第2の新内眞衣さんは誕生するか?  OLが坂道合同オーディションに応募する場合の法的注意点 (榊 裕葵 社会保険労務士)

合格したら会社にどう伝え、どう両立を図るか
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CatEyePerspective via Getty Images

今年の夏、乃木坂46、欅坂46、そして「ひらがなけやき」とも呼ばれるけやき坂46が、新メンバーを募集する合同オーディションを開催する。

オーディションの応募資格は、12歳から20歳の女性ということで、現時点ですでに応募は締め切られている。

■副業解禁の流れの中、第2のOL兼アイドルが誕生するか?

年齢を考えると学生の応募が多いと思うが、高校や専門学校を卒業して既に社会人として働いている方の中にも、応募者はいらっしゃると思う。

乃木坂46には新内眞衣さんという、2013年3月に2期生として加入してから約5年もの間OLとアイドルの二足の草鞋を履いて活躍したメンバーも存在する(2018年3月末をもってOLを卒業し、芸能活動に専念)。厚生労働省はモデル就業を改定して、民間企業が副業を原則自由にする方針を推奨するようになったので、新内さんに続くOL兼アイドルが誕生しても、時代の流れとしては全く不自然ではないであろう。

そこで、本稿では、現在職業を持っている女性の方が、坂道合同オーディションに参加する場合の注意点について法的観点から論じてみたい。

■オーディションに有給休暇を使う場合の注意点

時系列に沿って論じていくが、まずは、応募前およびオーディション中についてである。

会社が副業に寛容で、スポーツや芸能活動のような特殊な副業も含め差し支えない社風であれば、会社の協力を得られれば非常に心強いので、オープンに会社に相談した上で、オーディションに応募することがベストであろう。

新内さんも、会社の理解・協力を得て、芸能活動をしているとテレビやラジオなどで語っている。

だが、副業として芸能活動を行うことに対して寛容な会社は決して多くはないであろう。合格する可能性も確率論としては決して高いとは言えないので、応募時点で会社に言って、あえて波風を立てる必要も無い。

そこで、まずオーディションの段階では、必要に応じ有給休暇を利用する形で対応するのが良いのではないだろうか。

有給休暇は、企業規模にかかわらず、入社後6ヶ月経過して出勤率が8割以上であれば、10日間発生する。そして、有給休暇の利用にあたっては理由を言う必要は無いので「私用」という形で届け出れば足りる。

有給休暇を取りにくい雰囲気の職場もあると思うが、乃木坂46や欅坂46という勢いのあるアイドルのオーディションを受けることができるというのは、人生にそう何度もあるチャンスではないと思うし、有給休暇は法律で認められた正当な権利なので、取得することをためらわないでほしい。

ただし、坂道合同オーディションは今夏に行われる予定ということなので、今春に入社する新入社員の方は、オーディション開催時点でまだ入社後6ヶ月経っておらず、有給休暇の権利が発生していない可能性が高い。

有給休暇が無い以上、オーディションが会社の勤務日と重なってしまった場合、残念ながら会社を休む権利は無いということになる。その上で休む場合は「欠勤」という扱いになってしまう。

「欠勤」すると欠勤日の給与がカットされることに加え、勤務査定や賞与額に影響する場合もある。この点は、アイドルを目指すという夢のための「犠牲」と考えなければならないであろう。

また、欠勤の場合は、有給休暇とは異なり「理由は言えませんが欠勤します」と言うわけにはいかないので、オーディションを受ける旨を上司に説明することがどうしても必要になる。

この点、「法事」など嘘の理由を述べて欠勤したことが発覚した場合や、会社への事前の相談なく「無断欠勤」をした場合は、始末書などの懲戒処分はもちろん、状況によっては懲戒解雇の対象になってしまう恐れがある。諸般の事情を勘案してやむを得ない場合を除き、やはり、上司に事情を説明して、理解を得た上で「欠勤」をすることが望ましい。

■合格したら会社にどう伝え、どう両立を図るか

次に、オーディションに合格した場合、会社にどう説明するのか、という論点に話を進めたい。

もともと会社が理解を示してくれている状況の場合は、特段の問題は無いはずだ。会社と話し合いながら、仕事と芸能活動を両立させていってほしい。

問題なのは、会社に話をしていないままオーディションに合格をした場合である。

グループの知名度からしても、会社に隠れて乃木坂46や欅坂46のメンバーとしての活動を行うことは現実的に不可能なので、オーディションに合格したことを伝えた上で、どうするかを会社と相談していくということ以外の選択肢は難しい。

