サーキュラーエコノミーで大切なのは、「捨て方」のデザイン。企業、個人、自治体が今からできること

サーキュラーエコノミーの視点で「ヘアドライヤー」を見てみたら...? 第1回 大山貴子の「私と企業と地域のサーキュラーエコノミー」

サーキュラリティ(循環性)ってなんだ?

初めまして。大山貴子です。企業や地域コミュニティとともに、食や環境の循環モデルを創出していく立場から、「サーキュラーエコノミー」をテーマにお話したいと思います。

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鹿児島県薩摩川内市で開催した「循環を考える料理教室」より

まず初めに、自己紹介をさせていただきます。 

仙台生まれ。高校在学中に、仙台市の姉妹都市交流で訪れたアメリカのテキサス州ダラスにて、ホストファミリーの知り合いから初めて受けた人種差別の経験をきっかけに、「差別ってなんだ!」という関心を持ち、ボストンにあるサフォーク大学に入学しました。社会学と国際政治学を専攻し、中米エルサルバドルに留学したり、ウガンダで児童兵だった子たちとともに社会の不条理に対して泣き叫んだりしながら、卒業。

その後、ニューヨークで新聞社やEdTechスタートアップで働き、日本に帰国後は広告クリエイティブエージェンシーや、サスティナブルコミュニティを作ることを目指した極小カフェの運営を経て、2020年に株式会社fogを創業しました。

そんな私が、なぜサーキュラリティ(循環性)にたどり着いたのか。これまでの人生を振り返ると、人道支援、メディア、教育、広告、食などの取り組みを通じて、ずっと「“適切な”営みとはなんだ?」という問いを探求してきたのだなと、最近自分のなかで気づきました。

「適切な」とは、「その場や状況においてもっとも安定して当てはまる様」を意味します。今を生きる私たちが無理をすることなく、永続的に存在しつづける状態や環境を追求した結果、生物のベースとなる食や農業の循環にたどり着きました。

「予測不可能と言われるこの先の未来に多様な種が生き残っていくために、必要な、適切な状態の土壌や環境・文化をその地域に作るのが、サーキュラリティ(循環性)だ」と自分自身は定義づけています。

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12月26日からスタートする環境省事業「ローカルSDGsリーダー研修 migakiba」いわき現地視察

サーキュラーエコノミーの本質

さて「サーキュラリティ」と「サーキュラーエコノミー」について話をします。どちらも日本語にすると「循環性」と「循環経済」と訳されます。最近は、SDGsやエシカル、気候変動といったキーワードとともに、これらの単語を耳にすることが多くなりました。

また、世界では大量生産・大量廃棄によって資源の枯渇を促してきた従来の経済モデルから循環経済モデルへの転換が進んでいます。日本でも世界的な経済モデルへの移行の潮流に遅れを取らぬよう、経済産業省が循環経済の目指すべき基本的な方針を定めた「循環経済ビジョン2020」を発表するなど、注目されている分野です。

さて、講演などで、参加者のみなさんに「サーキュラーエコノミー」について、「どんなものでしょうか?」と問いかけてみると、「ゴミを捨てずにリサイクルやアップサイクル、リユースなどをすることでしょう?」と答える方が少なくありません。

しかし、そうした廃棄物の再資源化はサーキュラーエコノミーの一側面にすぎません。

「サーキュラーエコノミー」は、原材料の調達から生産プロセス、顧客が購入し、最終的にそれを廃棄するまでのサプライチェーンの再設計・再定義を実施し、全行程において循環しうるモデルに変えていくことを意味します。これから先の未来を作り経済活動を持続させるために必要な経済の概念です。

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捨て方、デザインしてますか?

