JAPAN
2015年04月09日 17時38分 JST

セウォル号沈没事故から1年 遺族はなぜ、丸刈りになって抗議するのか

韓国で修学旅行中の高校生ら304人が死亡・行方不明となったセウォル号沈没事故から、4月16日で1年が経つ。我が子を亡くした遺族と行方不明者の家族は、男性も女性も髪を剃り上げて路上で抗議デモを続け、韓国政府への怒りを募らせている。遺族は何に怒っているのか。ハフィントンポスト韓国版に掲載された雑誌「ハンギョレ21」の記事を紹介する。

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「金で辱めるな」

あれから1年、両親はまた路上に座っていた。「金がもっと欲しいのではない」ことを証明しようと、頭髪を剃った。子供の学生証を首にかけた母親、父親の髪が電動バリカンにバッサリと刈られた4月2日。その日は、修学旅行の途中に集団で犠牲になった檀園(タンウォン)高校生の賠償・補償金が平均8億2000万ウォン(約9009万円。1ウォン=0.11円)になると政府が発表した翌日だった。子供の命をより高く売ろうとする非情な親ではない、「子供がなぜ死んだのか、まず明らかにしてほしい」と泣き叫んだ。

その翌日、政府が答えた。「セウォル号事故の犠牲者は、4人家族で生活支援費として月110万5600ウォン(約12万円)を最長6カ月まで受け取れる。小・中・高校生は最長2年間、大学生は2学期分の授業料を減免される」。路上で補償金を物乞いする親と、烙印を押したに等しかった。

一方、600万人近い人々が署名して制定されたセウォル号特別法は風前の灯だ。真相究明のために与野党が合意し、独立の特別調査委員会を置く特別法が成立したが、調査対象となるはずの公務員が実権を握る官製機関として骨抜きにされそうだ。304人の命がセウォル号と一緒に沈んでから1年、大韓民国はまだ、先に進めていない。

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4月2日、主要新聞が一斉に報道した。「セウォル号で死亡の高校生、賠償金1人当たり4億2000万ウォン(約4606万円)」「檀園高校生は賠償金4億2000万+慰謝料3億+保険金1億」「セウォル号の賠償・補償総額は1400億ウォン(約154億円)。さらに遺族の治療費など500億ウォン(約55億円)」。海洋水産部が前日のプレスリリースで発表した犠牲者の賠償・補償基準をほぼそのまま掲載した。

これらの記事を一読すると、セウォル号の遺族が巨額の金を受け取れるような印象を受ける。同じ日に断髪式をした遺族の叫びは、もっと賠償・補償がほしいのだと思う人もいるだろう。遺族は「賠償金ではなく、真相究明が先だ」と求める。金の問題ではなく、金を受け取る経緯が問題だと叫んでいるのだ。

遺族が反対している政府施行令は2種類ある。まず、3月27日に海洋水産部が公表したセウォル号特別法施行令案(真相調査)がある。セウォル号事故特別調査委員会の活動と規模を大幅に縮小する内容だ。与党が強行採決する可能性が高いが、覆る可能性もないわけではない。

問題は、賠償・補償に関わるもう一つの施行令だ。 賠償・補償金の基準と申請手続きなどを盛り込んだ内容だ。閣議を経て、この政令は、すでに3月29日に施行された。この施行令を改正しない限り、政府の方針は変わらない。賠償・補償は真相究明の結果としてなされる、政府の責任の最終段階だ。その基準を先に作ったことは、特別委員会を骨抜きにし、真相究明を重視しない姿勢を政府が宣言したと解釈できる。1年たってすべてが元に戻ったのだ。

1.補償金が多額?

