フィンランドのプログラミング教室ってどんなところ? 2016年から小学校の必修科目に

フィンランドでは、2016年からプログラミング教育が小学校の必修科目になる。

教育や福祉に手厚い男女平等の国、フィンランド。この北欧の国では、10年に1度の教育カリキュラム改正にともない、2016年からプログラミング教育が小学校の必修科目になるという。

フィンランドでは今、子供のためのプログラミング教育はどうなっているのだろうか。フィンランド人男性と結婚後、現地に移住し2人の子供を育てるフリーライター・靴家さちこさんが、フィンランドのプログラミング教室をレポートする。

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フィンランドでは2016年8月から、小学校の必修科目にプログラミングが加わる。これは10年に1度の教育カリキュラム改正にともなう変更の一部で、他にも第一外国語(主に英語)の授業が3年生から2年生に早まることと、アルファベットの筆記体の書き方指導が無くなるという3点が話題になっている。

地元の公立小学校に通う6年生と1年生の息子たちの様子を見ていると、長男には時折パソコンの授業があり、宿題やテスト勉強にもパソコンを使うことがあるが、次男のクラスにはようやくiPadが導入されたばかり。フィンランドでも「子供たちの方がテクノロジーに強い」と言う大人は多いが、長男がパソコンを使う時はマウス操作が中心で、キーを打つ手も心もとない。学校でまだアルファベットを習っている次男など言わずもがなである。

この子達が本当にプログラミング教育を受けても大丈夫なのだろうか? 首都ヘルシンキのICT企業リアクター社のプログラミング教室「コーディコウル」の様子を視察し、同教室を立ち上げたユハ・パーナネンさんに、フィンランドのプログラミング教育やその可能性について聞いた。

■フィンランドのプログラミング教育

プログラミング教室「コーディコウル」には、4〜9歳までの15人の子供たちが親と一緒に参加する。まずパーナネンさんが、パソコンの画面を大きなスクリーンに映し出しながら、オンライン教材「タートル・ロイ」の使い方を参加者全員に紹介した。

教室では、線や四角や三角や円を描くなど、簡単な線画を描くコマンド(命令文)を教わった。コマンドは英文だが、そこは親子とも気にかけない。自分の希望通りの形が画面に現れると、子供たちの目がぱっと輝いた。

パーナネンさんは、自らを「校長」と名乗り、一つ一つのコマンドをゆっくりと簡潔に説明はするものの、参加者にはそれぞれ自由にさせている。参加者は、同じコマンドを与えることで同じ形を何度も繰り返し描けるようになると、同じ形を重ねた花や幾何学模様、またそれらに動きを加えるなど、独自の世界を展開していく。

パーナネンさんは、さらにゲームやアプリケーションなど、プログラミングを使ってできる様々なことを提示し、付き添いの親達にはその参考となるサイトを教示した。参加者の男女比はほぼ同じぐらいだが、親はパパが多い。若干名、子供よりも身を乗り出しているパパの姿もあって微笑ましい。ビュッフェスタイルで、それぞれ気が向いた時に軽食もとりながら、プログラミングをしている。

素人の私も、持参したパソコンからタートル・ロイを試してみたところ、思いのほか簡単で、視界が180度変わった。プログラミングは楽しそうである。これなら息子たちと一緒にやってみても良さそうだ。パーナネンさんのゆったりとした指導は、ヘルシンキ中央のオフィスに居ることも忘れるほどだった。

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教室が終わった後、パーナネンさんにプログラミング教育について話を聞いた。パーナネンさんも2人の娘を持つ父親だという。

■プログラミング教育の目的は?

――フィンランドにおける「プログラミング教育」の目的は何ですか?

パーナネン: まず一つには、現代と未来のテクノロジーはほとんど全てソフトウェアがベースになっており、カメラやテレビなど、私たちの身の周りにあるものはソフトウェアで動いているものばかりです。未来の社会で競争力を維持するためには、誰でもこの能力が必要です。

また、FacebookやWhatsAppのように、わずか2、3人で起ち上げた企業が化けたように、ソフトウェアからは膨大な価値を築き上げることができます。よってプログラミング能力は明らかに投資すべきもので、フィンランドにとっても良い未来への投資だと思います。

――プログラミングは誰でも必要なスキルなのでしょうか?

もちろん全ての人がプログラマーにはなれません。どちらかというとプログラマーが作った製品を使う人がほとんどです。多くの人がソフトウェア製品を購入したり、大規模なITシステムを導入しますが、それがどういう仕組みでどのように構築されているのか、少しでも分かっていた方が分からないより断然良い。

プログラミング教育は、プログラミング言語やパソコンのスキルだけではなく、プログラミングの背後にある考え方、つまりロジカルシンキングを鍛える上でも有効です。一つのものをパーツ別に分けたり、どのパーツがどのように構築されているのかを見極めたりする能力は、他の分野でも応用が効きます。

インタビュー中に「タートル・ロイ」のサイトを開いてコマンドを与えるパーナネンさん

――フィンランドの教師にプログラミングが教えられるのでしょうか?