社員が芸能活動をすることが、直ちに企業秩序を乱したり、会社の評判を悪くしたりすると考えることはできないので、少なくとも業務時間に被らないか、有給休暇で対応できる範囲内であれば、法的な意味で、会社は社員が乃木坂46や欅坂46のメンバーになることを全面禁止することはできないと考えられる。

逆に、会社によっては、職業人としても良い経験になるということで、芸能活動を積極的に認めてくれるという判断になるかもしれない。

現在は、「働き方改革」の流れの中で、多様な働き方を認める企業も出てきているので、芸能活動を行っている間は、就業規則上に定めがあれば短時間勤務制度を利用したり、パートタイム契約に切り替えるなど、会社と話し合いながら、勤務時間や勤務日数を調整するということも考えられるであろう。

裁量労働制やフレックスタイム制を導入している会社であれば、フルタイム勤務を前提としても柔軟に対応が可能かもしれない。

もう一つ、芸能活動を期間限定で考えているなら、会社を休職する、ということも選択肢の1つとして考えられる。

多くの会社の就業規則において、就業規則の「休職」に関する項目を見ると、主な求職理由は私傷病や交通事故等による労務不能であるが、「その他会社が認めた場合」という包括条項が加わっていることも多い。

この条項を根拠に会社と交渉して「○年を目途に芸能活動をして、経験を積んで戻ってきたいと思います」というような話をして、休職を認めてもらうというのも一手であろう。

■会社に在籍していれば社会保険が有利になる

ここで補足になるが、休職をして会社に籍を残すことのメリットの1つに、芸能活動中も社会保険の資格が継続するということがある。

通常、アイドルの場合は個人事業主ということになるので、国保に加入し、20歳以上であれば国民年金に加入することになる。

この点、国保の保険料は本人の所得比例なので、乃木坂46や欅坂46のメンバーとしてブレイクした場合、国保料は相当額跳ね上がることになる。

しかし、会社に籍を残して社会保険に継続加入していれば、会社が社会保険料の半額を負担してくれることはもちろん、保険料額の算定にアイドル活動の収入は加味されないので、結果として社会保険料の負担が少なくなる可能性がある。

また、アイドル活動中に、万が一、障害を負った場合に、障害基礎年金よりも有利な障害厚生年金を受け取る資格が生まれるなど、給付面においても社会保険に加入していることが有利に働く。

■退職してアイドル活動に専念する場合の注意点

最後に、OL兼アイドルは難しいので、退職をするという選択肢を選ぶ場合についても触れておきたい。

会社とよく話し合って、円満退職を実現することが望ましいが、現在、人手不足や採用難が続いているので、会社が簡単に退職を認めてくれない場合もある。

このような場合は、必要以上に思い悩むのではなく、法律の定めに従って、一方的に意思表示をするだけで合法的に退職できることを覚えておいてほしい。

民法の定めによると、給料が時給制や日給制の場合は、退職する旨を会社に申し出てから14日が経過すれば退職が成立する。また、月給制の場合は、月の前半に申し出れば当月末、月の後半に申し出れば翌月末に退職が成立する。

なお、就業規則で退職する3か月前とか、6か月前に会社に届け出るよう書かれていて、それを根拠に会社が退職を認めないと言ってくる場合がある。

このように就業規則と国の法律が矛盾する場合は、労働者に有利な限り、法律のほうが優先適用されるので、民法で定められた期限が到来したら、法律上は退職が成立したと考えて良い。

もちろん、引継ぎをしっかり行うなど「立つ鳥跡を濁さず」の社会人としての道義上の配慮は必要であるが、退職に時間を要して、せっかく合格した乃木坂46や欅坂46のメンバーとしての活動に支障をきたすことがないようしたいものである。

■まとめ

学生の方も、アイドルを目指すことで学校を辞めたり、転校をしたりと、大きな環境変化に直面することは同じだが、社会人の場合は、働くことに対する義務も伴うので、身の振り方がより難しい。

しかし、アイドルになることが夢であったのならば、上手にOLとの両立や、会社の円満退職を実現して、乃木坂46、欅坂46のメンバーとしての一歩を踏み出し、アイドルとしての花を咲かせて頂きたいものである。

《参考記事》

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榊裕葵 社会保険労務士・CFP