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株式会社ナカダイ主催「廃棄物にしないプロジェクト展」

日本におけるサーキュラーエコノミーのオピニオンリーダーのひとりであるナカダイ代表取締役の中台澄之さんは、「サーキュラーエコノミーは、捨て方をデザインすることが重要」とおっしゃっています。

ゴミをゴミではなく、モノや資源と認識することで次のライフサイクルに繋げる。

そのためにも商品を生み出す作り手が、商品開発や原材料調達などの生産時に、製品寿命と素材レベルに合わせて2次利用、3次利用を見据えて、長期的な循環や再生を視野にいれた商品のデザインしていくことが必要です。

例えば、ナカダイを訪問したときに興味深かった、ヘアドライヤーの廃棄についてのお話。ヘアドライヤーは、おおまかにプラスチックで覆われている外面と、金属製の熱源とファンからできています。

本来であれば、廃棄物処理施設でプラスチックと金属に分けることでリサイクル可能であるはずですが、現在流通している商品の多くは、外面のプラスチックが強力な接着材で貼り付けられ分解しづらい構造になっているため、現状ではまとめて焼却処理をするしかないそうです。

商品開発の過程で、捨てることも前提としたプロダクトデザインになっていれば、廃棄されずに循環しつづけるサプライチェーンに組み込むことが可能ですが、その多くは、捨て方、そしてその先までを見据えたデザイン設計されていないのが現状です。

この話を聞いた後、私は母親のお古のヘアドライヤーを譲り受けて使い続けています(笑)。

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母親から引き継いで使い続けているドライヤー。最近は風力が弱くなってきたから近々分解、整備してみようと思っている。

循環か廃棄か、あなたの選択は?

ここまでは企業目線でのサーキュラーエコノミーの話をしました。では、私たち消費者は、日常生活でどんなアクションができるでしょうか?

サーキュラーエコノミーを消費者の目線から見た時も、実はやることは変わりません。私たち消費者は、ある商品を購入した時点から、生産者や販売者からサプライチェーンのバトンを受け取り、消費と廃棄パートを再設計する担い手となります。

買う前に「なぜ自分はこの商品を買うのか」「何年使うのか」を意識したり、その商品を使い終わった後の循環を意識したりすることが必要です。

商品は、捨てたら自分の目の前からなくなりますが、物質的に消失するわけではありません。それが次のサプライチェーンの循環に乗るのか、ゴミとして廃棄されるかは、あなた次第。次の担い手にバトンタッチできるかは、あなたのアクションにかかっています。

どうしても使わなくなったものは、フリーマーケットやいま人気のフリマアプリなどで次の持ち主に繋げる。

靴やバッグなどは、壊れてしまっても修理サービスを利用して使い続ける。例えば、「Tabete」というアプリを使い、お店で売れ残りフードロスになりかけている食べ物を安く購入することもできる。

…というように個人レベルでもできることはたくさんあります。

また、購入する前に自分のニーズを再定義することも大切です。「なぜこれを買うのか?」と自分自身に問いかけ、意識的に「選択」していくことが大切です。

例えば、ペットボトルの飲料水も、目的はペットボトルの水を購入することではなく、喉が乾いたから潤したいということであり、それを解決するのはペットボトルの飲料水を買うだけが選択肢ではありません。

最近では「mymizu」という全国の無料給水所を検索できるアプリもあります。水筒などのマイボトルを持ち歩く人も増えましたが、出かける前に飲み物を入れ忘れたとしても、マイボトルをカバンに入れておけば、新しい廃棄を生み出さず、しかも無料で水をゲットでき、あなたの喉の渇きを潤してくれます。

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LUSH 新宿店「Holiday Market」に設置されているmymizuの給水スポット

あとは、なるべく“小さな循環”を意識していくことも大切です。一番簡単なのは食べ物の循環です。

コロナ禍で、家庭菜園や生ゴミを処理する「コンポスト」を実践する人が増えましたが、これは個人で行える小さな循環の一つですね。

私はスーパーマーケットで野菜などの産地や、商品の原材料名や、原産国を確認して、なるべく住んでる地域から近く生産者の顔がわかる商品を購入することを心がけています。

そうすることで購入した食べ物の産地や生産者などに愛着が湧き大切にしようという意識が生まれますし、サプライチェーンのループを小さくし、輸送時におけるエネルギーロスも少なくなります。

スーパーマーケットだけでなく、昔ながらの八百屋さんや豆腐屋さんなどの個人商店から購入することも、地域内経済を動かしながら、サプライチェーンを短く、そしてお願いしたらパッケージフリーも購入できる、といった面で、個人ができるサーキュラーエコノミー的な経済活動といえます。

 

小さな循環を実現する「ファブシティ」とは

産業レベルにおいても個人レベルにおいても大切なことは、一つ一つの商品がサプライチェーンにおいて、どのような資源の利活用とプロセスを経れば、循環的な仕組みが構築されるのかを、各所の担い手が意識し抜本的に再設計しなおしていくことです。