フィンランドの先生方は、修士号取得者など、高学歴な人ばかりなので問題無いでしょう。それよりも大事なのは姿勢です。プログラミングを恐れ、教えたくないと思う気持ちがあれば、それは障害になります。一方、プログラミングを新しいチャレンジと捉えて、新しいことを学ぶ姿勢があれば、それほど大変ではありません。フィンランドのほとんどの先生が前向きな構えだと思います。

プログラミング教育では、パソコンを使うための新しい言語を習いますが、大事なのはパソコンに与える命令文の作り方です。小学校では、オムレツのような簡単な料理レシピを書くぐらいのレベルですが、そこに行きつく為には助けが必要なので、先生方は(導入トレーニングで)正しい知識を得て、まず自分自身の恐れを無くす必要があります。

■早期教育でプログラミングを学ぶ理由

――フィンランドの教育の特色は「個性の尊重を大切にしており、早期教育をしないこと」だと言われていますが、小学生にプログラミングは早すぎないのですか?

算数で計算の仕方や国語で書き方を習うように、規則的な数列やパーツ分けなどを、少しずつゆっくり習うだけなので、子供たちにはそれほど大きなインパクトは無いでしょう。プログラミングは算数や図工の授業の一部に導入されるだけで、授業時間が増えるわけでもありません。

――新しいカリキュラムでは、筆記体も教えないなど、子供たちが手を使う授業が減るばかりだという、プログラミング教育に反対する声もありますが、どう思われますか?

プログラミングを習うことで、手を使わなくなることはないです。手作業もテクノロジーは、どちらも重要なものです。全てがデジタル化される必要はないし、テクノロジーには人の手が関わる作業は必ず残ります。私も木工作業が大好きで、古い木造の自宅のリノベーションなどをします。作業をやり遂げた時の達成感は心地良く、何にも代えがたい。でもプログラミングもツールが違うだけで、どちらも何かを創り上げるという点では同じです。

■4歳の娘に教えたプログラミングが教室のはじまり

――プログラミング教室「コーディコウル」は何がきっかけで生まれたのですか?

コーディコウルは、私が当時4歳だった娘に、パソコンの使い方を教えた時の経験からヒントを得ました。初めは娘にプログラミングを教えるつもりではありませんでした。まず子供にどれだけパソコンを使う能力が備わっているかを見てみたかったのです。

――その時の様子を綴ったブログ「Girls Can’t Code」はフィンランド国内外で大きな反響を得ましたね。実際に教えてみていかがでしたか?

子供たちは、大人が思うほどパソコンが得意ではありません。娘もそうでした。生まれつきiPadになじみがあり、タッチスクリーンをなめらかに操れても、実際にスクリーンの中で何が起こっていることは魔法か何かだと思っている。

私が25年前ぐらいにパソコンを使い始めた頃には、自力で使えるようにするために、プログラミングのマニュアル片手に格闘したものです。当時中学生だった私は、選択授業のコンピューターのクラスでプログラミングを習いました。その時のことを思い出しながら、私は娘にまずタイピングを教え、それから簡単なコマンドの書き方、テキスト編集、タートロイドやスクラッチなどのプログラミング環境も一緒に試してみました。

それが思いの他楽しかったので、同僚たちと社内親子プログラミングクラブを開催したところ、とても好評だったので、マーケティング部長が一般公開してプログラミングコースにすることを提案しました。するとそれに対する需要があまりにも大きかったので、同業他社のフトゥリス(Futurice)とエフィコード(Eficode)にも参加を呼びかけました。それが「コーディコウル」の始まりです。

初めてのコーディコウルは2014年1月に開催されました。それはちょうど、キウル元教育大臣がプログラミング教育を導入することを発表した日で、メディアからの注目も集まり、15人の参加者枠に400人もの申込みがありました。

――コーディコウルでは何を教えているのですか?

コーディコウルでは、「タートル・ロイ」というオンラインの教材を使います。パソコンにタイピングでコマンド(命令文)を与え、パソコンがどう反応するかを見るという簡単なプログラミングを教えています。授業は2~3時間で、あとは自力でできるようなります。

私は最初にプログラミングでできることをいくつか提示し、参加者の父母には詳細な情報が得られるサイトを教えます。まだタイピングも難しい4歳ぐらいの子供も来るので、保護者の参加も必要ですが、大人も結構楽しんでいます。コーディコウルのサイトには、年齢や目的別に分けた自主学習用の教材もあるので、自宅で続けることも可能です。

■世界に広がるプログラミング教育

――イギリスや韓国、エストニアなど、既にプログラミング教育を始めている国の様子はどう見ていますか?

フィンランド以外の国でもプログラミングが教えられることは、フィンランドにとってもプラスになります。イギリスのような大国が実践すれば、たくさんの教材が生まれ、リサーチも進みます。特に英語圏の場合、ほとんどのフィンランド人は英語に不自由はありませんので、ありがたいです。そういう意味でも他の国が成功することを心から願っております(笑)。

――プログラミング教育は日本でも有効だと思いますか。

もちろんです。是非とも着手してほしいですね。新しい世界の扉が開けますよ。

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