サイボウズ式:就職先をプライドと世間体で選んでも、残るのは「未来から逃げてる罪悪感」だった──天狼院書店・川代紗生さん

不安を避けた選択をしたはずなのに、どこかもやもやするのはなぜ......?
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本当はやりたいことがあるけど、将来が不安だから、目を背けて「ありふれた就活」の道を選ぶ。でも、不安を避けた選択をしたはずなのに、どこかもやもやするのはなぜ......?

天狼院書店(池袋駅前店)店長の川代紗生さんは、早稲田大学を卒業後、一度は新卒で大手企業に就職したものの、学生時代から好きだった「書くこと」への強い思いから、約1年で学生時代にインターンをしていた天狼院書店へ転職しました。有名大学を卒業し、大手企業で働くという「王道」を歩むのをやめた川代さんですが、「自分の未来から逃げているという罪悪感がゼロの、今の自分が好きだ」と言い切っています。

自分で決めた選択肢にもやもやしないために、私たちは将来をどのように見極め、選択していけばいいのでしょうか。そのヒントを得るため、サイボウズ式インターンの松下美季が川代さんのもとを訪ねました。

「賞賛される選択肢」の中から「自分が好きなことに近いもの」を選んだ就活時代

松下:川代さんは、学生時代から作家になりたいと思っていたんですか?

川代:うーん......。就職活動をしていた頃は、あまり深く考えていませんでしたね。

松下:ずっと書くことがお好きだったのかと思っていました。

川代:「ものを書く仕事がしたい」という思いは漠然と持っていたので、広告代理店のコピーライターや出版社を目指していました。

潜在意識では「作家になりたい」という気持ちはあったんです。でも、自分がなれるわけがないと決めつけていたので、なるべくその想いから目を背けていました。

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川代紗生(かわしろ・さき)さん。天狼院書店池袋駅前店店長、ライター。1992年生まれ、早稲田大学国際教養学部卒業。新卒では大型書店を経営する会社へ入社し、雑誌コーナーの担当などに携わる。しかし、学生時代から好きだった「書くこと」を再び志し、学生時代にアルバイトをしていた天狼院書店に転職。同時に、作家を本格的に目指し始める。ブログ「川代ノート」 を月曜日から金曜日の22時に更新し、「承認欲求」などをテーマに書いた等身大で赤裸々な文章が共感を呼んでいる。NHKドキュメンタリー番組「人生デザインU-29」出演。
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松下:潜在意識では、小説が書きたい、音楽がやりたい、カメラマンになりたい、もっと勉強したい──。 私の周りにもそんな学生がたくさんいそうです。

でも結局、やりたいことができるわけがないと考えて、就職の道を選ぶ人は多いですよね。

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松下美季(まつした・みき)。サイボウズ式編集部のインターン生。現在大学4年生で、2018年4月に就職を控えている。本当はやりたいことがあるのに、そこから目を背けてしまう就活生が多いと感じている。やりたいことと向き合った時に生まれる「不安」とうまく向き合う方法を聞くため、川代さんにお話をうかがった。
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川代:はい。私も「作家になりたい」という潜在意識を無視して広告代理店や出版社を志望したのは、プライドと世間体のためだったと思います。

「みんなから賞賛される選択肢」の中から、自分がしたいことにできるだけ近いものを選んだんです。

松下:好きなことに没頭する学生時代を送っていても、いざ就活生になると、好きなことから目を背けて「ありふれた就活」の道に突き進んでいく学生が多いですよね。それってなぜなのでしょうか?

川代:就活をして大企業や有名企業で働くというのは、世の中的に「幸せだ」「正解だ」と言われる前例がある生き方ですよね。

でも、自分がやりたいことを追求する自分だけの生き方には、前例がないんです。

松下:なるほど。

川代:前例がない道を選んでしまうと、自分で模索しないといけなくなる。それには「不安」がつきまとうから、もともと正解が保証されている道を選んだほうが安心だと感じる人が多いのではないでしょうか。

松下:それで、本当にやりたいことにフタをしちゃうんですね......。

川代:私もそうでした。なので、新卒で入社した、大型書店を経営する大手企業はとても素敵な職場だったし、プライベートも充実していて楽しかったのに、心のどこかでずっともやもやしていたんです。

一見、順風満帆。でも、「あっちの世界に戻りたい」という思いがふくらんだ

松下:もやもやしつつも、「王道」からそれるのは、なかなか勇気がいることだと思います。川代さんが実際に大手企業から天狼院に転職するときには、どんなきっかけがあったのですか?

