イノベーションの第一歩は新しいアイディアを生み出すこと

変化の時代に生き残るための徹底的腹落ち

富士フイルムの米ゼロックス買収発表に見てとれるグローバル経営拡大は、今日求められるデジタルトランスフォーメーション、イノベーション追及の一端と見ることができます。今後、企業が取り組むべきことを示唆するワールドマーケティングサミット東京2017ゲスト登壇者の講演後半をまとめます。

■変化の時代に生き残るための徹底的腹落ち

経営戦略論、組織論専門を専門とする早稲田大学ビジネススクール 准教授 入山 章栄氏は、「"イノベーション"の第一歩は新しいアイディアを生み出すこと」「"既知の知"の組み合わせが新しい知になる」とし、今までつながっていなかった何かと何かをつなげる、"新結合"("the carrying out of new combinations", Joseph Alois Schumpeter)の重要性を述べました。

そしてさらに、世界の生産方式の手本となっているトヨタ生産方式がもともとアメリカのスーパーマーケット方式から、TSUTAYAのCDレンタル事業が消費者金融のビジネスモデルから生まれたように、外への"知の「探索」"(exploration)がイノベーションを生むと説明。この、外から学ぶ"知の探索"と、儲かりそうなところを徹底的に磨き込み深掘りする"知の「深化」"(exploitation)を、共に行う"両利きの経営"("ambidexterity", James March)が重要、と指摘しました。

知の「探索」の多くは失敗し、イノベーションの担当部署は3年もすると「失敗ばっかりして金ばっかり使うコストセンター」と呼ばれ予算が縮小することから、知の「深化」に偏り成長が阻害されるジレンマを「競争力の罠」(competency trap)と呼び、知の「探索」を促す施策の重要性を訴えました。

入山氏はそのうえで、知の探索を促す策を個人、戦略、組織の3つレベルで紹介。まず個人レベルでは、天才といわれながらその実出す製品がほぼ失敗したとされるApple創業者、故Steve Jobs同様に、個々人の失敗を受け入れる会社でなければイノベーションできないと主張。

成功か失敗かで評価する人事評価ではうまくいかない、イノベーションにはマーケティングだけでなく定性的な評価をする人事が不可欠と述べました。

そして戦略レベルの知の探索では、オープン・イノベーションがカギとし、CVC(コーポレートヴェンチャーキャピタル)等の外部ベンチャー企業支援に積極的な企業はイノベーションに成功すると解説。戦略レベルでは、人材の多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)の重要性を述べ、今までつながっていない知と知の組み合わせを生むよう、中年日本人男性の組織に女性や外国人など、なるべくバラバラの人材を組織にいれることが大切と指摘しました。

さらに個人レベルに立ち返り、個々人がつながる人のダイバーシティ、個人内ダイバーシティが必要と述べました。

さらに、日本企業に足りないこととして、雪のピレネー山脈で遭難した一団がわずかで不確かな情報による一か八かの判断で下山し生き残った実話によるKarl Weickのセンスメイキング理論を紹介し、圧倒的に変化が著しいこれからの時代に正確な分析に基づいた将来予測をしようとしてはいけない納得性ないしはこうなるはずだという腹落ち(plausibility)に基づいた方向感をもって進むべき正確性(accuracy)を求める多くの日本企業は死ぬ、と警告しました。

そして、ソフトバンクグループ創業者として、300年先の未来を語り国際買収、投資を続ける孫正義氏を例に挙げ、長期ビジョンのもと自社がどうするという徹底的腹落ち、自己成就(セルフ・フルフィリングバイアス)による経営の重要性を説きました。

■予測とビジョンの掛け合わせが見通しを作る

ケロッグ・イノベーション・ネットワーク(KIN)共同創業者のロバート・ウォルコット氏は、見通し(foresight)は将来(future)と違う、将来は予測できず将来に向かう一般的なトレンドが見えるのみだ、とし、予測とビジョンの掛け合わせが見通しを作ると説明しました。

コンピューターの父とされるCharles Barbeges、Alan Turingと、その原理を巨大ビジネスに進化させているアマゾン創業者、ジェフ・ベゾスらを対比し、世界がどこに向かうかのビジョンを持ち、戦略と楽観主義のもと、スピードと直感を駆使して進むべきだと解説。

自らが運営する3billionseconds.comを例に挙げ、社会的なアクションとは何かを捉えながら、共創を実現するうえで、ソーシャルメディアの有効性を説明しました。

■マーケティングにおけるプログラミングの重要性

リクルートで人工知能研究を率いた後、昨年エクサウィザーズを起業した石山 洸氏は、マーケティングにおけうプログラミングの重要性を強調。超高齢化社会の日本でAIを介護に適用して、ユーザー、産業、市民をつなげ、仕組みを解説しました。

介護初心者の教育にAIとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーションとエデュケーション)を用いることで介護士不足を補い、被介護者の反応をビッグデータ解析することで五感に働きかける人間らしいケアが実現するとし、福岡100-人生100年時代の健寿社会をつくる100のアクションの実例を紹介。

これらの取り組みにより、プロダクトを通じて愉しい介護を実現し、社会を良くするマーケティング4.0を実現できると述べました。

■企業のAI活用の5つの視点

ハワード・トゥルマン氏、石山 洸氏を迎え、ロバート・ウォルコット氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、石山氏が、汎用技術であるAIを企業が使うには、どのくらいのパラダイムシフト(価値観の変化)が必要なのか ― デジタルトランスフォーメーションとしての大きな変革なのかちょっとした業務だけなのか ― といった考察が必要、と説明。

石山氏は企業のAI活用の5つの視点として、

①経営企画力、戦略テーマとして人工知能の活用

②投資、オープン・イノベーションの一環、バランスシート上でスタートアップ買収などを含めて考えるAI活用

③研究所運営上、研究からプロダクトライフサイクルまでのスピード向上、開発のイテレーション(反復サイクル)短期化へのAI活用

④データサイエンティストの人材不足など組織面でのAI活用

⑤メカトロニクス、エレクトロニクス、ソフトウェアエンジニアなどの採用難対策として、自社がどこに向かうかのビジョンを示す広報上のAI活用がある、

という考察を述べました。

コウタキ考の転載です。