑問を当然抱く。

そうした中で中国は、絶好の受け皿の様相を呈している。ロシアと欧米の緊張が高まったタイミングで、中国国内のいくつかの要因が改善してきたからだ。マレーシア航空機撃墜事件が起きたのと同時期に中国政府は景気刺激策を示唆し、シャドーバンキングや不動産バブルに対する懸念も総じて和らいだ。

これまでのところは伝聞情報に限られるとはいえ、中国が最近ロシアから流出した資金の主要な行き先であることは十分にうかがえる。モルガン・スタンレーによると、先週の中国株への資金流入額は16億ドル、7月最終週は21億4000万ドルで2008年4月以来の規模になった。

ロシア株のドル建てRTS指数は6月末以降で14%下落した一方、中国株の滬深300指数は11%上がった。

アビバ・インベスターズ(ロンドン)の新興国・アジア運用担当者、ウィル・バラード氏は、ロシア株が下がり始めてから明らかに中国への関心が高まったと指摘。中国の企業景況感は上向き、マクロ経済見通しは改善している半面、ロシアはまったく逆というのが本当のところだと述べた。

アビバは数カ月前にロシア株を「緩やかなアンダーウエート」から「大幅なアンダーウエート」に変更したため、同社の新興国ファンドにおけるロシア株の比率は、MSCI新興国指数の5%よりも低くなっている。同時に中国株のウエートは引き上げた。

資産運用会社カルミニャック・ジェスチョンの投資委員会メンバー、サンドラ・クロール氏も、7月に傘下の新興国ファンドにおいて中国投資を拡大したと述べた。

クロール氏は「投資したいのは、欧州の地政学問題からずっと離れた立場にあって、堅実な与信の伸びと金融緩和を提供できるような国であり、思い浮かぶのが中国だ」と話した。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが12日公表した月次調査では、8月の中国向け投資は差し引き17%のオーバーウエートと7月の3倍に高まり、上昇率は新興国で最大となった。

<その他のBRICS>

EPFRによると、ブラジル、南アフリカ、インドといった他のBRICS諸国のファンドにも先週は資金が流入した。またカルミニャックのクロール氏は7月に、待望の改革が実行されるかもしれないとの期待に基づいて、ブラジルの投資を拡大したことを明らかにした。

10月のブラジル大統領選に関する世論調査では、現職のルセフ氏の支持率におけるリードが次第に縮小してきており、今年インドで実現したように改革志向がより強い候補が当選する可能性が高まりつつある。

南アフリカは、政治的リスクや景気減速からの逃避先としては理想的とはいえないだろう。しかしそれでもヨハネスブルク証券取引所のデータは、今年の外国人による買い越し額が20億ドルに達していることを示している。指標となる全株指数は、クリミア半島をめぐってロシアとウクライナの緊張が高まって以来で10%上昇した。

野村アセットマネジメントの新興国株責任者、ジョナサン・ベル氏は「南アフリカ市場は恐らく、ロシアの問題からの恩恵を受けただろう。中東欧・中東・アフリカ(EMEA)地域では、南アはある程度まとまった売りを吸収できるほど流動性に厚みがある、ロシア以外で唯一の市場だ」と述べた。

もう1つ、特に中国ないしブラジルへの投資が許されておらず、EMEA地域の新興国投資にも今1つ気乗りがしないようなファンドには、キャッシュ保有という選択肢もある。

INGインベストメント・マネジメントの投資ストラテジスト、Maarten-Jan Bakkum氏によると、INGのEMEA株ファンドの現在のキャッシュ比率は8%と過去の水準からみて高くなっている。

同氏は、ロシア株をアンダーウエートにして売ったままにしている一方、米連邦準備理事会(FRB)が来年利上げする見通しで、そのFRBの政策に影響を受けやすいトルコや南アフリカには魅力を感じないと説明。ポーランドは投資する値打ちがあるかもしれないが、ウクライナの近くという点で問題があり、キャッシュ保有が最適な手段だと結論づけている。

(Andrew Winterbottom記者)

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