川代:実は、天狼院でインターンをしていたときに、ブログを見てくださった方から「本を出さないか」というお話をいただいていて。就職後も、安定した会社に勤めながら作家活動ができる「おいしい」状態だったんです。

松下:一見、順風満帆ですよね。

川代:そうなんです。でも、おいしいとこ取りをしている自分が嫌だったり、お世話になった天狼院の代表の三浦崇典に恩返しできないままでいるのが後ろめたかったりして。

そして何より、天狼院がいつも面白そうなことをやっていて、すごいスピードで成長していってるのを、いつもFacebookなどで見ていたんです。

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松下:自分の仕事も作家への夢もうまくいっているはずなのに、実は葛藤していたんですね......。

川代:あっちの世界に戻りたいし、戻ったほうがいい気がする。でも今の安定した地位を捨てられない。そんなふうにぐるぐる考えていました。

でもそんなとき、本を出すという企画がダメになってしまったんです。

松下:ええっ。それはショック......。

川代:はい。でも一方で、ホッとしている自分もいて。「おいしいとこ取りでこんなに人生うまくいくはずないよな」と、肩の力を抜いて考えられるようになったんです。

そんなときに三浦から、「紗生はいつ戻ってくるの?」と連絡があって。

松下:すごい。絶妙なタイミングですね。

川代:「戻るなら今しかない!」と決断してしまいました(笑)。

自分の選択を「正解だった」と言えるのは、「罪悪感」のないものを選んできたから

川代:でも、今になってみれば、一度別の会社を経験しておいてよかったな、と思うんですよね。

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松下:どうしてですか?

川代:大学を卒業するときに天狼院書店に残っていたとしても、「他の会社へ行っていたらどうなったんだろう?」とずっと考えていたと思うんですよ。一度別の会社に入ったのは自分にとってベストな選択でしたね。

あと私は、「あのとき、こうしたほうがよかった」と後悔するのが嫌なんです。結局のところ自分が選んだという事実は変えられないし、それが正解だったかどうかを考えるよりも、「正解だった」と言えるように努力するしかないと思うんです。

松下:少し前に、働き方研究家の西村佳哲さんにお話をうかがったのですが、「1本しか正解の道がないと思っている人が多いけど、後から自分が歩んできた道を正解化している大人がたくさんいる」とおっしゃっていて。

そのときに、川代さんのことが頭に浮かんだんです。

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川代:そうだったんですか! ありがとうございます(笑)。

松下:でも、なぜ自分の選択を「正解だった」と言い切れるのでしょう? 私だったら、周りに反対されたりしたら自信をなくしてしまうかもしれないです。

川代:それは、「自分の未来から逃げている罪悪感」がない選択をしてきたからかもしれないです。

私も罪悪感があったときは、「こっちを選ばなければよかった」と自信を失ってしまったり、自己嫌悪に陥ったりしてしまっていたんですよ。今は、不安は大きいけれど、罪悪感はゼロの状態なんです。

「正しいかどうか」で物事を選択するのは危うい

松下:「自分の未来から逃げている罪悪感」を抱えない道を選択するためには、どんなことが必要なんでしょうか?

川代:私の場合は、「好きか嫌いか」で物事を選択するようにしています

将来の選択肢に悩むときも、この道を選んでいる自分が好きだと思えるかどうかを考える。「正解か不正解か」で物事を見ないようにしているんです。

松下:普通は、「好き嫌いだけじゃなくて、計画的に考えて、逆算して、正しい道を選ぼう」と思ってしまいそうですよね。

川代:そうですよね。でも、そもそも「正しいかどうか」で物事を選択するのはとても危ういと思うんです。

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松下:危うい?

川代:あはい。世の中はめまぐるしく変わっているから、昨日正しいと言われていたことが明日には間違っていると言われるかもしれない。

「みんなが正しいと言っているから」という基準はふとしたきっかけで180度変化する可能性もあるんです。

松下:たしかに、たとえば超大手企業に就職できたとしても、数年後にその会社が傾いてしまう可能性もありますし......。

川代:未来の自分のことを考えて「正しい選択」をしたつもりでも、「正解」が変化したときに未来の自分を苦しめてしまうこともあり得るわけですよね。

松下:なるほど。でも、自分が好きだと思うことを信じて選ぶということは、すべて自分の責任として抱え込むことになりますよね。それって怖くありませんか?

