いま一度読みたい草枕を絵本で ある会社員の試み

「唯だ一種の感じ―美しい感じが読者の頭に残りさへすればよい」と漱石が語っていたことをヒントに、絵本で読むとまたちがった味わいが出るかもしれない...

「草枕」の中の桜のシーン

夏目漱石が4年3カ月過ごした熊本が舞台の小説「草枕」。

「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」と有名な冒頭から始まる。当時の小説らしくなく、ストーリーよりも情景が続く小説だ。

漱石作品の中でも挑戦的小説とされる草枕への情熱を抑えきれずに、草枕の魅力を絵本という形でこの世に送り出そうとしている人がいる。

東京都の会社員、小須田祐二さん(53)だ。草枕を齢を重ねて改めて読み返してみて、新しい発見をしたという。

「唯だ一種の感じ――美しい感じが読者の頭に残りさへすればよい」と漱石が語っていたことをヒントに、絵本で読むとまたちがった味わいが出るかもしれない、と思ったのがきっかけという。

漱石は明治39年11月に「余が『草枕』」(「文章世界」1巻9号)で、こう草枕での小説家としての挑戦を記している。「私の『草枕』は、この世間普通にいふ小説とは全く反対の意味で書いたのである。唯だ一種の感じ—美くしい感じが読者の頭に残りさへすればよい。それ以外に何も特別な目的があるのではない。さればこそ、プロツトも無ければ、事件の発展もない。」

漱石が「美を生命とする俳句的小説もあつてよいと思ふ」とした草枕の耽美的な情景を、小須田さんは、展覧会で知り合ったいとう良一さんの水彩画と共にしたためた。

絵にはこだわった。

「読者の自由な想像力を妨げない、リアルではない、空気のような絵。『草枕』の美しい感じ、春の朧(おぼろ)な空気感、雨、湯気、水といった全体をおおう「しっとり」とした感じ。そして全編の主題とも言える「憐れ」を感じてもらえるような絵を探していました。そんな時、いとうさんの手書きの水彩画が草枕の世界に読者を引き込むのに一番合うと思いました」と小須田さんは話す。

こうして、「本のどこを開いてもおもしろい」と小須田さんがいう小説「草枕」は、21枚の絵と、書き改めた文章を合わせ「絵本 草枕 ~kusamakura~」として完成する予定だ。

小学校高学年~大人向けの内容で、B5横、48ページのハードカバー。出版社を介さず、2017年2月に、約500部限定で刊行するつもりだ。

作品に惚れ込み数回訪れた熊本県玉名市の地を歩くと、まさに小説と同じ風景が広がっていたという。

小須田さんは「竹藪を抜けてその坂道を登り切ると急にみかん畑が広がり、広がる有明海の向こうに雲仙岳がみえました。そんな熊本で生まれた俳句のような小説『草枕』の世界を楽しんでいただければ」と話している。

製作資金をクラウドファンディングA-portで集めており、支援額に応じて絵本をいち早く手にいれることができる。

新しく作る本の原型を手に持つ小須田祐二さん=朝日新聞社撮影

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