「今こそ、グローバルサウスへの“加害”を止める」日本の若者がバングラデシュの石炭火力中止に立ち上がる理由

「気候変動や開発でめちゃくちゃになっているのがアジアで、僕らはそこのZ世代なんです」
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日本の若者たちが、日本の政府や企業がバングラデシュで関わる石炭火力発電所建設事業に抗議の声をあげている。

彼らを突き動かすのは何なのか、その思いに迫った。

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国際協力機構(JICA)の建物の前で抗議活動をするFridays For Future ジャパンのメンバー
Fridays For Future ジャパン

始まりは2021年6月、気候変動対策を訴える若者グループ「Fridays For Future(FFF)ジャパン」のSNSに届いた一通のメッセージだった。

差出人は、FFFバングラデシュのメンバー。

国際協力機構(JICA)を通じた日本政府の融資によって、住友商事がバングラデシュのマタバリ地区で建設を進める石炭火力発電所建設に抗議する内容だった。

詳しく話を聞こうと繋いだテレビ電話。「今すぐ止めてほしい」「こんな不公正があっていいのか」。画面越しに伝わってくる憤りと切実な訴えに、メンバーは言葉を失った。

石炭火力は、温室効果ガスを多く排出するため世界中で廃止が進んでいる。そのため、発電コストも上がっており、将来は「座礁資産」になる可能性も高い。バングラデシュは海抜が低く、気候変動による海面上昇で国土が失われると懸念され、災害にも脆弱な発展途上国だ。にも関わらず、「途上国支援」という名のもと、新たな石炭火力発電所が建設されようとしているという。さらに、埋め立てや工事によって住居や仕事を失った地元住民が「十分な補償がない」と訴え、激しい抗議活動を起こしているとも聞かされた。

まさに「寝耳に水」の話だった。問題について報じている日本のメディアもほとんどない。しかし、海外の環境NGOからはこう突きつけられた。

「こんなに声が上がっていないのは日本だけですよ」

筑波大学修士2年の荻田航太郎さん(28)の耳には、今もその言葉が残って離れない。

「俺たちはこれまで一体何をやってきたんだろうか」。そんな悔しさが渦巻いた。

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荻田航太郎さん
Maya Nakata / Huffpost Japan

「段ボールに抽象的なスローガンを掲げるだけでは、全然意味がない」

荻田さんが気候変動運動に加わるようになったのは「気候正義(climate justice)」という言葉に出会ったことが大きい。

先進国や富裕層が温室効果ガスを大量に排出しながら便利で快適な生活を送っているのに対して、発展途上国や貧困層は気候変動が引き起こす洪水や熱波などの最も甚大な影響を受け、貧困にあえぎ、命をも脅かされている──。そんな「不公正」を是正しようという考え方だ。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんによる抗議活動を機に広がった若者の気候変動運動のスローガンになり、世界中に知られるようになった。

新卒で入社したテレビの制作会社で長時間労働やパワハラに苦しんだ荻田さん。気候変動がもたらす不公正は、労働現場で起きている搾取や人権侵害と通ずるものを感じた。「誰かの犠牲の上に成り立ってる社会に違和感を抱えてきた。公正な社会を作りたい」。気候変動対策を訴えるプラカードを掲げて、デモ行進などにも積極的に参加してきた。

だが、その間にも、途上国には新規の石炭火力が輸出されようとしていた。それも、本来ならば自分たちの声を直接届けられたはずの日本の政府や企業によって。

「段ボールにいくら抽象的なスローガンを掲げても、具体的な一つのプロジェクトを止められなきゃ全然意味がない。このままじゃだめだ、今すぐ運動をシフトさせないと」

 「事業を続行すれば、人の命に関わる」住友商事やJICAに申し入れ

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東北地方在住のメンバーは、住友商事東北株式会社に申し入れた=2021年10月22日
Fridays For Future(FFF)ジャパン

2021年9月、荻田さんらは住友商事と国際協力機構(JICA)に対して事業の中止と撤退を求める公開要求状を送付し、その後、それぞれの本社・本部に直接申し入れをした。

