江戸時代の“マインドフルネス”本? 気持ちがはやる師走にこそ、カバンにこの1冊を。

《本屋さんの「推し本」 水嶋書房・たかつきの場合》
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もともとヤマハピアノ音楽教室で講師をしていた私は、上海の音楽学校で学生さんを指導するアシスタントとしてボランティアに参加しました。しかし、ピアノ指導の傍ら、カタコトの中国語や英語でコミュニケーションをとったり、ビデオカメラを回したり...と、緊張の連続からか帰国後に強度のヒジ痛に悩まされ...。

その治療のため通っていた整骨院の近くに、私が学生のときから通っていた書店があり、ある時、従業員募集の貼り紙を発見。少子化のあおりを受けて音楽教室の生徒数も減少していたこともあり、これは! と応募し、現在に至ります。

そんな私がいま、おすすめする本は中公文庫の貝原益軒『養生訓』、訳は岩波書店『育児百科』の著者である小児科医の松田道雄さんです。

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貝原益軒『養生訓』

著者の貝原益軒は江戸時代の本草学者、儒学者です。本草学というのはいまでいう東洋医学、あるいは漢方医学のようなもの。ちなみに私、益軒さんと誕生日が一緒です。益軒さんは享年84歳で、当時としてはかなりの長命。『養生訓』には、その彼が自ら実践した東洋医学、自然治癒力を用いた医者や薬に頼らない健康法が書かれています。

この本との出合いは、私が姿勢を整えるために通っているトレーニングジム。東洋医学の知識をもとに筋トレやストレッチ、マッサージの指導をしていただいているパーソナルトレーナーの方から、「実用書もいいけれど、時を経て読み継がれているものも読んでみては?」とすすめられたのです。

正直、最初は「江戸時代の本でしょ。 聞いたことはあるけど、どうなん?」くらいの気持ちで読み始めました。しかし、健康指南書としてだけでなく、読むだけで心が落ち着く世界がこの本の中には広がっていて、ページをめくる手が止まりませんでした。

数年前、故スティーブ・ジョブズが火付け役となり、欧米で"マインドフルネス"が流行し、日本のビジネスマンにもブームが起こりました。"マインドフルネス"とは「心のエクササイズ」のようなものですが、江戸時代、すでに"マインドフルネス"に通じる本があったのです。

例えば、『養生訓』にはこんな一節があります。

「完璧を望むな。

すべてのことは十のうち十までよくなろうとすると、心の負担になって楽しみがない。不幸もここからおこる。

また他人が自分にとって十のうち十までよくあってほしいと思うと、他人の不足を怒りとがめるから、心の負担となる(略)」

さらに、読み進めると...

「調味料は(中略)塩、酒、醤油、酢、蓼、ショウガ、わさび。

胡椒、芥子、山椒はそれぞれの食物に加えてちょうどよくなる調味料である。これを加えるのはその毒を抑えるのである。ただその味がよくなるだけが目的ではない」

...と、日本料理の解説のような内容に。読むだけでどこか心がゆるみ、時間の流れがゆっくり感じられ、少し笑えてほっこりするような、いにしえの日本の空気感を感じることができます。訳を手がけた松田先生のツッコミのような注釈と解説も、味わい深いです。

私は毎日、美しい姿勢を保つため、自分の身体の状態に合わせて選んでもらったストレッチ3ポーズを1日1回実践しています。

「習慣にしてしまえばそれほど苦にはならない」

貝原益軒先生の言葉です。

いつもカバンに『養生訓』、開いたページのひと言に気をつけて、みなさま、今日も1日元気に過ごしましょう。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

貝原益軒『養生訓』(中央公論新社)

今週の「本屋さん」

たかつきさん/水嶋書房

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撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)