ただ、そこに居てほしい。「レンタルなんもしない人」への依頼から見える人間模様とは

付添い人、味方、見張り役…“ただそこに居てくれるだけの存在”に、かなりのニーズがあった
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「レンタルなんもしない人」さん
ハフポスト日本版

「なんもしない人(ぼく)を貸し出します」。

Twitterでこんな呼びかけをして話題になっている人物がいる。「レンタルなんもしない人」(本名:森本祥司、以下「レンタル」さん)だ。モノやサービスを提供するわけではなく、ただ単に「なんもしない」時間を貸し出すレンタルさん。

“なんもしない人”を謳っている以上、これといって特別なことはしないというが、それでも、毎日20~30件の依頼が来るという。

一体、どういうことなのか? 金銭のやりとりが発生しない「レンタル」、そこから見える人間模様とはーー

ハフポスト日本版のネット番組「ハフトーク(NewsX)」に出演したレンタルさんに話を聞いてみた。

「なんもしない人(ぼく)を貸し出します」

トレードマークの青いキャップを被り、「ハフトーク」のスタジオに現れたレンタルさん。スタッフの「よろしくお願いします」という呼びかけに、特に愛想笑いをするでもなく淡々と、「お願いします」と最低限の返答をしてくれた。

Twitterで話題になっているレンタルさんのプロフィール欄には、こう書かれている。

「なんもしない人(ぼく)を貸し出します。常時受け付け中です。国分寺駅からの交通費と飲食代等の諸経費だけ(かかれば)ご負担いただきます。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます」

デートをしたり、一緒に催し物を盛り上げたりしてくれる「レンタル彼女」や「レンタル友達」と呼ばれるサービスが話題になったことがあるが、そうしたものとは違って、レンタルさんの場合、依頼者が頼むことができるのは、あくまで「一緒に飲み食いすることと、ごくかんたんな受け答え」だけ。レンタルさんはほとんど何もしてくれない。

そんなレンタルさんに一体、どんな依頼がくるのだろか。これまで実際にあったという依頼内容を聞くと、“ただそこに居てくれるだけの存在”に、かなりのニーズがあることが浮かび上がってくる。

《一人で離婚届を提出しに行くのは寂しいから同行してほしいという依頼がありました。市役所に行く前に、近くのお店で一緒にランチも食べました。後で知ったのですが、そのお店は元旦那さんと婚姻届を出す時にランチを食べたお店だったそうです。一人で行くと暗い思い出として残ってしまうけど、誰かと一緒に行くことで、なんだか不思議な思い出として残ったので良かった、と言っていました。》

レンタルさんがいるだけで、“ひとり”で過ごすはずだった時間が、“誰か”と過ごした時間へと変わる。その“誰か”を求めてレンタルさんに依頼が来る。この場合、依頼者はレンタルさんの国分寺駅からの往復の交通費と、自分とレンタルさんのランチ代を負担する。

レンタルさんは続ける。

《下の階に落としてしまった洗濯物を一緒に取りに行ってほしいという依頼もありました。依頼者はシングルマザーの女性で、マンションの下の階のベランダに洗濯物を落としてしまった。でも、下の階の住民が少し怖い人で、一人でピンポンするのは心細いから、男性である僕に一緒に来て欲しいということでした。》

レンタルさんは、女性が下の階の住人を訪問するのに同行。無事、洗濯物を回収できて一件落着した。

女性がひとりで行っていたとしても、怖いことは何も起きなかったかもしれない。それでも、レンタルさんという“誰か(男性)”がいることによって、彼女は気持ち的にさぞ心強かったことだろう。しかし、レンタルさんはこの女性について、淡々とこう語る。

《その女性にとって、下の階の人が怖いという状況は今も変わってないと思うので、そういう意味では、別に彼女の状況が良くなったわけではないんですよね。》

あくまで自分はその瞬間だけその人の役に立った。それ以上でも以下でもない。

他には、「裁判の傍聴席に座っていてほしい」という依頼もあったという。

《被告から依頼されたこともありますし、原告から依頼されたこともあります。誰かが自分側の傍聴席に座っていてくれることで、味方がいる気持ちになって心強いということでした。裁判が終わった後には、一息ついて気持ちを吐露する相手が欲しいということで、少しお茶をしました。黙って聞いていただけですけど。》