1994年10月、32人が死亡したソウル・聖水大橋の崩落事故。(c)ASSOCIATED PRESS

賠償・補償基準を発表した韓国海洋水産部(日本の省に相当)は、過去の大事故と比較して、セウォル号の賠償・補償金は決して少なくない額だと主張する。1994年に32人が死亡したソウル・聖水大橋崩壊事故は、被害者1人当たり1億2200万ウォン、2003年の大邱地下鉄火災は、1人当たり1億〜6億6000万ウォン、2010年の天安艦沈没事故は1人当たり2億〜3億6000万ウォンが支払われた。これに比べ、セウォル号の遺族は、葬祭費(200万ウォン)、逸失利益(3億ウォン)、慰謝料(1億ウォン)に加え、賠償・補償金の支払いが遅れたことによる遅延損害金(2000万ウォン)を合わせて4億2000万ウォン(檀園高校生の場合)を受け取るとみられる。

このため、セウォル号の遺族は巨額を受け取ると世間では思われている。だが、はっきり言って、賠償・補償額は最低レベルだ。韓国政府は20年前の賠償・補償金と比較して説明したが、セウォル号惨事の前後に発生した大事故と比較すると、実態が明らかになる。

2014年5月、69人の死傷者を出した京畿道・高陽(コヤン)市の総合バスターミナル火災で、犠牲者への慰謝料は3億2000万ウォンだった。逸失利益は別途算定された。もし檀園高校の生徒がここで死亡した場合は、6億2000万ウォンが支払われていた。2014年2月に138人の死傷者を出した慶尚北道・慶州のマウナ・オーシャンリゾートの事故では、犠牲者への慰謝料は3億ウォンだった。やはり逸失利益と保険金は含まない。当時、死亡した大学生には10億ウォン以上が支払われた。

弁護士は、どんな基準を適用してもセウォル号の遺族が「驚異的な」賠償・補償金を受け取ることはないと断言する。オ・セボム弁護士は「大事故が繰り返される理由は、生命の価値を取るに足らないものと考えるからだ。犠牲になった家族は戻ってこないが、その価値もきちんと算定されなければならない」と指摘した。

2014年2月、大学生ら10人が死亡した慶州のリゾート施設体育館崩壊事故。(c)Chung Sung-Jun via Getty Images

2.遺族を排除した決定

より大きな問題がある。セウォル号事故の解決を急ぐあまり、政府は遺族を徹底的に排除した。今まで大事故が発生した場合、被害者と政府、あるいは加害者が、それぞれ損害査定士と弁護士を選任して金額を算定してきた。その差が大きければ交渉を経て、最終的な額を決定した。

しかし、セウォル号被害救済特別法は、賠償・補償金の基準をセウォル号賠償・補償審議委員会で決定することとした。最初の会議は3月31日に開かれ、その日のうちに賠償・補償基準を決めた。

賠償・補償審議委員会は、アン・ヨンギル水原地裁判事が委員長を務め、判事3人、弁護士3人、海洋水産部など関係省庁の幹部6人、水産損害査定に関する分野の専門家2人を含む14人が参加した。遺族の立場を代弁する人は誰もいない。さらに、原案は海洋水産部が作成した。これをもとに賠償・補償基準が確定した。最近の大事故と比較して、セウォル号事故の賠償・補償金が少ない理由はここにある。

3.想定給料は最低水準

(c)Getty Images

その結果、最低レベルの賠償・補償が決まった。積極的損害(治療費·葬祭費など実際に支出した費用)、消極的損害(仕事をできないことで失った収入)、精神的損害(慰謝料)を合わせて、最終的な金額が決まる。賠償・補償審議委員会は、積極的損害、葬祭費を500万ウォン(約55万円)、個人の携帯品の費用を20万ウォン(約2万円)と算定した。消極的損害は、事故の起きた2014年4月16日から定年までの予想収入(逸失利益)として計算した。檀園高校の生徒は、満19歳から定年となる満60歳までの42年間で得られたはずの所得から、生活費を引き去った。

