「あ!また高橋一生出てる」、そんな印象はないだろうか。この数週間で始まった企業のキャンペーン動画やCMに、立て続けに出演する高橋一生の色気は、短期間で何度もファンを酔わせた。
キリン「氷結」のCMでは、東京スカパラダイスオーケストラとコラボし、ブルースハープを情熱的に吹く姿でSNS上でも大きな反響を呼んだ。
「氷結」のように高橋一生本人として登場するCMだけではない。ストーリー仕立ての長編の企業CMやPR動画にも出演が相次いでいる。
いろんな高橋一生を見ることができる一方で、ファンなら感じざるを得ないのが「高橋一生消費されすぎ」の切なさだ。"出過ぎ感"が漂うほどのひっぱりだこな状況で、それでも高橋一生に"ラブコール"が送られるのは、企業のどういった戦略があるのだろうか。
資生堂とNTT ドコモの広報担当者に、高橋一生の起用理由を聞いてみた。
資生堂のスキンケアパウダー「スノービューティ」のPR動画である本作は、高橋一生と武井咲のダブル主演の短編ドラマ。『朝篇「21:25 東京発、プラハ行き」』 、『夜篇「夏ノ空ニ、降ル雪ハ」』の2篇のストーリーで、時空を超えた恋愛を描く。
高橋一生が演じたのは、ある街に佇むクリーニング店「Laundry Snow」。
武井咲が演じるクリーニング店の客に対して、恋のアドバイスをする「朝篇」。実はたくさんの"伏線"が散りばめられている。「夜篇」を見て初めて、高橋一生演じる店主が、魔法をかけられて80年間も、変わらぬ姿で女性を待ち続けたということがわかるのだ。
「夜篇」を見てストーリーを理解すると、ついもう一度「朝篇」を見てしまいたくなるようなファンタジーだ。
何度か見て気づくのは、「朝篇」では、 黒いシャツに現代風の髪形であるのに対して、「夜篇」では白いシャツに身を包み時代を感じる髪型。若くて一途な青年として描かれている。80年の時の流れを自然と印象付けた。
——資生堂が今回、高橋一生さんを起用したのはなぜですか。
「女性の願望を叶えてあげる存在」として高橋さんがぴったりだと思いました。
スノービューティの商品も今年で4年目になりますが、発売当初から、スキンケアパウダーという商品特性上、女性たちのそばにいつもいて、女性たちの願いが叶えるような、「恋のお守り」的な存在としてイメージを作り上げてきました。
このたびの企画でも、女性のそばにずっといてくれて願いを叶えてくれる、商品を体現するような方ということで高橋さんにオファーしました。
ちなみに設定を「クリーニング店」にしたのも、美白効果をうたっているパウダーになりますので、「白くする」のイメージを伝えてくるクリーニング店にしています。
資生堂として高橋一生をプロモーションに起用するのは今回が初めて。起用を検討し始めたのは、2017年1月ごろだという。
担当者は「検討し始めた時には、そこまで企業CMなどでの露出も激しくなかったのですが、いずれにせよ人気がどんどん上がっていく方だろうと感じていました。(商品と高橋一生が)相乗効果的に話題になることは資生堂にとっていいことだと感じています」と話した。
NTT ドコモの設立から今年で25年。NTTドコモが、携帯電話の歴史は人の歴史とともにあったということを感じさせるPR動画を作った。BGMは共にデビュー25周年を迎えるMr.Childrenが提供。デビュー曲「君がいた夏」や「innocent world」「365日」などが使用された。
若い男女が出会って恋に落ち、結婚して、娘が生まれ、その娘が高校生にいたるまでの半世紀を、高橋一生と黒木華が演じた。
高橋一生演じる男性は"プレイボーイ"で、黒木華演じる女性と一度は破局する。そんな2人をもう一度出会わせるのが「思い出のMr.Childrenの曲」と「消せない携帯の連絡先」というストーリーだ。
25年の時の流れは、同じ時代を生きた視聴者の共感を呼ぶための細かい演出がなされた。当時流行していたファッションやメイク、携帯ストラップなど細部に到るまで、綿密に再現された。
——NTTドコモが今回、高橋一生さんを起用したのはなぜですか
「25年」という時の流れを演じきる表現力の高さが理由です。
実際、前半では茶髪でパーマの若々しい恋する青年を、ラストでは白髪混じりの父親を、ともにリアリティのある表情で演じてくださいました。
この25年で携帯電話は大きく様相を変えてきました。肩からバッグのようにかける大きな電話から、ピッチ、携帯電話、スマホと姿を変えながら、いつも人々の暮らしの中にあったと思います。
携帯電話が普段の生活で身近にあったという歴史を感じていただくために、「普通の生活」を送る等身大の男女の代表として高橋さんを起用しました。黒木華さんもそうです。
動画の中で、高橋一生さん演じる父親が単身赴任先で、娘からの動画を見て微笑むシーンがあります。
「パパ、誕生日おめでとう、じぇじぇじぇ〜」と手を降る娘の動画を見つめる高橋さん。子どもを愛する父の顔でもあり、企業戦士として揉まれる日々の中でホッとする顔でもあります。この25年を生き抜いた"名もなき人"の象徴だと思います。
起用を検討し始めたのは、2017年2月ごろだという。ドコモが提供する映像配信サービスdTVのテレビCMで長澤まさみと共に出演したCM「どの物語で、ひとつになろう」が好評であったことも後押しになった。
広報部の担当者は「個人的には、3年前に大河ドラマ『軍師官兵衛』に出られていた時からずっと、いつか起用させていただきたいと感じていました」と話した。
高橋一生について、資生堂は「願望を叶えてくれる商品の魅力そのもの」と答え、NTTドコモは「携帯電話のそばで生きてきた人そのもの」だと話した。
ありのままで等身大の表現をする率直さと、率直であるがゆえの存在感が、企業に評価されているのではないだろうか。
高橋が、トーク番組「A-Studio」(TBS系・2017年1月20日放送)にゲスト出演した際に、司会者の笑福亭鶴瓶は高橋の演技について「役柄を勝手に(高橋一生の中に)呼び込んでやってる感じ」と評した。
高橋は「僕は演技という言葉が嫌いなんですけれど、なんとか演技をせずに、『芝の上に居るだけをしたい』んです」とハフポスト日本版に語ったこともある。
なりたい姿やなるべき姿に演じることで近づこうとするのでなく、あくまでありのままで勝負する姿勢は、高橋一生を替えの効かない役者にした。企業が商品やブランドの魅力を等身大に伝えていこうとするならば、シンクロする部分が大いにある。