韓国の若者が「ヘル朝鮮」と自国を揶揄する理由とは? 世代間の断絶が深刻に【韓国大統領選】

韓国には「ヘル朝鮮」という造語があり、「地獄のような韓国社会」という意味だ。5月9日に投票を控えた第19代韓国大統領選を前に、若者の現状を探った。
TOPSHOT - Protesters hold candles and banners calling for the resignation of South Korea's President Park Geun-Hye during an anti-government rally in central Seoul on November 19, 2016. Tens of thousands of protestors rallied in Seoul on November 19, for the fourth in a weekly series of mass protests urging President Park Geun-Hye to resign over a corruption scandal. / AFP / JUNG YEON-JE (Photo credit should read JUNG YEON-JE/AFP/Getty Images)
TOPSHOT - Protesters hold candles and banners calling for the resignation of South Korea's President Park Geun-Hye during an anti-government rally in central Seoul on November 19, 2016. Tens of thousands of protestors rallied in Seoul on November 19, for the fourth in a weekly series of mass protests urging President Park Geun-Hye to resign over a corruption scandal. / AFP / JUNG YEON-JE (Photo credit should read JUNG YEON-JE/AFP/Getty Images)
JUNG YEON-JE via Getty Images

韓国には「ヘル朝鮮」という造語がある。ヘルは英語で「地獄」を意味する“Hell”で、「地獄のような韓国社会」という意味である。

この造語には、経済的に厳しい状況に立たされた韓国の若者が抱える不満や怒りが込められている。5月9日に投票を控えた第19代韓国大統領選を前に、若者の現状を探った。

■大統領選、事前投票は過去最高ペース

大統領選の事前投票は、5月4日からすでに始まっている。

事前投票2日目となる5月5日の午前10時時点で、投票率はすでに14.15%、投票者は600万人を超え、歴代最高のペースとなっており、大統領選への関心が高まっている。

ハンギョレが3日に行った、全国の有権者への世論調査では「必ず投票する」との回答が89.2%だった。

韓国の国民は次の大統領に一体どのような政策を求めているのだろうか?

朝鮮日報の世論調査によると、次期大統領が実現すべきこととして、「経済成長」(28.5%)、「雇用創出」(18.8%)、「統一・外交・安保」(16.7%)の順で回答が寄せられた。この調査では、国民は経済に注目していることがわかる。

■若者の潜在失業率が24%

そんななか、若者の就業をめぐる現状に関するデータが発表され、こちらも話題になっている。

まず、低賃金の「飲食店及び居酒屋業」に、若者が多く従業するというものだ。

ハンギョレによると、韓国統計庁が4月25日に発表した2016年下半期の雇用に関する調査では、15〜29歳の働いている若者のうち、13.3%(52万8000人)が飲食店や居酒屋業に従事していることがわかった。 30〜40代は6.1%、50代以上は8.3%だ。

一方、2016年の就業者に関する調査で、全労働者の45.8%が月収200万ウォン(約19万7000円)未満だということも明らかとなった。

月収100万ウォン(約9万8400円)未満が11.4%、100万〜200万ウォンが33.8%だった。業種別では、宿泊と飲食店業従事者の79%が200万ウォン未満の賃金となっている。

韓国統計庁の「2017 青少年統計」(2017年4月18日)の経済活動の項目を見てみよう。

これによると、2015年の20~24歳の月収平均は176万3千ウォン(約17万3500円)、25~29歳は221万8千ウォン(約21万8千円)だった。

「2016年5月経済活動人口調査 付加調査」(2016年7月21日)によると、青年層(15〜29歳)の「初の職場での平均勤続期間」は1年6.7カ月で、初職場をやめた場合は平均勤続期間が1年2.8カ月だった。退職した理由として「労働要件に不満足(報酬、労働時間など)」が48.6%と一番高かった。

そして、若者の潜在的な失業率が24%に達することも明らかとなっている。

ハンギョレによると青年失業率は11.3%(2017年3月時点)だが、そこから抜け落ちている就活生や公務員試験準備生、アルバイト生まで含めた「体感青年失業率」は24.0%で8万人にのぼる。

問題は、短期間で解消するのが困難なほど、韓国の就業構造が硬直化しているという点だ。

正規職と非正規職、大企業と中小企業の間の雇用の二極化はますます深刻になっている。

2016年に、政府が施行した「青年雇用絶壁解消総合対策」を通じて就職した青年層のうち、42.4%は非正規職であり、賃金水準が150万ウォン(約14万7600円)未満という回答が40.1%を超えた。

最初の職業選択によって生活格差が極端に広がり、大企業・正規職を何が何でも目指すことしか選択肢がない構造が形成されている。

■世代間での意識ギャップ

「ヘル朝鮮」という言葉は、身分社会だった朝鮮王朝時代のように、資産や所得水準に応じて身分が固定化されている社会の不条理さに対する若者の怒りの表明だった。

インターネットサイトで使われるようになり、ヘル朝鮮の事例を共有するインターネットコミュニティ「ヘル朝鮮」(www.hellkorea.com)まで登場した。

しかし、こうした状況をめぐって、大統領選では世代間での意識ギャップが垣間見えた現象もあった。

大統領選での世論調査で人気順3位につけている、元・セヌリ党「韓国自由党」大統領候補の洪準杓氏は若い頃、貧しい暮らしをしながら検事となった人物だ。

洪氏は4月30日、仁川での遊説で次のように語った。

若者は親のせいにして、そして「ヘル朝鮮」と言う。いくらもどかしくても、こんなに住みやすい大韓民国は、努力さえして希望と夢を捨てずに生きればチャンスがある国なのに、なぜ両親を恨み、ヘル朝鮮というのか私にはわからない。(中略)

この地の若者はお金がなく不幸なのではない。夢と希望を失ったため不幸なのだ。大韓民国はとても住みやすい国だ。世界中巡ってみても、大韓民国のように治安が良く、暮らしむきが良い国はないのだから。(後略)

これに対して、SNSでは「洪準杓が、この国がなぜヘル朝鮮なのかわからないと言うけど、私はあなたがなぜ大統領候補なのか理解できない…」「お前だけが暮らしやすいんだろ」「どうして両親を恨めるのか…この国のシステムに文句を言っているんじゃないか」といった反応が見られる。

■韓国大統領選、顔ぶれは

韓国の大統領選で有力とされているのは、以下の5人の候補だ。

文在寅(ムン・ジェイン) 革新系最大野党「共に民主党」候補、同党前代表

安哲秀(アン・チョルス) 中道の第2野党「国民の党」候補、同党元共同代表

洪準杓(ホン・ジュンピョ) 旧セヌリ党の与党「自由韓国党」候補、慶尚南道知事

劉承旼(ユ・スンミン) セヌリ党から分裂した「正しい政党」候補、国会議員

沈相奵(シム・サンジョン) 第3野党「正義党」候補、唯一の女性候補

4月頭までの世論調査では文氏と安氏の一騎打ちになると見られていたが、安氏が支持率を落とした。

このまま文氏が逃げ切るのか、はたまた「非文一本化」でまとまるのかで勝敗が分かれる情勢となっている。

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