川代:もちろん怖いですよ。でも、その不安な気持ちって全然悪いものではないんです。

松下:えっ。できれば避けたいものだと思っていたのですが......。

川代:不安って、なによりも未来へ向けた行動力につながると思うんです。不安をひとつひとつ潰す行動を考えていくと、未来に向かうToDoリストが作られていくという感覚すらあります(笑)。

それと、「悩み」も悪者扱いされすぎだと感じています。

松下:できれば悩みたくない、と思ってしまいますね。

川代:「悩んでいる暇があったら行動しろ」という言葉もありますしね。でも私は、「みんなもっと悩めや!」くらいに思っています(笑)。

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松下:それはどうしてでしょうか?

川代:不安と対峙しながら好き嫌いで選択していくことも、悩みきって選択することも、つまりは両方、「自分で選んだ」という実感を与えてくれる。それが何よりも「罪悪感」を持たないために大切なことなんだと思っています。

松下:どうしてそこまで、不安をポジティブに受け入れられるようになったのですか?

川代:天狼院書店にいらっしゃるプロの作家や、ヒットをたくさん出している編集者、そして店主の三浦の姿を見ていると、どんなすごい人たちも大きな不安を抱えているようなんです。

でも、そのビビっている気持ちを解消するために起こした行動が、目標に近づく原動力になっていると気づいて。だから、不安がない方が不安なくらいです(笑)。

悩んだことがない星野源さんは、きっと今ほど魅力的じゃない

川代:おおげさに聞こえるかもしれないけれど、不安とうまく付き合えるようになってからは、生き方も随分と変わったように思います。

松下:そうなんですか?

川代:誰かに愚痴をこぼすことがほとんどなくなりましたね。私も就活生だったときは、自分を安心させてくれる人と飲みたくてしょうがなかったんです(笑)。

たくさんの人と会って互いの考えをシェアし、それで「わかるよ」と言ってもらえたら安心できた。不安から「逃げる」ことに時間とエネルギーを使っていたんです。

松下:私も就活中は、友達と会って不安を共有することで精神を保っていたかもしれません。でも、一時的に逃げることはできても、解消したわけではないんですよね......。

川代:逃げずに直視すると、不安はその瞬間から「エネルギー」に変わります。それを解消したい、という思いが生まれるんです。

それって、めちゃくちゃ燃費がいいと思いませんか?

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松下:とはいえ、そう簡単に不安を直視できる自信がありません(笑)。うまく向き合う方法を教えてください......!

川代:私は、不安をポジティブに直視する方法はたったひとつ、アウトプットすることだと思っています。

私にとっては「書くこと」だし、「音楽」などのアートや、「仕事」だってアウトプットです。

松下:なぜアウトプットすることが、不安とポジティブに向き合うことにつながるんですか?

川代:人って誰もが、「ネガティブな感情」を持っていますよね。その感情をアウトプットすることで、コンテンツを通じて気持ちが通じ合い、それだけで前向きになれることもあると思うんです。

松下:なるほど。たしかに、誰かと通じ合うための媒体だと思えば、ネガティブな感情も無駄じゃないと思えます。

川代:不安をもとに何かしらのアウトプットを続けていけば、うまく付き合っていけるんじゃないでしょうか。それに、「つらい」とか「悲しい」といったマイナス感情をある程度持っている人のほうが魅力的だな、とも思います。

星野源さんは、大変な経験を乗り越えてきたからこそ素敵な歌詞が書けるのだし、ひたすらに明るい曲も深く感じますよね。「一度も悩んだことがない星野源さんなんて聴きたくない!」と思いませんか?(笑)

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松下:」たしかに......(笑)。そう考えると、不安な気持ちを持っていることは大切ですね。「罪悪感」とはまた違うんだ。

川代:不安は未来に対しての感情だから、エネルギーに変わっていきますよね。逆に罪悪感は過去の自分に対しての感情。過去は変えられないわけだから、罪悪感からくるもやもやは解消するのが大変です。

松下:川代さん自身は、以前よりも不安が大きくなっていると感じますか?

川代:はい。

松下:でも、川代さんのブログを拝見していると、前よりも楽しそうに書かれている気がします。

川代:それは、前よりも自分のことが好きだからかもしれません。罪悪感があるときは「自分が自分でいること」に嫌気がさして、逃げたい気持ちばかり抱えていたので。

もちろん今も嫌いなところやコンプレックスはありますが、「とりあえず逃げていないことは評価してやるか!」と思っています(笑)。不安は大きくなっていく一方ですが、前よりもずっと楽しいですよ。

執筆:多田慎介 撮影:橋本美花 編集:松下美季

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」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年4月4日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。