「事業を続行すれば、人の命に関わる。すぐに止めてほしい」

荻田さんと一緒にFFFジャパンで活動する山本健太朗さん(25)は、住友商事の担当者にそう迫った。

「『人命も大事だが、契約がある』と言われた。人の命や生活はそもそも何かと相殺したり天秤にかけたりできるものなのか」

憤りを感じる一方、冷静に見れば「動いているのは数千億円という莫大なお金。説得で変えられるものではない」。

国内外からの圧力をさらに強めようと、FFFバングラデシュのメンバーとシンポジウムを開催したり、署名活動を展開したりした。

国際的な脱石炭の潮流のなか、マタバリの事業には投資家も批判を強めていた。住友商事の株主である環境NGOは2021年3月、マタバリの事業への同社のさらなる参画に反対した上で、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出。6月の株主総会で否決されたが、20%の賛成が集まった。

住友商事は2022年2月、これまで参画への方針を保留していた第2期工事の入札には加わらないことを表明し、政府も6月に支援を中止した。一方、着工済みの石炭火力発電所2基の建設は続いている。

「僕たちの目標は最初から、計画を完全に止めること」。FFFジャパンは、事業の全面中止を求めて、抗議を続けている。

グローバルサウスの人々と「共に」声を上げる意味

マタバリの事業中止を国際社会に訴える場として、FFFジャパンのメンバーが臨んでいるのが、11月6日からエジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)だ。

わざわざ現地に足を運ぶのは、世界のリーダーが一堂に会する場で抗議活動をするということ以上に、バングラデシュなどMAPAと呼ばれる地域の活動家らと直接会い、共に声をあげることに意味を感じているからだ。

MAPAとは、気候変動の影響を最も受ける人々や地域(Most Affected Peoples and Areas)のこと。主に、グローバルサウスと言われるアジアやアフリカ、南アメリカの発展途上国とそこに暮らす人々を指す。

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2022年3月22日の「気候マーチ」で、マタバリの事業に抗議するバングラデシュの活動家
Fridays For Future ジャパン

FFFジャパンのメンバーには、MAPAの活動家たちから幾度となく突きつけられてきた、忘れられない言葉がある。

「私たちは声なき存在ではない。声をあげてきたのにも関わらず、あなたたちが無視してきたんだ」──「あなたたち」とは、日本など先進国に暮らす自分たちのことだ。

荻田さんは、この言葉にあることを気付かされたという。グローバルサウスの人々の声が無下にされてきたことが、彼らに対するさらなる「加害」を生み出してきたという現実だ。

「グローバルサウスの人々が抵抗したり戦っていたりする姿は無いものとして扱われて、彼らの無力でかわいそうな絵だけが描かれてきた。そのことが、先進国によるグローバルサウスへの身勝手な開発や援助の口実となり、マタバリのような加害が隠され、正当化されることに繋がっている」

「これまで僕らは、グローバルサウスの人々に十分に連帯できてこなかったという反省がある。だから今度こそ、抵抗をするバングラデシュのメンバーと一緒に声をあげて、加害を止めていかなければならない」

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山本健太朗さん
Maya Nakata / Huffpost Japan

 取材中、山本さんと荻田さんは何度も「“アジアの”僕ら」「“アジアの”運動」という言葉を使った。なぜなのか。そう尋ねて返ってきた言葉には、彼らの「連帯」への強い意思が表れていた。

「僕たちは国籍は日本かもしれないですが、アジアの、世界の一員なのだから。『日本』『日本人』と考えるより、気候変動の影響を最も受けるとされるこのアジアで、気候変動の影響で貧困にあえぐ人や開発で土地を奪われた人たちと一緒にいかにグローバル企業や政府に立ち向かっていくかを考えなきゃいけない。気候変動や開発でめちゃくちゃになっているのがアジアで、僕らはそこのZ世代なんです」(山本さん)

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#COP27の現場から
Maya Nakata / Huffpost Japan

【予告】ハフポスト日本版とFFFジャパンのコラボ企画「 #COP27の現場から 」

 ハフポスト日本版はCOP27に参加するFFFジャパンと特別コラボ企画を実施します。

メンバーがMAPAの活動家に突撃取材するインタビュー動画やCOP27に参加した感想を綴るオリジナルブログなどを準備中。

コンテンツはTwitterやInstagramなどで #COP27の現場から で発信します。