しかし、ここでの檀園高校生の想定収入は、建設現場の単純労働者レベル(月193万ウォン=約21万円)を適用した。事実上の最低賃金だ。檀園高校で犠牲となった教師は、事故当時の収入に基づいて計算した。その結果、生徒よりも3億ウォンほど増えた。

大韓弁護士協会でセウォル号特別法を起草したキム・ヒス弁護士は「死亡生徒の場合は、将来の可能性を根こそぎ失われた。被害と生活レベルに応じて賠償額を調整し、別の慰謝料も支払わなければならない」と指摘する。

4.慰謝料は交通事故レベル

犠牲者に対する政府の視線は、慰謝料にも表れている。当初の海洋水産部の草案では、一律に死者1人当たり慰謝料8000万ウォン(約877万円)と定められた。2008年にソウル中央地裁で定められた交通事故慰謝料の算定基準に沿ったものだ。賠償・補償審議委員会は、この案を1億ウォンに引き上げて議決したが、それはやはり2014年2月に裁判所が用意した、交通事故の慰謝料算定基準と同じ額だ。

キム・ヒス弁護士は「あまりにひどい」と話した。「交通事故は、個人対個人の偶然だ。しかしセウォル号の事故は、船舶の導入と運行、救助の段階で国家の過失が明らかだ。交通事故と単純な比較はできない」。遺族らでつくる「セウォル号家族対策委員会」を支援するファン・ピルギュ弁護士は「政府は、セウォル号事故も単なる交通事故だったと公言したようなものだ」と批判した。「政府は最近の事故よりもはるかに少ない慰謝料を示した。『どうぞ事故に遭ってください』と言わんばかりだ」

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5.実態以上の額が報じられた賠償・補償金

それでも「巨額を受け取る」とマスコミは報道した。施行令に従っても、檀園高校生の賠償・補償額は最高4億2000万ウォンだが、マスコミは8億2000万ウォンと報道した。政府が発表した賠償・補償基準額に、国民からの寄付金と保険金を上乗せしたからだ。政府は「民間の寄付による慰労支援金(1288億ウォン)は、犠牲者1人当り3億ウォン前後が支給されるとみられる」と明らかにした。

しかし、寄付金は、募金した団体に配分先を決める権限がある。にもかかわらず、政府は賠償・補償基準を発表し「大邱地下鉄事故や天安艦事件のケースで、民間寄付金の配分比率を見ると、約60〜70%を慰労支援金に使用し、残り、財団設立などに使用した」として「3億ウォン」と断定したのだ。

さらに保険金も加えた。檀園高校は修学旅行の前に、火災保険に入っていた。その保険金は生徒の犠牲者で1億ウォン、教師の犠牲者は8000万ウォンだ。政府とは何の関係もない金だ。しかし政府は「檀園高校生と教師の犠牲者1人当たりの平均総支給額(推定)」を発表した。「檀園高校生250人=8億2000万ウォン、教師11人=11億4000万ウォン」

ここから、1人当たり賠償・補償額が8億2000万ウォンという数字が出てきた。わざわざ水増しした数字を言ったのではないかとの指摘に、海洋水産部のセウォル号被害補償支援団長は「メディアから総支給額を教えてほしいという要求が多かったので取りまとめただけで、何の意図もなかった」と釈明した。

(c)Getty Images

6.国家の支出はない

さらに、ここに投入される国家予算は事実上皆無だ。賠償・補償金は、まず海洋水産部の予備費から支出される。政府は人命、油類汚染、貨物を合わせて賠償・補償金の規模を1400億ウォンと見積もった。

ところが、これは国が負担するものではない。海洋水産部の担当者は「まず国費で支給した後、(セウォル号を運行していた)海運会社「清海鎮海運」とオーナーの兪炳彦(ユ・ビョンオン)一家ら、事故の責任者に請求権を行使して回収する」と述べた。すでに政府は請求の準備に入った。まず、検察は裁判所に1244億ウォンの財産を保全するよう請求した。法務部も財産1282億ウォンを仮差し押さえした。対象は兪炳彦ファミリーだけでなく、イ・ジュンソク船長らセウォル号の船員、清海鎮海運の従業員らだ。