それ以外に地域で小さな循環を実現する一例として、スペインのバルセロナが取り組む「ファブシティ」というプロジェクトを紹介します。

ファブとは、「Fabrication(ものづくり)」と「Fabulous(楽しい)」から作られた造語です。この言葉から生まれたファブラボは、「“ほぼあらゆるもの”を市民が自由に作れること」を目標に、3Dプリンタやカッティングマシーンが備わっている施設で、日本を含む世界各地に点在しています。

このファブラボを「施設」から「都市」に拡張させた概念がファブシティで、2014年にはバルセロナ市長が「2054年までに、地域で消費するあらゆるものを生産する都市」を目指すファブシティ宣言をしました。

ファブシティは、「データと知識といった無形資産はグローバルで共有しながら、生産と消費、循環はローカルで完結させる、自立分散型の新たな都市像」と定義され、今では世界28都市が加盟するグローバルネットワークとして大きく広がっています。

ファブシティでは、これまで世界中に点在していた生産と流通、消費を、デジタルテクノロジーによって地域内で完結させることを目指し、流通におけるCO2使用量を軽減させます。さらに市民一人一人が生産に関わることで、地域内コミュニティのレジリエンス(回復力)を高めていきます。このように自治体のリードのもとサプライチェーンの再設計を進めているのです。

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ファブシティでは、国外の工場で大量生産されたプロダクトを輸入し、消費した後にまた国外で廃棄する従来のモデル「PITO(=Product In, Trash Out)」から、データや知識などの無形資産はインターネットを介してグローバルに共有しながら、地域内の食糧や製品など有形資産はローカルで製造、使用後は資源として地域内で循環させていく新たなモデル「DITO(=Data In, Data Out)」への転換を目指しています。

先日とある紡績工場の方から、「コロナ禍で人々の購買行動が変化したことによって、アパレルブランドの服の発注量に変化が生まれた」というお話を聞きました。消費者の購入が減った結果、売上予測量に対して150%生産をしていた以前に比べ、売り切ることを前提に生産量80%に切り替えたアパレルブランドが増えたそうです。

産業革命以降、私たちは生産と消費を無限に繰り返し、当たり前のようにゴミを排出し続けてきました。

この社会システムの問題点が指摘され始めているいま、市民が暮らしていく上で必要なものを、デジタルとテクノロジーを活用しながら必要な分だけ生産し、消費、さらには循環を実現することを想定するファブシティは、この先の未来に明るいサーキュラーエコノミーの姿だといえます。

 

さあ、日本はどうなる?

日本の企業や地域においても、サーキュラーエコノミーへの転換期がこれから訪れようとしています。環境課題は遠い世界の話のように感じられますが、減り続ける資源をこのまま大量消費しつづけるのか、10年20年といった長期視野での原材料の調達や生産に転換していくのか。 

今から本気で取り組んでいかなければ、地域の資源も失われ、企業、さらには国家としての競争力も衰退していく可能性があります。だからこそビジネスモデルを循環型にシフトしていくことは必要不可欠です。

最後に、サーキュラーエコノミーは、この先の未来に私たち人間や地球の営みが続いていくうえでは基礎となる状態にすぎません。最終的な目標は、私たちや多様な種がいかにして持続可能に生き続けるかです。このビジネスモデルに“答え”は存在せず、あくまで挑戦と実装を重ねて、変わりゆく環境やテクノロジーの進歩に合わせて軌道修正しながら、絶え間なく続けていくことが必要だと考えています。

次回は、「サーキュラーな社会を日本で作ることは、なぜ必要か」について書きます。

大山貴子 

1987年仙台生まれ。米ボストンサフォーク大卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2015年に帰国。 日本における食の安全や環境面での取組みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトにてフードロスを考える各種企画やワークショップ開発。株式会社fogを創業。人間中心ではなく人間が自然の一部として暮らす循環型社会の実装を、プロセス設計、持続可能な食、行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ開発などの視点から行う。

環境省主催のプロジェクト「ローカルSDGsリーダー研修プログラム “migakiba(ミガキバ)”」運営事務局を担当。新たな循環を生み出すプロジェクトをつくる実践型人材育成プログラム。参加者募集中。 

(文:大山貴子 編集:笹川かおり)