《他によくあるのが、勉強や仕事を怠けないように、隣に居て見ていてほしいという内容です。一人で作業をしているとついサボってしまうので、誰かに見られていることを意識することで、サボらないで作業ができるということですね。》

ここでもレンタルさんはただ居るだけ。勉強を教えてあげたり、仕事を手伝ったりすることはないという。

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「レンタルなんもしない人」さん
ハフポスト日本版

 自分が無理をしないでできることをやる

これまでの依頼例をいくつか見てわかる通り、“なにもしない”を謳っているレンタルさんだが、本当に一切“なにもしない”わけではない。依頼の場所まで出向くこともあれば、初対面の依頼者と食事をしたりする。簡単な受け答えレベルとはいえ、会話だってしている。

では、レンタルさんの考える“なんもしない”とはどういうことなのか?

《僕が言う“なんもしない”とは、“自分が無理をして何かをする”ということをしない、とい意味です。そこが依頼を受けるかの判断基準でもあります。

例えば、ゲームセンターで一緒に遊びたいという相談があったとして、僕がゲームが強かろうが弱かろうがただ一緒にいればいいってことならOKですが、本気で対戦したいと言われたら、ちょっと…。無理ですね。ゲームのうまさとか求められると「なんもしない」ではなくなっちゃうので。

自分が少しでも無理をしないと出来ない依頼であれば、“なにかしている”ということになるので断ります。一方で、“なんもしていない”と自分が感じる程度の依頼であれば引き受けます。「何かしている感があるかないか」で決めています。》

「おもてなし精神」の真逆にあるもの

レンタルさんは、なぜこのようなサービスを始めたのだろうか。それは過去の経験に基づいていると話す。

《かつて、いわゆる一般的な会社員をやっていた時期もあります。でも、上手くいかなかったんです。何かしようとしても、いつもその通りにならなくて失敗ばかりしていました。仕事って続けていくと、求められるものが徐々に大きくなっていくじゃないですか。期待に応えるために、無理をしてでも「何かやらなきゃ」ってなりますし、そういう姿勢を周りからも求められます。その「何かやらなきゃ」というプレッシャーに耐えられなくなったんです。だから決めたんです。失敗ばかりの自分はもう「なにもしない」のがいいって。》

金銭のやり取りが発生するサービスの場合、提供する側は「お金をもらっているんだから、ここまではやらなくちゃ、やってあげたい」、サービスを受ける側は「お金を払っているんだから、もう少しやってくれてもいいのではないか」など、ついつい相手に求めてしまう。

レンタルさんは、その「ついつい求め合う」感じを“拒否”する。最初から“何もしない”と公言することで、自分に求められるハードルを最低限にまで下げているし、依頼者も、レンタルさんには約束以上のことを期待したりはしない。そうやって関わり合いの範囲をきちんと決め、求め合いすぎないことによって、レンタルさんは結果的に、真摯に他人の役に立っている。

「おもてなし精神」の真逆にあるレンタルさんの活動が、ここまで多くの人に求められる裏側には、世の中の、過剰すぎるサービスへの疲労感もあるのかもしれない。

さて、そうはいっても気になるのが、レンタルさんの収入だ。レンタルさんの活動は、基本的には実際かかった費用しか受け取っていないので、当然収入にはなっていないという。貯金を切り崩しながら生活しているというレンタルさん。今の活動は「いつまで続けるかはわからない」と話す。とことん、義務や約束とは無縁のスタンスだ。

そんなレンタルさんが、2019年4月と5月に本を出版した。これまで実際にあった依頼内容と、そこにまつわるエピソードをまとめたものだという。

人生で初めて本を出版したということで感想を聞いてみると、なんともレンタルさんらしい答えが返ってきた。

《僕は「なんもしてない」んですけどね。編集さんが頑張っていました。僕はインタビューで聞かれたことに答えただけです。そしたら本ができていました。》

レンタルさんの「なんもしない」日々は、いつまで続くのだろうか。
【文:湯浅裕子 @hirokoyuasa/ 編集:南 麻理江 @scmariesc