清海鎮海運は、セウォル号の乗客1人当たり最大3億5000万ウォン、事故あたり合計3億ドル(約3000億ウォン)を限度に旅客賠償責任保険に加入している。清海鎮海運だけでなく、保険者の韓国海運組合が賠償責任を分担していることになる。いずれにせよ、これらの財源は十分にあるので、政府は公的資金で先払いする賠償・補償金を後ですべて取り戻すことができるのだ。

ここに遺族が怒る理由がある。最終的に賠償・補償の過程で国家が責任を負うことはない。また与野党は国民の寄付金が不足した場合、国庫から支援することで合意したが、今回の発表で、政府は、国庫支援に対してまったく言及しなかった。

しかし、政府も「共同不法行為者」で賠償責任を問われかねない。救助時に乗客に避難誘導をしなかったなどとして、木浦海洋警察の救助艇の船長だった人物が1審で有罪(懲役4年)を宣告された。船長の有罪が確定すると、これに関する国の責任も決まる。国にどれだけの責任があるのか​​は、損害賠償請求訴訟で明らかになるだろうが、賠償・補償基準を設ける過程ではまったく考慮されなかった。

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公判が続くセウォル号の元船長、イ・ジュンソク被告

7.国と和解せよ?

賠償・補償金の支給申請期間は6カ月。民法と国家賠償法が定めた消滅時効(3年)よりもはるかに短いうえ、賠償・補償審議委員会は、支給申請を受けつけた日から120日以内に、支払いの可否と金額を決定しなければならない。事実調査などが必要な場合、1回に限り30日を限度に期間を延長することができるが、長くても10カ月で賠償・補償が終わる。

これは、セウォル号特別委員会の活動全体を実質的に否定するものと解釈できる。特別委員会の真相調査の結果はもちろん、セウォル号関係者の刑事裁判の判決が確定する前に賠償・補償が終わるからだ。特別委員会の活動期間は最長1年6カ月だが、海洋水産部が3月27日になってやっと施行令案を発表したばかりで、まだ発足もできない状態だ。セウォル号の船員、清海鎮海運の従業員、海洋警察の元船長の裁判は、控訴審が進行中だ。

賠償・補償金を受け取った後に国の不法行為が明らかになったらどうなるか。何も変わらない。国家を相手に民事訴訟を起こしても敗訴する。セウォル号事故被害救済特別法の第16条には「賠償・補償金、慰労支援金の支給決定に同意したとき、国と申請者(被害者)は、民事訴訟法上の裁判上の和解が成立したものとみなす」とある。

檀園高校生だった故イ・チャンヒョン君の父親イ・ナムソク氏は「船体引き揚げ、真相究明もできないのに、賠償・補償金を受け取って国と和解しろと言うのか」と話した。「政府の賠償・補償金を拒否し、国家を相手に損害賠償訴訟を起こして、数年かかっても、国の誤りを明らかにするつもりだ」

韓国の大規模事故

1993年10月、292人が死亡した西海フェリー号事故で、政府は9910万ウォンを一括支給した。この金額は、国が損害賠償責任を負わない前提で算定された。犠牲者10人の遺族45人はこれを拒否し、国と韓国海運組合などを相手取って民事訴訟を起こし、5年後に4億4800万ウォンを勝ち取った。裁判所が国家を「不法行為者」と認め、西海フェリーと韓国海運組合が共同責任を負うべきとの判決を下したためだ。また、犠牲者だけでなく、配偶者や子供たちにも、それぞれ慰謝料4500万〜5900万ウォンと3000万〜3900万ウォンを支給するよう命じた。

(翻訳:吉野太一郎)

この記事はハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳しました。

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