『人的資本経営』とは?3つのポイントで解説。「働く人の心を掴みにいけるかが大事に」と専門家

リスキリングで注目される「人的資本経営」ですが、他にもポイントがあります️専門家は「企業側が働く人の心を掴みにいけるかどうかが、最終的に大事になってくると思います」と語ります
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「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えてきた。

人が持つ経験、知識、スキルといった人的資本の価値を大事にして、引き出していく経営のことで、いま話題のリスキリング(学び直し)もその取り組みの一つ。

ただ、働く一人一人にはどんな形で影響してくるのか見えにくい気も…。リクルートHRエージェントDivisionリサーチグループマネージャー兼研究員の津田郁さんにポイントを聞いた。

【この記事に書かれていること】

① 人的資本経営とは?なぜいま注目?

② 学び直しの前に知っておきたい自分の「知識・経験・スキル」

③ 開示の流れとこれから

 

人的資本経営とは?なぜいま注目?

━━なぜいま人的資本経営が注目されているのですか?

人材を企業が管理する「コスト」として捉えるのではなく、成長のための「投資の対象」と捉える側面が強くなっています。イノベーション創出に向けて、コラボレーションをしてアイデアや価値を生み出すために、人的資本に注目が集まっているんですね。

2つの背景があると考えています。一つは経済的な観点です。

そもそも、企業には6つの資本があると言われますが、これまで重視されてきた「財務資本」や「製造資本」から、企業の価値を生み出す源泉が「知的資本」や「人的資本」に移っています。

産業構造が製造業中心から知識集約型産業に変わり、人材を含めていわゆる「見えない資産」に企業価値が変化しています。

もう一つが、社会的な観点です。ESG投資をはじめ、持続可能な社会に向けて、限りある資産・資源を大切にしていこうという世界的な流れがあります。その中に人材も含まれます。

 

学び直しの前に知っておきたい自分の「知識・経験・スキル」

━━いま大企業を中心にリスキリング(学び直し)が盛んになっていますが、これも人的資本経営のひとつなんですよね。他には具体的に、どのような取り組みを指しますか?

企業の人的資本投資を人材価値の向上、活用、循環という3つの観点で整理しています。

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取材をもとに編集部作成
ハフポスト日本版

リスキリングは「人材価値の向上」に含まれます。ただ、この人材価値の向上に、やや議論が偏っていると感じています。

━━どういうことでしょう?

先進諸国に比べて、日本は学び直しにかけるお金が少ないと言われていて、確かに頑張っていくべきところなのですが、本当に人材を生かしていくためには、「活用」とセットで考えることが大事です。

ひとつデータをお見せします。1万人を対象に、今の仕事が自分にとって最適な配置だと感じるか、仕事に関する自分の知識やスキル、経験を言語化できているか、将来やってみたい仕事に就くためにどんなことが必要かーーなどについて聞いた調査があります。

結果を見ると、それぞれの項目で「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人は合わせて2〜3割台にとどまり、4割超が「どちらともいえない」と考えていました。これが「人的資本をあまり生かせていないのではないか」という企業側への問題提起にもつながると思います。

 

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リクルート

 

その人に合う仕事をアサインしたり、より成長する機会を提供したりするためには、知識やスキル、経験に着目して、ちゃんと言語化することがまず必要です。学び直しをするにしても、現状を知らなければ、目指すところとどのくらいギャップがあって、どんな学び直しが必要かもわからないですよね。

まずは企業側がもっと、それぞれの強みを把握することが必要ではないかと思います。

同時に、働く一人一人にも、自分の強みは何かとか、今後どういうスキルを身につけたいかとか、企業任せにするのではなくて自ら声を上げていくことが必要になってくるかなと思います。

━━言語化ですか…なかなか難しいですね。必要なスキルも変化が激しそうです。

そこがポイントでして、企業がスキルの共通言語みたいなものをきちんと作ってあげることが第一なんですよね。

例えば営業職だと、これまで必要だった営業スキルに加えて、いまはデータ分析をして戦略を考えるスキルも必要になります。そうしたものを定期的に考えて、浸透させていくことも大事だと思います。

そういったスキルの共通言語を土台にして、上司と自分自身の強みや課題を議論したり、現状を認識していく。職場でこういったコミュニケーションが増えていくといいですね。

━━ただ、産業構造の変化もあって、働き手が自分のスキルや経験を言語化できたとしても、必ずしも「自分にとって最適な仕事」に就けるとは限らない状況にどんどんなっていますよね。企業側の考えと、働き手の思いがずれたとき、解決のヒントってあるんでしょうか?

働き手の声をきちんと聞いているか、納得感の問題が相当あると思います。企業から「あなたのこの経験が生きると思うから、こういう部署に行ってほしい。こういうことを期待している」という一言がちゃんとあるかどうか。

人的資本は「心を持つ資本」だと思っています。突き詰めていくとやはり人間同士の関わりなんですよね。納得感があるかどうかで、その人のパフォーマンスが変わってくる。それが人的資本の面白みであり、難しさでもあります。そこまで企業側が働く人の心を掴みにいけるかどうかが、最終的に大事になってくると思います。

個々の働き手にとっては、「変化対応力」が大事になると私は考えています。ちょっと噛み砕くと、自ら変化を認識して、自ら学んで変わっていけるような力かなと思っています。

 

 開示の流れとこれから

━━人的資本に関わる情報開示も進みます(*)。開示の流れについてはどう見ていますか。

開示の流れ自体は歓迎しています。企業の経営層の関心はとても高いと聞きます。

これまで社内で活用することにとどめていたような様々な情報を、どう整理し、開示するかが喫緊の課題にもなっています。

これまでにない取り組みで、開示自体は歓迎するのですが、開示で終わるのではなくて、そこをきっかけに人的資本を見つめ直す流れに向かうと良いなと思います。

日本企業の中には元来、「人本主義」という言葉があります。人の力を大事にして、価値を発揮してきた企業はたくさんあります。そういった企業には、ぜひ堂々とこれまでやってきたことを示していただくのが良いと思います。

《* 政府は8月、人的資本経営に関わる情報の開示に関する指針を公表。人材育成やダイバーシティーなどの分野について、企業が情報を開示することを奨励するという内容となっている。岸田文雄首相は10月の所信表明演説で人への投資を掲げ、「5年間で1兆円」に拡充すると打ち出した。》