xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEOの川ノ上和文さんが、寿命100年時代のキャリアを高める"戦略的ワーホリ論"について語る連載の第6回。
日々新しい人や情報と出会い「インプット」が増えるワーホリ期間は、つい受け身の姿勢になってしまいがち。より高みを目指すなら「学びのアウトプット」を意識せよ! 川ノ上さんを起業へと導いたアウトプット活用法に迫ります。
日中の情報格差に勝機あり?
-ワーホリ期間中、行動力に比例して情報量の多い日々だったと思いますが、集めた情報はどのようにまとめていたのでしょう?
川ノ上:台湾と深センを行き来する中で情報がかなり集まってきたので、気になったWeb記事やコラムは、日本語のコメントと一緒にFacebookへ投稿していました。
初めのうちは備忘録の意味合いもあったのですが、発信を続けるうちに日本側のドローン業界とつながりができ始めて、実際に活動している人達を紹介してもらうようになったんです。
聞いてみると、彼らも「深センがドローンの都市」ということは知っていたものの、語学の壁や現地ネットワークの少なさから情報収集できずにいたそう。私が深センのドローン事情をテーマにしたコラムを執筆するようになったのは、こうしたSNSでの発信を機に生まれた「人との出会い」がきっかけです。
-潜在的なニーズに川ノ上さんの強みがマッチしたと。
川ノ上:そうですね。実際に日本と中国のドローン産業を比較すると、開発規模やそのスピード感といった点でその差は圧倒的です。日本側の状況を目の当たりにして、情報格差を実感しました。
ただその一方で、中国のドローン業界にも日本と同じようなニーズがあったことも分かってきました。現地では、多くの人が日本の動向に関心を持っているのですが、日本語で書かれた情報の多くは中国語に翻訳されていませんでした。当時は双方をつなぐ役割の人が少なかったんですよね。
ワーホリ後半は台湾を拠点に、深センで行われるイベントやセミナーに参加したり、現地のキーマン達との情報交換のため、頻繁に足を運んでいました。
そうやって「インプット」が増えていく一方で、SNSでの情報発信や日本側メディアへの寄稿、中国のドローン関係者に会う時には日本のドローン情報を翻訳して手土産にしたりと、「アウトプット」をまとめる機会も増えていきましたね。
アウトプットの機会を自ら取りに行ったこともあります。
深センのドローンスクールで行われる「ドローンサロン」があるのですが、インターネットでその存在を知って、主催者へ自ら「講師として発表させてほしい」とWechat(中国のメッセージアプリ)で連絡をとりました。
OKをもらい実際に中国語でセミナーを開いたところ、会場は満員に、その場にいた広州の証券会社や産業ドローンメーカーから、後日会社に呼んでいただきセミナーをさせてもらったんですよ。
情報発信から見えてきた「自分の価値」
-川ノ上さん自身がまさに「日中ドローンをつなぐ役割」を確立したことになりますね。
川ノ上:正直なところ、初めからそうしたビジョンが見えていたわけではありません。当時は現地情報を持っていることしか強みがないと思っていたので「"ワーホリ中に面白いことやってる奴がいるぞ"というブランディングに繋げられたらいいな」くらいの感覚でした。
「ドローンを事業化する」という漠然としたアイディアが浮かんできてからも、事業化のイメージはついていませんでした。台湾だけだとマーケットが小さいですからね。ただそれでも動き続けたのは、まずは自分が知りたいという「好奇心」。それが一番大きかったですね。
-事業化が具体化してきたのはいつ頃からですか?
川ノ上:「寄稿」や「深センドローンツアー(Vol.01参照)」といった形でアウトプットをするようになってからです。"現地の情報"や"日本で触れる機会の少ない情報"を発信する私の活動を、「日中双方をつなぐ価値がある」と言ってもらえたことが自信につながりました。
それから、どうにか日中のドローン交流を事業にできないか、具体的な方法を模索しはじめたんです。
はじめは「好奇心」が原動力でしたが、そうやって動き続けたからこそ、ドローンの知識はもちろん沢山の人との出会うことができ、アウトプットのチャンスにもめぐり逢えたと思います。
そして、"現地情報や場づくりを事業化する"ことに対して、サポートしてくれた人たちのアドバイスがあったからこそ、ここまで価値を高めることができたのだと思っています。
学びのアウトプットで「自分」を知る
-外へ向けた学びの発信がワーホリを大きく飛躍させたと言えそうですね。
川ノ上:はい。私はもともと「学んだことを言葉にしてまとめる」のがすごく好きなんです。以前は読んだ本についてメモをする習慣があったのですが、書き残すのは内容の要約ではなく、タイトルだけ。
たとえ内容を覚えていないとしても、後でそのメモを読み返せば「この本読んだことあったんだ」「この頃はこのテーマに関心があったんだな」と、"当時の自分"を振り返る記録になるところが良いなと思うんです。
人間の脳ってうまくできていて、必要ないものは脳からどんどん消えていってしまう。でも一度消えてしまった記憶も、文字として残されたものを目にすると、また蘇ってくる。きっかけがないと永遠に忘れたままですからね。
それから、記録を残しておくもう一つのメリットが「自分の成長や変化を実感できること」です。読んだ本のメモを時間が経ってもう一度読み返してみると、不思議なことに、過去の自分と今の自分では面白いと感じた部分が違っていたりするんです。
自分自身のものの見方や捉え方が変化した証拠であり、「自分の成長」を意味するものだと思っています。
-言語化してアウトプットすることが「自分を知る」ことにつながると?
川ノ上:はい。私にとってアウトプットは「自分を知る材料」としての側面が大きいと思います。言語化した"記録"を1年後の自分がどう思うか、そこにすごく興味があるんです。
数年後の自分に宛てた手紙等を埋める「タイムマシン」って昔流行りましたよね。私にとって、文字にしてアウトプットを残す習慣は、そういう感覚に近いかもしれません。「未来の自分」と「過去の自分」との対話が自分を多面的に見るきっかけになります。
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分かりそうで分からない「自分」という存在。次回は、これからやってくる寿命100年時代に欠かせない「自分を知る」プロセスとその意義についてお話を伺います。
Ambassadorのプロフィール
川ノ上 和文/Kazufumi Kawanoue
xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEO
大阪出身、中国・深セン在住。xyZing.innovation(エクサイジング イノベーション )CEO/総経理。深センを軸としたアジアxMICE(Meetings,Incentives, Conferences,Events)の事業開発をてがける。高校卒業後、東洋医学に関心を持ち北京留学。その後留学支援会社での講座企画、上海での日系整体院勤務、東京での中国語教育事業立上げ、台湾ワーキングホリデーを利用した市場調査業務に従事。新興国や途上国における都市成長やテクノロジーの社会浸透、人間の思考や創造力の開発に関心が高い。現在、ドローン活用の思考枠を拡げるための場として深センでアジアドローンフォーラムの開催準備中。