アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は、誰よりも先にテロを特定できると長らく主張している。
ニューヨーク州マンハッタンのチェルシー地区やニュージャージー州シーサイドパークで9月17日に発生した連続爆破事件の時、トランプ氏は当局の公式発表を待たずに、「爆弾」によるものだと発言した。そしてその後、ニュース報道よりも先に正しく見極めたと自慢した。彼はかつて、テロに対する直感力を不動産投資に適した立地を見つけ出す自身の能力になぞらえ、「私がテロを予知できたのは、それを感知できるからだ」と発言したことがある。また2015年の選挙運動中には、自身を「実際にテロを予知した最初の男」と呼んだという「友人」についてふれている。
しかし大統領(やジャーナリスト)は、事実関係が明らかになる前に事件の原因を推測するのは、例え明らかに説明できる場合でも避けようとする。これには理由がある。誤った見解を示すのは危険すぎるからだ。
シンクタンク「トルーマン国家安全保障プロジェクト」の会長兼CEOで、また勲章を受けた元陸軍士官のマイケル・ブリーン氏は「何らかの攻撃があると混乱し、間違った情報が大量にあふれる」と語った。「アメリカ大統領の、特にこういった状況下での発言すべてが国家政策だ。つまり、そのような立場にある人間が、アメリカ合衆国の今後の出方を潜在的に決めてしまうのは、大変危険なことだ」
2009年から2012年にかけて国務省でテロ対策調整官を務めていたダニエル・ベンジャミン氏は「まだ、超感覚的知覚をもつ人間が実際にいるとする実質的な根拠はない」と語った。「しかし、トランプ氏は自分がそうだと主張しているようだが」
トランプ氏は、予知能力がある証拠として、自身の2000年の著書『The America We Deserve』を引き合いに出している。本の中で彼は、1993年の世界貿易センター爆破事件が「子供が爆竹で遊んでいるかのように見えてしまう」ほどのテロが起こると警告している。以来トランプ氏は、9・11同時多発テロ事件を指揮したオサマ・ビンラディンの危険性を予知した証拠としてこの自著をあげてきた。これは正しいとは言えない。検証サイト「FactCheck.org」によると、この本にはビンラディンについて1か所しか書かれておらず、出版当時、ビンラディンの名はすでによく知られていた。
しかしこの本は、トランプ氏が「予知」を続ける後押しにはなったかもしれない。また彼は少なくとも、最近起こった事件について、間違った予知をしている。
9人が死亡し、銃撃犯も死亡したドイツ・ミュンヘンの銃乱射事件が起きた7月22日、トランプ氏はこの事件にふれ、「テロの増加はすべての市民の生活を脅かす。それが我が国に及ばぬよう、私たちは全力を尽くさなければならない」と語った。
しかしこの銃乱射事件は、イスラム過激派のテロとは関わりのない若者によるものだった(トランプ陣営はハフポストUS版の取材に応じていない)。
またトランプ氏は、予知に成功していると主張するときも、物事を単純化し過ぎる傾向がある。2015年、カリフォルニア州サンバーナーディーノで、一組の男女がホリデーパーティーで14人を殺害し、17人が負傷した銃乱射事件の後、警察が動機を解明する前にトランプ氏は「この事件はテロだ」と主張していた。「だってほら、名前を見てみろ、何が起こったか見てみろ。すぐにわかるだろう」と彼はツイートしている。
当局は通常、容疑者の名前以外も調査した上で、攻撃がテロであったかどうかを判断する。銃撃犯は確かにIS(イスラム国)を支持していたが、警察は彼らが外部テロ組織のメンバーだったとは言及していない。
フロリダ州オーランドのナイトクラブで6月12日に銃乱射事件が発生した数時間後、トランプ氏はTwitterで「事件がイスラム過激派のテロだという予想が的中し、それを祝福するツイート」にお礼を言った。彼はまたこの事件を受け、イスラム教徒のアメリカへの入国を禁止すべきとの意見を一層強調した。しかしここでもまた、状況はそれほど単純ではないことが明らかとなった。銃撃犯はアメリカ生まれで、ISへの忠誠は示していたが、過激派との関連はまったく見られなかったという。
トランプ氏が物事を解釈するときにテロリズムを結び付けることで、攻撃とは無関係の可能性がある国際的グループに信頼を与えることになりかねない。
「絶対に避けなければならないのは、ISやアルカイダのようなグループを生み出すことだ」と、国務省で以前テロ対策調整官を務めていたダニエル・ベンジャミン氏は語る。「トランプ氏は恐怖心を植え付け、疑心暗鬼状態を生み続けているだけだ。これでは、テロリストが攻撃を実行しやすくなる」
大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏は、ニューヨークの爆発事件に対するトランプ氏の反応について聞かれ、「常に言えることは、情報を入手するまで待ってから結論を出す方が賢明な選択肢だということだ」と述べた。
事実がすべてそろう前に結論を急いでしまうのは差別や暴力につながりかねない。アメリカ国民によるテロだった1995年のオクラホマシティ爆破事件の後、複数の政府関係者がまだ早い段階でイスラム教のテログループが関与していると示唆した。その後、イスラム教徒のコミュニティに対しさまざまな脅迫があったと、複数のイスラム教指導者が報告している。イラク難民のある女性は、窓からレンガを投げ入れられ、妊娠していた子供を失った。
もしトランプ氏が大統領に選ばれたら、性急に出す結論が原因となり、彼の政権は首尾一貫した国家安全保障政策をたてるのが難しくなる可能性がある。「トランプ氏がいつもの調子で『石油を取るぞ』『絨毯爆撃をしかけるぞ』『子供を標的にするぞ』なんて言ったら、それが指令となることもありうるのです」と、ブリーン氏は述べた。
「指令を受けた司令官が、5分後にホワイトハウスの別の人間から電話で『大統領は独り言を言っていただけだ、実行に移すな』と言われるなんて、ありえない話だ」
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ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサー(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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